昔ある二人兄弟がいました。一人の高僧に出会い、4年後に災禍があると言われました。解決する唯一の方法は善行を行い、徳を積むことだそうです。
その後、兄は村に橋や道路を作り、老人や子どもたちの世話をし、無条件で他人を手助けしました。弟も同様に、果樹や穀物を植え、収穫したら食糧がない人たちに分け与えました。
四年が経とうとしている時、兄は山に高僧に会いに行って、災禍は免れたかと尋ねました。しかし、僧侶は何も言わずに首を横に振っただけでした。兄は仕方なく、疑問を抱えたまま山を下り、途中急に暴雨が降り出したため、道中にある泥小屋で雨宿りしたところ、雷が鳴って泥小屋が倒れて下敷きになってしまいました。
今回の事故で兄は2本の足が不自由になり、大変辛い思いをしました。何年にも渡って尽くしてきたのに、どうしてこんな災禍に遭うのかが納得できず、弟に背負ってもらいまた高僧に会いに行きました。
兄は「高僧、私は一日も休まず、数年間善行を行ったのに、なぜこんな災難に遭うでしょうか」と尋ねました。
僧侶は兄の質問に答えずに弟の方を見て「あなたはどうですか」と聞きました。
弟は「私は善行をしているうちに、災禍のことを忘れました」と答えました。
高僧は目をつぶって「その通りです。災禍を避けるために善行するのは私心があり、善行するのに災禍を忘れるこそ純粋な善です」と語りました。
(翻訳・北条)