少し涼しげな秋の夕暮れ。
旦那とけんかして、髪を濡らして玄関に立っていた。そよ風に吹かれながらただ時が過ぎるのを待った。
「こっちにおいで。そうカリカリするなよ」そう言って夫がドライヤーを持って来た。
このままでは埒(らち)が明かないから、その言葉に甘えるように椅子に腰かけた。庭一面に咲いたきれいな花を前にして、言葉が出なかった。
少しずつ落ち着きを取り戻し、耳元をよぎる温風が心地よく感じられた。
「もしかしたら数十年後、同じような夕暮れ時に、この瞬間をふと思い出すかもしれないね」
長い間沈黙していた夫が口にした言葉には、隠された悲しみのようなものさえ感じられた。
「あなたはどうなの?」
夫は手に持っていたドライヤーのスイッチを切り、微笑んだ。そして再び温風で髪を乾かしてくれた。しばらくして夫はこう言った。
「先に旅立っているかも」
その声は落ち着いていて、しかしはっきりとしていた。そして、今まで黙っていた夫の心の中にある痛みを一瞬、垣間見たように思えた。
夫婦になるのも前世からの因縁といわれているが、せっかく夫婦になっても一緒にいられる時間はそう多くはない。それなのにいつも最愛の人を傷つけてしまうのはなぜだろうか。何度でも許してくれることに対する慢心なのだろうか。
もし因果応報が本当にあるのなら、数十年後の秋の夕暮れ、咲き乱れる花を前に一人立ち尽くすことになるだろう。二人で過ごした日々を思い出し、悲しみと後悔の念にさいなまれ、ただ時が過ぎるのを待つ。背後からやさしく声をかけてくれる人は、もういない。
今からでも遅くはない。湿った眼の縁をハンカチで拭き、心の中でそっと誓った。
(文・王亜麗/翻訳編集・玉竹)