6月15日、インド軍と中国軍がカシミール州の国境で対峙し、過去45年間で最も激しい軍事衝突に発展した。中印両軍はこん棒や石などを使って攻撃し、双方合わせて60人以上の死傷者が出た。核兵器を保有する人口大国である両国が、このまま1962年の中印国境紛争のような武装軍事衝突にエスカレートするのだろうか?
インド当局は、今回の衝突で死亡したインド兵士の数は20名と発表した。又、インドメディアは、中国人民解放軍側も43名の兵士が死傷したと報じた。なお、中国側はこれについて何も発表していない。
中国外務省は「6月15日の夕方、インド軍が約束に違反し、再び不法に境界を越え、意図的に挑発的な攻撃を仕掛け、双方の間に激しい物理的な衝突を引き起こし、死傷者を出した」と主張した。
一方インド側も「6月15日の夕方、中国の兵士が実効支配線を変更しようとしたため、激しい紛争が引き起こされた」と述べた。
両者は互いに責任転嫁しているが、共通のキーワードは「対話」である。
米国の専門家、大規模な武力紛争の可能性は低い
第43代米大統領ジョージ・W・ブッシュの時代に、国務長官室で南アジア問題の政策立案のコンサルタントを務め、最近、北京とユーラシアの新たな地域政治発展について著した新刊『China’s Western Horizon:Beijing and the New Geopolitics of Eurasia(中国西部の地平線)』とを発表した、ダニエル・マーキー氏(Daniel Markey)は、『ラジオ・フリー・アジア』のインタビューで、「今回、インドと中国の国境紛争により死傷者が出たが、現在、両国は状況を抑制するために最善を尽くしている」と述べた。
同氏はまた「この事件が中国とインドの間の本当の戦争に繋がるとは思わない。確かに1975年以来の緊迫した状況ではあるが、インドとパキスタンの砲撃・空爆を長い間続けてきた武力攻撃とは異なる」と述べた。
インドとパキスタンの間の国境・領土紛争は現在も継続しており、昨年2月には、双方が軍用機を出動し空襲した。一方、パキスタンと中国は長い間良好な関係にあり、国境問題においてインドは挟み撃ちにされている。
米中がアジアで対立、インドの「新たな非同盟運動」が利益保護となるか?
米国のシンクタンク『イースト・ウエスト・センター(East West Center)』のワシントンオフィスの副社長であるリマイヤー(Satu Limaye)氏もマーキー氏と同様と見解を持っている。
リマイヤー氏は、「中国とインドが再び、1962年のような国境での激烈な武力紛争を繰り返すことは、あり得ないだろう」と述べ、「私はインド太平洋地域における米国と中国の対立をより懸念している。インドは自国の国益を考慮しており、ニューデリーの情勢も、東南アジア諸国における米中紛争に対する独自のビジョンを反映している」と語った。
リマイヤー氏は又、「インドは“米国とその同盟国との等距離での交流”を維持する姿勢を徐々に変えている。しかし、これは、過去を放棄した『非同盟運動』ではなく、『新たな非同盟運動』だと言えるだろう」と語った。
マーキー氏とリマイヤー氏はともに、「南アジアの平和と安定は米国の利益につながる」と指摘した。しかし、リマイヤー氏は、「中国とインドは主権問題において非常に大きな意見の相違があるにも関わらず、双方とも“トランプ米大統領の調停”という提案は拒否した」と示した。
リマイヤー氏は、「インドが米国とその同盟国に対して、外交的、政治的及び軍事的に近づく事が、インドが中国との全ての経済交流を断ち切り、ひいては中国と衝突したりすることを意味する訳ではない。中国との軍事衝突を望むインド太平洋諸国はないだろう」と示した。
(翻訳・北条)