中国の経済が低迷を続ける中、タクシー業界も深刻な不況に陥っており、多くの運転手が生計を立てることすら困難な状況にあります。違法タクシー(白タク)や配車アプリの急増、高額な「車両リース代(いわゆる份子銭)」など、さまざまな要因が重なり、最近では複数の省で数千人規模のタクシー運転手がストライキを起こし、政府に業界の改善を訴えています。複数の運転手が大紀元の記者に対し、過酷な現状を明かしました。

 「份子銭」とは、運転手が毎月タクシー会社に支払う車両リース代のことで、運転手にとっては主要な経費であり、会社にとっては主な収入源でもあります。湖南省岳陽市華容県のタクシー運転手・李威さん(仮名)は、「今のタクシー業界はどん底です。経済状況は悪化しているのに、支出は全く減らない。生活費すら稼げないのに、車両リース代なんて払えるわけがありません」と話します。

 彼によると、1日の売り上げは200元ほどしかなく、車両1台あたりの月額車両リース代は4,000元以上。これにガソリン代などの経費を加えると、実際に手元に残るお金では家族を養うことは到底できないといいます。同じく岳陽市の運転手・方明さん(仮名)も、「現在、1台あたりの車両リース代は月4,750元、多いところでは4,900元に達しています。以前は1日500〜600元の収入がありましたが、今では200元台まで下がっています」と語ります。「長沙市のような省都ですら月3,000元台なのに、なぜ私たちのような四〜五線都市の方が高いのか理解できません」と不満を口にします。

 方さんによると、岳陽市には現在1,700台以上のタクシーがあり、そのすべてが今回のストライキに参加しているとのことです。運転手たちは車両リース代の引き下げと、配車アプリの取り締まりを政府に求め、最低限の生活空間を確保するよう訴えています。地元政府は、車両リース代を月500元減額すると表明しましたが、運転手側はこれでは不十分だとして、1,000元の減額を要求し続けています。

 方さんは、過去にも2度ストライキを実施した経験があり、その際には車両リース代が6,000元から5,000元近くまで引き下げられたと振り返ります。今回も同様に、生活を守るための正当な要求だと強調しています。

 こうした経済的な重圧に加え、タクシー運転手たちは他にもさまざまな困難に直面しています。近年では、配車アプリ車両や白タクとの競争が常態化していますが、吉林省楡樹市では新たに「バスによる学生輸送」が導入され、タクシー運転手たちの貴重な収入源が奪われたことで、再び数千人規模のストライキが発生しました。

 今年3月中旬、地元の旅客輸送会社は65台の大型バスを動員し、毎週金曜日の午後と日曜日の夕方に、実験高校・第一高校・新立高校・長楡高校の計920名の生徒を、自宅と学校の間で送迎する「ドア・ツー・ドア」サービスを開始しました。楡樹市のタクシー運転手・趙亮さん(仮名)は、「コロナ以降、街を行き交う人は明らかに減っています。学生の登下校時間帯は、わずかに残った稼ぎ時でしたが、今では十数台のバスが直接校内に乗り入れ、生徒を運んでしまう」と語ります。

 「私は毎朝7時から夜10時まで働いていますが、経費を差し引くと手元に残るのは100元ちょっとです。コロナ以降、状況は悪化する一方です。学生の登下校の時間帯に少しでも稼げるのが救いだったのに、その「最後の一杯の飯」すら奪われたような気分です」と、彼は無念の思いを吐露します。しかし、数日間に及ぶストライキにもかかわらず、地元政府は運転手たちの訴えに対して無反応のままだといいます。

 さらに、楡樹市では2022年9月以降、ガソリン車を順次、新エネルギー型のバッテリー交換式タクシーへと置き換えてきました。この新型車両は、専用ステーションで1分以内にバッテリー交換が可能で、満充電での航続距離は夏季で約300km、冬季は100km程度とされています。しかし趙亮さんによれば、市内ではすでに300台以上の電動タクシーが走っているにもかかわらず、バッテリー交換ステーションはたった2か所しかなく、まったく需要に追いついていないとのことです。特に冬場はバッテリーの消耗が激しく、午前中の営業だけで電力が尽き、午後はバッテリー交換のために、4〜5時間も列に並ばなければならず、「1日まともに働くことすらできない」と嘆きます。

 また、政府が約束していた燃料補助金も支給されておらず、運転手たちの不満はさらに募っています。中国財政部と交通運輸部は2022年に通達を出し、運転手に対する燃料価格補助金(通称:油補)を直接支給するとし、2021年は1台あたり3,620.76元、2022年は3,565.04元を給付すると定めました。しかし趙亮さんによると、2022年は一部しか受け取っておらず、2023年以降はまったく支給されていないといいます。仲間の運転手たちからは、「補助金は地元政府に流用されたのでは」との声も上がっており、抗議を行っても改善には至っていないのが現状です。

 同様の問題は、黒竜江省大慶市林甸県でも発生しています。タクシー運転手の孫燕さん(仮名)は、2022年以降、年間3,700元の油補が一切支給されていないと証言します。林甸県には配車アプリは存在しませんが、地元のタクシー業界は特定の車両会社に独占されており、運転手たちは同じように厳しい状況に置かれています。面積約3,500平方キロメートルという小さな町で、初乗り運賃はわずか3元、それでもタクシーの数は1,000台を超えています。

 「今は景気が悪く、タクシーを利用する人もめっきり減りました。1台のタクシーで一家を養っている運転手も多いですが、もはや生活を維持できません。車を売って業界を離れたいと思っても、他にどんな仕事ができるのか見当もつかず、前にも後ろにも進めない。ただただ耐えるしかないのです」と、孫燕さんは苦しい胸の内を明かしました。

 このように、タクシー運転手たちは制度の不備や補助金の未支給、過酷な競争環境にさらされながら、やむを得ずストライキに踏み切っています。しかし、現時点では業界の未来は依然として不透明なままです。

(翻訳・吉原木子)