「人の運命は、天によって定められている」という言葉を多くの人が知っていると思います。天がすべての人の運命を按排しているという意味です。ここの「運命」というのは、お金持ちになれるかどうか、もしくは出世できるかどうかを指していると思う人がいるかもしれません。実は高位にいる人ほど、生活は細かく按排され、さらには毎日の食事まで決められているそうです。
韓滉(カン・コウ)は唐の中期の政治家であり、有名な画家でもありました。韓滉の父・韓休は、太子少師を経て、玄宗の宰相となりました。韓滉は粛宗に仕え、監察御史を10数年間務め、清廉潔白であることで有名でした。代宗の時代には、戸部侍郎判度支、太常卿、晋州刺史、浙江東西観察使と加検校礼部尚書などを歴任した。多才なる韓滉は、書道と琴に長け、人物や田舎風景、牛やロバの絵画の腕が立ち、中には牛の絵画が立派だと評判されます。韓滉が描いた『五牛図』『文苑図』は現代に伝わる名作です。
唐『前定録』に、韓滉に関するこのような物語が収録されています。
韓滉が中書省にいた時、彼は部下の役人と面会する予定でしたが、その役人は遅刻しました。韓滉は激怒し、役人を鞭で打とうとしました。
役人は韓滉に、「わざと遅刻したわけではないです。他のところにも勤めていますので、間に合えませんでした。お許しください」と理由を話しました。
韓滉は「宰相の下で働く役人が、他のどこに勤めているというのか」とますます怒りました。役人は、「私は冥界での仕事を兼務しております」と答えました。
役人がきっと、冥界という嘘をついて罰を逃れようとしていると思った韓滉は、役人に「じゃあ聞こう。君は冥界でどんな仕事をしているのか」と質問しました。
役人は、「三品(唐の官職の位)以上の官僚たちの食事を管理しています」と答えました。
韓滉は、「それなら、明日、私は何を食べるか、言い当ててみろ」と言いました。
役人は、「これはただ事ではございません。天機に当たりますので、漏らすことができません。紙に書かせて頂けませんか?後で検証してみてください」と答えました。
こうして、役人は鞭打ちの刑を逃れましたが、拘束されました。
翌日、皇帝は韓滉を召見し、少し話をしてから、一緒に食事しました。御膳房が餻糜(もちじゅく)をお持ちして、皇帝は韓滉に半分食べさせました。餻糜を美味しそうに食べる韓滉に、皇帝はもう少し分け与えました。
皇帝のところを出た韓滉は、お腹の調子が悪くなりました。家に戻ってからすぐに医者に診てもらいました。胃もたれだと診断されましたため、医者の処方で橘皮(きっぴ)の入ったお湯を少し飲み、夜になって胃もたれが少し回復しました。
夜が明けて元気になった韓滉は、この前の役人の言葉を思い出しました。韓滉は役人を呼び、彼が事前に書いた紙を見てみると、なんとここ数日食べたものとまったく一緒でした。
驚いた韓滉は役人に、「人間の食事は本当に決められているのか」と尋ねました。
役人は「三品以上の官吏は、毎日の食事があらかじめ決められて、記録されています。そのほか人の食事は五品以上で一定の地位のある官吏は十日に一回、六品から九品までの官吏は三か月に一回、官吏ではない人は、年に一回按排されます。」
どうやら、天道さまは運命だけではなく、食事まで管理しているようです。
(翻訳・柳生和樹)