火鍋料理を提供する中国の大手飲食チェーン「呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ)グループ」が、経営不振にあえいでいます。運営元が発表した最新の業績報告によると、2024年の損失額は3億9,800万元、日本円でおよそ82億円に達しました。2021年からの累積損失額は、すでに12億元(約247億円)を超えています。
3月28日時点で、同社の株価は1株あたり0.86香港ドル(約16円)でした。2021年の27.15香港ドル(513.24 円)と比較して、実に97%の下落となり、企業の時価総額がほぼ消し飛んだ状態です。
連年の大赤字
しゃぶしゃぶグループは1998年に設立され、2014年には香港証券取引所のメインボードに上場しました。傘下にはリーズナブルな価格帯の「呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ)」と、中高級ブランドの「湊湊(コウコウ)」など、複数の火鍋チェーンを展開しています。
中国メディア「大河財立方(たいがざいりっぽう)」によると、しゃぶしゃぶグループは2021年、上場以来初となる通年の赤字を記録し、損失は2億9,300万元(約60億円)でした。その後も赤字は続き、わずか4年間で合計12億元以上の赤字を計上するに至りました。
業績不振に伴い、しゃぶしゃぶグループは店舗数を大幅に減らしています。2024年には219店舗が閉鎖され、このうち「しゃぶしゃぶ」が138店舗、「湊湊」が73店舗でした。2024年末時点で、グループ傘下の飲食店の店舗数は957店舗となっています。
「大河財立方」によると、店舗数の減少は同社の売上減少に直結しています。2023年の売上は30億2,400万元でしたが、219店舗閉鎖した2024年には26億2,900万元にまで落ち込み、13%の減少となりました。
中国の金融系メディア「融中財経(ゆうちゅうざいけい)」は、しゃぶしゃぶグループがかつて「カウンター形式で一人一鍋」という独自のスタイルと明確な市場戦略で、火鍋業界において確かな地位を築いたと報じています。しかし、火鍋業界の競争が激化する中で、競合相手に勝つためには新たな成長戦略が必要だと指摘しています。
業績の悪化を受け、しゃぶしゃぶグループは2024年5月、価格の引き下げを発表し、多くの店舗でセットメニューの価格を50元(約1,000円)台にまで下げました。しかし、その後の業績を見る限り、この値下げ策は期待された効果を上げていません。
融中財経はその理由として、現在、中国の火鍋業界では熾烈な競争が繰り広げられており、飲食店の淘汰が進んでいると指摘しました。2023年、中国では新たに6万6,000社もの火鍋関連企業が誕生しました。中でも、1人あたり30元(約620円)前後の低価格帯ブランドが、圧倒的なコストパフォーマンスで市場を席巻しています。いっぽう、しゃぶしゃぶグループが販売開始した「50元」のセットは、こうした新興ブランドと比較してもなお割高であり、しかも特徴的なサービスがないため、消費者の支持を得られていないと分析しています。その結果、多くの消費者がより安価な火鍋チェーンに流れているのです。
中国飲食業全体が衰退へ
しゃぶしゃぶグループの業績悪化は、中国の飲食業全体が直面している苦境の縮図でもあります。
現在、中国の飲食業界は、需要の低迷と消費者の信頼感の喪失というダブルパンチに苦しめられています。生き残りをかけて、多くの飲食系企業が激しい価格競争の渦に巻き込まれています。市場のシェアを確保するため、各社は相次いで低価格のセットメニューや割引キャンペーンを打ち出し、「量」で勝負をかけています。このような値下げ競争戦略は、一時的に消費者の注意を惹くことができるものの、国全体として内需が振るわないなか、企業の利ざやを著しく圧迫しており、経営はますます困難になっています。
その結果、多くの飲食系企業がコストを削減するために、原材料の質を下げる選択を余儀なくされました。短期的にはコストを浮かすことができたものの、品質の低下は顧客の食事体験に直接的な悪影響を及ぼし、評判の悪化と客離れを招いています。そして最終的に再び経営難に陥るという悪循環が続いているのです。
専門家によると、こうした価格競争は、飲食業界の活性化にはつながっておらず、むしろ業界全体の業績不振をさらに深刻化させています。
さらに、飲食業界にとって大きな課題となっているのが高騰する店舗の賃料です。北京、上海、広州といった中国の一線都市では、商業用不動産の賃料が非常に高く、企業にとって経営の大きな負担となっています。多くの企業で、家賃が支出の大部分を占めているのが実情です。
統計データによると、2024年、中国ではおよそ300万社の飲食関連企業が倒産しました。特に一線都市では、飲食店の月間閉店率が平均で10%を超え、地域によっては15%近くにまで達しています。市場競争の激化や資金繰りの悪化を背景に、多くの飲食ブランドが次々と倒産し、有望と見られていた新興ブランドですら業界の荒波に耐えきれず撤退するケースが相次いでいます。
さらに、業界内部の専門家は「中国の飲食店の平均寿命はわずか500日程度」と指摘しており、特に北京のような都市部ではその傾向が顕著に顕れているとのことです。北京市の統計によると、2024年上半期に、同市の飲食店における純利益は前年同期比で88%も減少しています。
中国企業、海外に活路見出す
こうした厳しい市場環境の中で、中国の飲食企業は、コスト削減や業務改善といった対策を講じるだけでなく、事業の海外展開にも乗り出しています。これは中国最大の火鍋チェーンである「海底撈(ハイディラオ)」も例外ではありません。
2025年3月25日、海底撈は2024年の通期決算を発表しました。それによると、2024年12月31日までの1年間の売上高は427億5,500万元(約8,800億円)で、前年から3.1%の増加となりました。また、純利益は47億元(約970億円)で、前年から4.6%の増加を記録し、売上・純利益ともに過去最高を更新しました。
業績が好調だった一方で、店舗数には減少も見られました。新たに数十店舗を開業したものの、それ以上の店舗を閉鎖した結果、2024年末時点で海底撈の直営店数は1,355店舗となり、2023年と比べて19店舗の減少となりました。
中国国内市場の成長が鈍化するなか、海底撈は海外展開を一層加速させています。海底撈は2012年の時点からすでに海外進出を開始しており、さまざまな国や地域に店舗を構えてきました。特に新型コロナウイルスのパンデミック以降、その動きはさらに活発化しています。
2024年9月30日時点で、海底撈の海外店舗数は121店に達し、2023年末に比べて6店舗増加しました。これらの店舗は主に、東南アジア、東アジア、北米地域に分布しています。
海底撈の最高経営責任者(CEO)は、将来的にアメリカ・ニューヨークやロサンゼルスでさらに多くの店舗を展開する計画を明かしています。さらに今後は、スイス、ドイツ、スペイン、フランスといった欧州諸国への進出も視野に入れているとしています。
(翻訳・唐木 衛)