清の滄州に田氏という人がいた。田氏の母親は鼓脹症で危篤状態になり、田氏は百里以上離れている景和鎮にはある医者さんが奇薬を持っていると聞き、明け方になってお医者さんのところへ向かい、夕方にはくたくたになって走って帰ってきた。
帰途には衛河という川があり、田氏が衛河を渡ろうとしたころで水かさが増して、渡れなかった。田氏は号泣して、周りの皆に同情されたが、なす術がなかった。
ところが、ある船頭が田氏に向けて、「天道様が死なせなければ、溺れることはない。おいで、私が載せてやる」と言った。彼は力を振り絞ってこぎ、激しい波をかき分けて前進し、瞬く間に船は岸に到着した。見た人は神様のご加護だと合掌して「阿弥陀仏」と念じた。
「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」という昔の言い伝えのように、古人は生死よりも天道を重んじていたのだ。
(翻訳・柳生和樹)