科学者たちは、最もありふれていて、かつ耳障りな音のひとつである「水滴の音」にまつわる謎をついに解決しました。さらには、それを止めるための簡単な解決法をも提案しました。その解決のカギとなる「ある物」は、既に私たちの台所にあるというのです。

 ケンブリッジ大学の研究者たちは、超高速カメラと最新のオーディオキャプチャ技術を用いて研究を行いました。その結果、水滴が液体に衝突する際の「ポチャン、ポチャン」という音は、水滴自体ではなく、水の表面下に閉じ込められた小さな気泡が振動することで生じることが明らかになりました。

 気泡は、水面自体を振動させる力として働きます。それはまるで、ピストンのように働き音を発生させるのです。さらに研究者らは、洗浄液を加えるなどして表面張力を変化させれば、その音を止めることができると発見しました。この結果は6月22日付のScientific Reports誌に掲載されます。

 これまで多くの人々が、水漏れした水栓や屋根からの水漏れ音によって目を覚ましていたにも関わらず、この音がなぜ発生するのかは知られていなかったのです。この研究を主導したケンブリッジ大学のアヌラグ・アガワルアル博士は次のように述べています。

 「水栓が水漏れする物理的な仕組みについては多くの研究が行われてきましたが、その『音』については多くの知見があるとは言えない状況でした。しかし、現代の映像・音声技術のおかげで、我々はついに、どこから音が出ているのかを正確に突き止め、それを止める方法を発見するに至ったのです」

 音声研究所を率い、エマニュエル大学のフェローも務めるアガワルアル博士は、家の屋根が水漏れしている友人宅を訪問した際に、この問題を研究することに決めたと言います。博士は、宇宙空間における空気力学・家電製品・生医学応用分野の研究結果を掘り下げることで、この問題にアプローチしました。博士は次のように述べています。

 「友人宅で、私は天井から漏れてくる水の音に悩まされて眠れず、この原因を考え始めました。その翌日、私は友人や学者と共にこの問題について話し合いました。しかし、誰もが『音』の原因を正確に答えることができず、我々はさらに驚いたのです」

 ポワティエ大学のピーター・ジョーダン博士とエマニュエル大学のサム・フィリップス氏からの協力を得て、博士はこの問題を調査するための実験を開始しました。彼らは、超高速カメラ・マイク・ハイドロホンを使用し、水槽に落下する際の水滴の様子を記録しました。

 水滴は1世紀以上にわたり科学的な好奇心の源となってきました。水滴が落下する際の衝撃を捉えた最初の写真は、1908年に発表されています。以来、科学者たちはその音の源を見つけようと様々な試みを続けてきたのです。

 水滴が液体の表面に当たる際の流体力学については次のようなメカニズムが知られています。水滴が液体の表面に衝突すると、その衝撃で液体の表面に空洞が形成されます。次に、液体が表面張力によって急速に反動することによって、液体の上には柱が生じます。水滴が衝突した直後、空洞は非常に速く反動するので、その結果、小さな気泡が水中に閉じ込められます。

 これまでの研究では、「ポチャン」という音は、衝撃そのもの、空洞の共鳴、また水面が引き起こす水中音場によって生じると言われてきました。しかし、これを実験的に確認することはできませんでした。

 こうした直観に反し、博士たちは、最初の飛沫、空洞の形成、液体の噴流、いずれもが音の原因ではないと見出しました。音の源は閉じ込められた気泡だったのす。博士は次のように説明します。

 「高速カメラと高感度マイクを使用し、我々は初めて気泡の振動を直接観察することに成功しました。その結果、気泡が水中音と『ポチャン』音の重要な要因であることが判明したのです。しかし、以前に考えられていたように、音は単に水面下の音場が表面に広がっているだけではないことも明らかになりました。『ポチャン』音が発生する際、気泡は、水滴の落下の際の衝撃によってできた穴のすぐ下に位置する必要があります。このような気泡は、空気中に音波を発生させるピストンのように作用し、穴の底部から水面を振動させます。このメカニズムはこれまで考えられてきた説より効率的な仕組みと言えます。」

 研究者たちは、今回の研究は好奇心に基づいて行われたと話します。しかしこの成果は、降雨量を測定する効率的な方法の開発や、ゲームや映画の水滴音をよりリアルにするために応用され、我々の生活をより豊かなものにしていくでしょう。

(翻訳・今井秀樹)