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偉大な思想家ルソーは「善良な行為のメリットは、人の魂を高尚にし、より良い行動に導くことだ」と語った。
これは実際の話だ。
ある年、大学2年生のジョーンは、夏休みにワシントンへ遊びに行った時、財布を紛失してしまった。2日間飢えに耐えたジョーンは、危険を冒してお金を盗むことにした。
その夜、ジョーンはウィラードホテルの2階の一室に窓から忍び込んだ。暗闇の中、彼は手探りでハンガーの服に触れ、ポケットの中の財布に触れ、懐中時計に触れた。懐中時計のチェーンが服の襟に繋がっていたので、ジョーンは手を伸ばしてそのチェーンを外そうとした。その時、暗闇の中から「私の懐中時計を盗らないでくれ!」と懇願する声が響いた。ジョーンは驚いて、愚かにも口を開き「どうして?」と聞いた。すると「この時計は、私にとって非常に重要な意味を持っているというだけで、高い価値があるかという訳ではないのだ。お願いだ。持って行かないでくれ」と声が答えた。暗闇の中、その声は一旦途絶えたが、再び「少年よ。なぜ君はこんな事をするのだ」と尋ねてきた。
「すみません!財布をなくし家に帰れなくなって、お腹がすいてしまい…」とジョーンは自分の苦境を素直に語り「もし、あなたが構わなければ、この財布だけ持って行っても良いですか?」と聞いた。
「ええ、構わないよ。でも、ホテル代と帰りの交通費の支払いなら32ドルあれば十分でしょう!?」暗闇の中、穏やかで落ち着いた感じのその声は、「私は、この32ドルを君に貸そうと思います。もし、君が返せるようになったら、私に返して下さい」と続けた。
「もちろん、僕は絶対返します!」ジョーンは心の中に温かい流れを感じ、感謝の言葉を述べ続けた。その声は「少年よ、私は君が良い人だと分かったが、今日の君の行動は最悪だ。これからは“自分は誰なのか!”を絶対忘れないで下さい」と忠告した。
数年後、ジョーンは優れた弁護士になった。そして彼はあの時の約束を守り32ドルを返した。長年にわたり、彼はあの「自分が誰なのかを忘れるな!」という忠告を心に留めていた。
この物語は、ジョン・カルビン・クーリッジの自叙伝に記載されている。クーリッジはあの懐中時計の所有者で、第30代アメリカ合衆国大統領だ。
容赦の本質は「善」であり、懲罰には常に「悪」が付きまとう。だから、時に容赦は懲罰よりも魂を洗い流すことができるのだ。
(翻訳・柳生和樹)