率直な諫言は耳に逆らうものである。道義にかなった忠言をする者は智恵をもって巧に言葉を選び、たったの二言三言で良い結果をもたらすことができる。主君に対して思い切った諫言をした家臣を救った2人の大臣はどのような言葉を使って行き詰った状況から解決の糸口をつけたのだろうか。
翟黄(たくおう)の諫言
戦国時代初期、魏文侯は魏国が百年に渡り支配権を握る基礎を築いた人物である。戦国七強国の中、魏国をいち早く最強にしたのである。彼は学問に熱心で、司馬遷によれば、孔子の死後、70人の弟子は散り散りになった。大臣の位についた者もいれば、役人になる者もいた。そのような中で魏文侯だけはよく学んだ人物だった。
魏文侯は信用を大事にし、各国からの尊敬を広く受けていた。秦国はかつて魏国を攻める計画を立てていたが、「徳のある者に対して礼を尽くし、魏国の民からも称讃され、さらに上下関係は親密である。今魏国を攻めてもうまくいかないだろう」という大臣からの進言により取りやめとなった。魏文侯の人徳のある態度は、秦国に魏国への討伐を一時諦めさせたほどだ。それによって魏文侯は諸侯の間で称讃をされたのだった。
かつて魏文侯は、宴席で大臣らに自分が君主としてどれほど相応しいかを評価させていた。ある時、魏文侯がいつものように大臣に順番に自分の評価をさせていると、ある者が魏文侯は智恵のある方だと言った。次に任座という家臣に順番が回ってきた時、彼は「わが君主さまは徳がある方なのでございましょうか。中山国への討伐に弟君を任命せず、ご自分のご子息を任命されたのですから。このようなことは、高徳な方がなさることではないと存じます」と言った。これを聞いた魏文侯はたいそう不機嫌になり、ありありと顔の表情にも現れたのを見てとった任座はそそくさとその場から出て行ってしまった。
それを見ていた翟黄(たくおう)は自分の順番が来ると、「わが君主は本当に高潔な方でございますな。家来どもが申しますところ、君主さまは賢く有能な方でありますゆえ、家来どもが率直な諫言ができるのであります。今さっき任座が率直な意見を述べたことからわかりますように、わが君主は実に賢能な方でございます。」と言った。
それを聞いた魏文侯はとたんに機嫌をよくし、「任座を戻って来させてもよいだろうか?」と聞いた。翟黄は「どうしてだめなことがありましょうか。家臣は国の為に忠義を尽くすことが職務でございますゆえ、遠い他郷で死ぬことなどできますまい。任座はまだ入り口付近にいることでございましょう。」と言った。
翟黄が探してみると、やはり任座は門の入り口にいたのだった。魏文侯が任座を呼んでいることを翟黄が伝えると任座は宴会場に戻った。任座が戻って来たのを見た魏文侯は上座から離れ、下座まで任座を迎えに行き、さらには宴会の間中ずっと任座を上座に座らせたのだった。
魏文侯はもし翟黄がいなければ、あやうく大事な忠臣を一人失うところだった。翟黄は君主の心理に順応し、機転の利く有能な家臣だった。人を助けただけでなく、双方の面子を立てながら前向きな考えを持たせることができるなど、簡単そうにみえてもそうそうできることではない。
※出典:『呂氏春秋・不苟論・自知』
中国語の原文:
魏文侯燕飲,皆令諸大夫論己。或言君之智也。至於任座,任座曰:「君不肖君也。得中山不以封君之弟,而以封君之子,是以知君之不肖也。」文侯不說,知於顏色。任座趨而出。次及翟黃,翟黃曰:「君賢君也。臣聞其主賢者,其臣之言直。今者任座之言直,是以知君之賢也。」文侯喜曰:「可反歟?」翟黃對曰:「奚為不可?臣聞忠臣畢其忠,而不敢遠其死。座殆尚在於門。」翟黃往視之,任座在於門,以君令召之。任座入,文侯下階而迎之,終座以為上客。文侯微翟黃,則幾失忠臣矣。上順乎主心以顯賢者,其唯翟黃乎?
(つづく)
(翻訳・夜香木)