元米国務長官のマドレーヌ・オルブライト氏は、「アメリカ人はロシアに対してライバル心を抱きすぎている」と警告する。

現在81歳のオルブライト氏は、1990年代にクリントン政権下で国務長官を務めた。同氏はワシントンポスト紙とのインタビューで、「中国こそが現実の脅威である」と主張し、ロシアが米国のライバルであるという従来の認識に疑問を投げかけた。

「中国は様々な場所で、様々な方法で米国に浸透し、そして大きく進化しつつある現実の脅威だ。一方、ロシアにそうした力はない」
5月31日、オルブライト氏は国防総省(ペンタゴン)の新しい国防戦略について自身の見解を述べた。また米国が、中国とロシアを「地政学上の脅威」と名指ししている点について、同氏は次のように語った。

「米国の新しい国防戦略は、ロシアと中国が米国の主要な敵であると明言した。私は、これはプーチン大統領にとってチャンスだと思う。なぜなら、ロシアは中国と同等の力を持っているとは言い難いからだ」

衰退するロシア

1991年にソビエト連邦が崩壊した後、ロシアは経済と軍事力の大部分を失った。

プーチン大統領はソ連の政治的抑圧と積極的な国際政治を復活させたが、ロシアはかつてのソ連と同等の影響力を持つには至っていない。ロシアの人口は米国の半分以下であり、経済力はイタリアのそれと同等の規模である。

経済成長する中国

ロシアが衰退したのとは対照的に、中国は「安価な10億人の労働力」を武器に経済的に成長し、同時に共産党の権力強化を進めた。

旧ソ連主導のワルシャワ条約機構や米国主導のNATOとは異なり、中国政府は国際的な軍事同盟を持っていない。しかし中国は、地球規模での影響力を構築するため、経済的な影響力を「武器」として用いることを選択した。中国はユーラシア全体でインフラ整備に数兆ドルを投資しており、中国の国営企業はアフリカ諸国において強力な存在感を示している。

中国の経済成長は米国の支援の恩恵を受けている。中国政府は、当時のクリントン政権と交渉し、有利な貿易条件を引き出すことに成功したのだ。しかし、いかに中国が米国の主要な貿易相手国へと成長しようと、政府が共産主義の政権である点は変わりない。中国政府は、米国企業から買収した技術を用いて自国民に対し大規模な人権侵害を行っているが、そうした姿勢を改める気配は一向に見られない。

国際的にも、中国の共産党政権はテロリストに武器を供給し、抑圧的な政権を支持しているのみならず、国際水域に所在する島を奪い、近隣諸国とアメリカの同盟国に対して脅威を与えていることで知られている。

パキスタンと北朝鮮という、貧しく抑圧的な国家のリーダーたちは、中国政府の援助を受けて核兵器を開発した。このほか、ISISのテロリスト集団が使用している武器の半分は中国軍と関係があることが判明しており、中国で製造された合成麻薬はラテンアメリカを経由し米国に進出している。

オルブライト氏の視点

オルブライト氏は「米国の新たな国防戦略は、ロシアを中国と平等な立場に置き、ロシアをさらに遠ざけ、米国との関係改善を困難にするという欠陥を抱えている。だがワシントンは、ロシアによる欧州への浸透に対し、決して警戒を怠ってはならない」と述べた。

2014年、ロシアはウクライナの秘密侵攻を開始し、1950年代にはロシアに所属していたが、その後はソ連の一部であったウクライナに帰属していたクリミア半島を併合した。さらに2008年、ロシアはNATO加盟への関心を示していた旧ソ連共和国であるジョージアを侵略した。
(翻訳・今野秀樹)