Aくんは昔、ミシガン州にある小学校の教員をやっていました。それがAくんの初めての仕事でした。正式に生徒たちに授業をする前に、新人教員の皆さんは校長先生につき、グランドラピッズ市の小学校を訪ね、そこの先生たちがどのように授業をするのかを見学しました。その小学校には、ドナという優秀な女性教員がいて、Aくんは運良く、ドナ先生の授業を見学することになりました。
Aくんは授業中の教室に入り、後ろの空いている席に座った時、教室にいる生徒たち全員、一枚の紙に何かを一生懸命書いていました。Aくんはとなりの男の子が書いている紙を覗いてみると、「2本目のラインを超えてボールを蹴ることができない」や「3桁以上の割り算ができない」、「マイクくんと仲良くなる方法がわからない」などを、紙の半分まで書いたのに、やめる気が微塵もなく、真面目に書き続けていました。
Aくんはその隣の生徒たちの紙も見てみました。みんなそれぞれ、難しいと思っていることを書いていました。講壇に登ってみたら、ドナ先生も目の前の紙に何かを真面目に書いていました。「ジョンくんのお母さんを保護者会に招く方法がわからない」、「体罰以外、エレンくんを教育する方法がわからない」など、ドナ先生の「できない」ことでした。
なぜ「できること」や「得意なこと」ではなく、「できないこと」をそんなに熱心に書いているのでしょう?Aくんはどうしても納得できず、自分の席に戻りました。
約20分後、生徒たちは皆、一枚の紙を全部書き終えて、次々と鉛筆を置きました。ドナ先生も書き終わって、生徒たちに自分の書いた紙をきれいに折り畳み、列に並んで、一つの箱に入れるように指示しました。最後にドナ先生も紙を入れて、箱を閉めました。生徒たちは、列を組んでドナ先生の後について教室を出ました。列の最後には、もちろん、Aくんもいました。
ドナ先生は皆をグラウンドの横の空き地に連れて行きました。彼女はスコップを持ち、深さ3フィートの穴を掘りました。そして生徒たちに箱を入れさせ、土で穴を埋めてもらいました。小さな「お墓」ができました。
ドナ先生はとても真剣な表情で、「皆さん、手をつないで頭を下げて、弔いの準備をしましょう」と言いました。
生徒たちは手をつなぎ、「お墓」を囲みました。ドナ先生は厳粛そうに弔辞を言いました。
「皆さん、本日は〈できない〉さんのお葬式にご出席いただき、ありがとうございます。〈できない〉さんは生前、私たちとともに暮らし、私たちに大きな影響を与えてくれました。今、私たちは「できない」さんをここに埋葬し、「できない」さんの安らかな眠りを祈ります。「できない」さん、ご安心ください。あなたがいなくなっても、あなたのお友達の「できる」さんは、私たちとずっと一緒にいて、私たちに良い影響を与えてくれるでしょう…。」
「〈できない〉さん、おやすみなさい。私たちも元気を出して、できることをいっぱい増やしましょう!」と、生徒たち全員で言いました。
Aくんはすごく感動しました。今日のことは、子どもたち一人ひとりの心に深く刻み込まれるだろうと、Aくんは思いました。今後、無意識に「できない」と言いたくなるときに、「できない」さんを埋葬したことを思い出し、前向きに解決策を探そうとしていくことでしょう。
(翻訳・玉竹)