米朝首脳会談開催の二日後、トランプ大統領は中国から輸入する500億ドルの商品に対し25%の関税を課すと発表した。さらに、18日には2000億ドルの商品に10%の追加関税を課すつもりであると明らかにした。トランプ大統領は、なぜこのタイミングで中国に対して強硬な姿勢を示したのか?
米朝首脳会談前の中朝首脳会談
3月25日~28日にかけて中国を非公式訪問した金正恩は、5月7日から再度中国を訪問し、習近平と会談を行った。同会談について、筆者はいずれも金正恩が習近平に呼ばれたと推測している。
習近平政権は発足以来「近韓遠北」の政策をとってきたが、なぜ米朝首脳会談の前になって北朝鮮に急接近したのか?
5月に行われた二回目の面会では、二人が散策しながら意見交換する場面が、マスコミを通して世界に披露された。習近平はゆうゆうとした態度で金正恩の話を聞く一方、金正恩は先生に報告する学生のように恭しい態度をとっていた。
これは、中国が北朝鮮に依然として影響力を持っており、朝鮮半島の無核化は中国なしに実現できないというシグナルを世界に送る意図があったものと考えられる。
中国には、6月12日の米朝首脳会談について、中国が仲介役、あるいは少なくとも参考人の役割を演じたいとの狙いがある。さらに北朝鮮への影響力を利用し、中国がアメリカとの貿易戦でより多くの取引材料を作りたいとの狙いがあるものと筆者は見ている。
米朝首脳会談に対する中国の役割は?
実際、中国から帰国した後、金正恩は「朝鮮半島は無核化へと進むべきである」という今までの言論を翻し、アメリカに批判的な言論を放った。これに対しトランプ大統領は「金正恩の訪中後、彼(金正恩)の態度が変わった」とコメントした。トランプ大統領を含め、誰もが金正恩の翻意は中国が裏で働いた結果だと気付いている。
中国は、米朝首脳会談は中国なしにはうまくいかないと煽り続けてきた。しかし、トランプ大統領は中国と韓国の介入を拒み、金正恩と一対一で対話し、朝鮮半島の無核化と現体制の維持について合意に至った。世界各国のマスコミの報道と相反し、中国国内のマスコミは非常に控えた論調で、極簡単に首脳会談の結果を紹介した。
今回の米朝首脳会談の勝者はまだわからない。しかし、敗者が中国であるという点は明らかだ。中国が長年にわたって使ってきた外交カードは失効した。座して死を待つにはいかない中国は、今後は北朝鮮に圧力をかけたり、丸め込んだりするなどして、朝鮮半島非核化の過程を邪魔すると考えられる。
米中貿易戦は一石二鳥の効果があるか?
インターネット上では、すでに金正恩が三度目の訪中をするという情報が流れている。これに対し、トランプ大統領は「中国叩き」を企図し貿易戦を仕掛けた。このようにして、米国は中国だけでなく、北朝鮮に対しても「中国についていくならばどのような結末になるか」を示し、一石二鳥の効果を収めようとしている。
トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で「一年後、われわれが間違っていると気が付くかもしない」と語ったが、これは「北朝鮮が中国に唆されてアメリカとの合意を反故にする可能性がある」と示唆したのだ。それを防ぐために米国は先手を打ち、中国の商品に関税を課すことを発表したのではないかと考えられる。
非常に興味深いのは、今回の追加関税リストに初めて中国のインターネット検閲とインターネット封鎖が入れられた点である。一つ確実に言えるのは、中国はインターネットの開放を絶対に行わないという点だ。虚言で体制を維持してきた中国にとって、インターネットの開放は自殺行為に等しいからである。
東北アジアの新たな国際関係
朝鮮半島無核化の過程でキーマンとなるのは金正恩であり、アメリカ・日本・韓国をはじめとする西側陣営が、中国・ロシアをはじめとする旧共産圏勢力と金正恩を奪い合う局面が訪れるだろう。トランプ大統領は中国を孤立させるために、シャルルボワで行われたG7サミットにおいて「G7にロシアを入れるべき」と発言し、ロシアに秋波を送った。
当然ながら、今後の朝鮮半島情勢は金正恩の行方に左右される。習近平は大軍を中朝国境に配置し、朝鮮半島有事の際、数時間内に金正恩を捕まえることのできる体制を整えている。そのため金正恩はアメリカに接近したいが、いかんせん中共からの脅威は半端ではなく、中国の顔を伺いながら米中間でバランスをとる姿勢を保たざるを得ない。
拉致問題を重要視する日本政府は、日朝首脳会談について水面下で北朝鮮と調整していることだろう。日本からの経済援助と拉致被害者の帰国との取引がどこまでうまくいくかいまだに見通すことはできない。こうした複雑な情勢はしばらく続くだろう。
(文・張陽)