中国政府の統計によると、遼寧省、吉林省、黒龍江省のいわゆる「東北三省」では、10年間で1千万人以上の人口が減少したとのことです。最近では、東北地方でも多数の「ゴースト村」が確認されており、多くの市民は「人々はいったいどこに行ったのか」と疑問の声を上げています。
中国東北部に点在するゴースト村
2024年11月、中国の動画プラットフォーム「抖音(ドウイン)」ユーザーの「如意中国行」は、ドライブ旅行の道中、遼寧省で偶然発見した「ゴースト村」について動画を投稿しました。かつては活気にあふれていたというその村は、今では雑草が生い茂り、瓦礫と化した家屋ばかりが残されています。「住民はいったいどこに行ったのか」と語る投稿者の映像は、多くの視聴者に衝撃を与えました。
吉林省にも多数のゴースト村が存在することが、他の動画投稿者たちによって明らかになっています。それらの集落はかつての生活の痕跡がありながら、現在はすっかり荒れ果て、人気(ひとけ)のない風景が広がっています。中には、山奥にそびえ立つ団地群に、わずか十数名の高齢者しか住んでいない限界集落まで確認されています。
黒龍江省でも「無人の村」や「無人の町」が数多く存在しているとのことです。2025年3月、抖音の動画投稿者「黒龍江海倫」は、自身の故郷である海倫市のとある村落を訪れた際の動画を投稿し、「どの家にも人が住んでいない。いったい人はどこへ行ったのか?」と疑問を投げかけました。
中国東北地方、10年間で1千万人減少
中国の経済紙『経済観察報』の報道によると、2024年の中国全体の人口自然増加率は前年比で0.99‰(パーミル)の減少となり、3年連続で減少傾向となりました。全国23の省と自治区及び直轄市の2024年の出生率データや人口自然増加率などの詳細データを分析すれば、「東北三省」における人口減少が特に深刻であるとわかります。過去10年の間に、東北三省の常住人口は合計1,200万人以上減少しました。これは、ベルギーの全人口に匹敵する規模です。
2014年から2024年までの間に、遼寧省の常住人口は4,391万人から4,155万人に減少し、236万人の減少となりました。吉林省は2,752万人から2,317万人へと、435万人の減少でした。黒龍江省の2024年のデータはまだ公表されていませんが、2014年から2023年にかけて、3,608万人から3,062万人に減り、546万人の減少となっています。
近年、東北三省における戸籍人口の減少にはますます拍車がかかっています。2019年以前の人口自然増加率は、東北三省ともに-1.1‰以上を維持していましたが、2021年以降はその減少幅がさらに広がり、2023年には全ての省で-5.4‰以下となっています。
中国屈指の重工業地帯
今でこそ衰退している東北三省ですが、1950年代から70年代にかけては、極めて重要な地位を占めていました。石炭、石油、天然ガスといった天然資源に恵まれ、さらに日本統治時代の工業インフラを背景に、鉄鋼業や機械製造業といった分野で中国国内をリードしていました。中国において大きな存在感を持っており、ドイツのルール工業地帯に匹敵するとまで言われていました。
1953年から始まった中国共産党の第1次五カ年計画では、全国の156件の重点建設プロジェクトのうち、実に約3分の1が東北地方に集中していました。1950年代末から1960年代中頃にかけては、東北三省の工業生産額が中国全体の4分の1から3分の1を占めていたといいます。
当時、東北三省は中国共産党による計画経済のモデル地域とされており、多くの国有企業がありました。しかし、重工業に偏重するあまり、第三次産業の発展が遅れた結果、東北三省は経済構造の変化に対応できず、時代に取り残されてしまったのです。
中国東北地方の衰退
中国の東北三省は、1980年代以降、経済成長の勢いが鈍化していきました。長年にわたり石炭や石油、木材といった自然資源の採掘に依存してきた東北三省では、過剰な開発によって資源が枯渇し、経済の持続可能性が大きく損なわれました。資源の乱開発は深刻な環境悪化を引き起こし、地方経済に二重の打撃を与えています。
さらに、1990年代以降、中国の沿海部では市場経済の導入が進み、各地で経済が急速に発展すると、東北三省は存在感を次第に失っていきました。雇用機会の減少や収入の低迷を背景に、多くの若者が地元を離れ、発展の著しい沿海地域へと移住しました。
その結果、東北地域では急激な少子高齢化が進みました。2019年時点で遼寧省の60歳以上の高齢者の割合は16.2%に達し、全国平均の12.6%を大きく上回っています。また、同年の黒龍江省では、人口自然増加率が△1.01‰となっています。
かつての繁栄の記憶
昨年11月、中国の動画投稿者「風哥走遍中国」は、遼寧省葫芦島(ころとう)市の趙家屯村を「中国北部最大のゴースト村」と表現しました。この村はかつて数万人が生活しており、中国東北部の「小さな上海」と呼ばれたほど栄えていました。豊富な石炭資源に支えられ、鉄道や病院、学校などが整備されていました。しかし、資源が枯渇すると人々は去っていき、現在はゴーストタウンと化しています。
東北三省に色濃く残る計画経済の名残も、経済発展を阻害する要因となっています。政府が経済活動に深く関与するため、官民の区別が曖昧で、市場経済の公平性が失われています。こうした背景から、中国の投資家の間では「山海関を越えて投資してはいけない」とさえ言われるようになりました。投資環境が劣悪なため、東北三省に投資してはいけないという意味です。
中国共産党が打ち出した経済振興策も目立った成果は得られていません。中国のGDPに占める東北三省の割合は、1990年で11.7%、2008年で9.38%、2017年で6.7%、そして2024年にはついに4.7%と、1990年の半分以下にまで落ち込んでいます。
人口減少が引き起こす行政再編
2024年12月13日付の『新浪財経』の記事によると、中国農村部では65歳以上の高齢者が総人口の20%を超え、若年層の流出によって「空洞化」が進んでいます。2022年時点で農村部の常住人口は4億9,100万人でしたが、2023年には4億7,700万人となり、わずか1年で1400万人減少した計算になります。こうした状況を受け、中国共産党は村を統合して町に編入する施策を打ち出しました。
現在、中国のSNS上では「東北三省を含む6つの省で、この政策が先行的に実施されている」とする情報が拡散されています。
テンセント傘下のポータルサイトによると、最近では収縮型都市が増加しており、行政区画の併合が進んでいるとのことです。人口の減少が著しい地区では、細分化された行政区画の統廃合が行われています。今後、このような行政区画の再編は中国各地で見られるようになると予想されています。
(翻訳・唐木 衛)