アメリカのトランプ大統領は、4月2日に「相互関税」政策の実施を発表し、中国に対する関税をさらに34%引き上げることを明らかにしました。同時に、中国本土および香港からの800ドル以下の小型荷物に適用されていた免税措置も撤廃されることとなりました。これらの措置は、中国の業界関係者や国際社会から大きな注目を集めています。

 同日、ホワイトハウスは声明を発表し、アメリカは世界185の国と地域からの輸入品に対して「相互関税」を課す方針であり、その税率は10%から49%の範囲で設定されるとしました。中でも、中国に対しては最高税率となる34%が課されるとしています。モルガン・スタンレーや野村證券の試算によれば、既存の関税を含めると、アメリカが中国製品に課している加重平均関税率は65%から66%に達し、過去最高水準となっています。一方、トランプ政権によれば、中国がアメリカ製品に課している平均関税率は約67%であり、今回の措置により、両国の関税水準はおおむね対等になると見られています。新たに課される34%の関税は、4月5日からの基準税率10%と、4月9日からの追加24%で構成されています。

 この政策は、中国の輸出企業に深刻な影響を及ぼしています。4日に取材を受けた深センの貿易会社の社員は、アメリカ向けの輸出業務に明らかな打撃があると述べ、「対策はまだありませんが、利益が減るのであれば顧客に負担してもらうしかありません。工場が赤字で製造することはあり得ませんので、最悪の場合、アメリカ市場から手を引くしかありません」と語りました。

 また、広東省で長年アメリカ向け電子製品を扱っている貿易商の李さんは、今回の新たな関税により業界内に不安が広がっていると、自由アジア放送の取材に答えました。彼女によれば、最近はアメリカのバイヤーが関税を含んだ価格での見積もりを要求し、追加の税負担を拒否する傾向にあるとのことです。「以前は10元で販売していた商品も、今では12元にしなければなりません。価格を上げない限り、コストを吸収できないのです」と語りました。

 同社ではリスクを避けるため、以前から一部の注文をベトナムに移す方針をとっていましたが、アメリカがベトナム製品にも46%の関税を課す姿勢を示したことで、李さんは今後、ベトナム政府がアメリカと交渉し、関税の引き下げを目指すのではないかと見ています。「今後数日間の動向が非常に重要になる」と述べました。

 トランプ氏が発表した相互関税の税率は、中国が34%、EUが20%、台湾が32%、ベトナムが46%、スイスが31%、イギリスとブラジルが10%、日本が24%、韓国が25%、インドが26%、カンボジアが49%とされています。また、すべての輸入品に対して最低10%の基本関税を課す方針も打ち出されました。

 中国の貿易業者である張勝其氏は、アメリカがベトナムに対して中国よりも高い関税を課したことは、「中国製品がベトナム経由でアメリカに輸出されるルートが完全に特定された」ことを意味すると指摘し、これまで「輸出の代替地」として機能していたベトナムの役割が崩壊し、迂回輸出による関税回避の余地が事実上封じられたと述べました。

 欧米向けに玩具を製造している広東省東莞市の「広声五金塑膠製品有限公司」董事長の翟所領氏は、シンガポール紙『聯合早報』の取材に対し、「これまでは20%の関税であれば、当社とアメリカの販売側が分担して吸収することができましたが、今回の34%追加分は誰も吸収できません。価格の引き上げは避けられません」と語りました。彼は当初、工場を東南アジアに移転する計画を立てていましたが、現在は様子を見ており、「どこに移転しても関税は逃れられません」と述べました。

 今回の政策は越境EC業界にも大きな衝撃を与えました。トランプ氏は5月2日から、中国本土および香港からアメリカに送られる800ドル以下の小型荷物に対する免税措置を撤廃する行政命令に署名しました。野村の調査によれば、こうした小型荷物による越境輸出は、中国の対米輸出全体の約11%を占めています。中国のSNSでは、「越境EC業者にとって天が崩れた」といった悲鳴が多く投稿されています。

 中国の越境ECには主に2つの発送モデルがあります。ひとつは在庫をアマゾンの倉庫に保管し、アマゾンが配送を代行する「FBA(Fulfillment by Amazon)」、もうひとつは在庫を持たず、注文を受けてから工場が商品を物流会社経由で1点ずつ発送する「FBM(Fulfillment by Merchant)」です。河南省のある越境EC業者は大紀元の取材に対し、「今回の関税引き上げで、利益がかなり減っています。関税が20%増えるというのは、そのまま利益が20%減るということです」と語りました。彼によれば、今回の影響はFBAよりもFBMに集中しており、特に一件ずつ配送する無在庫型のビジネスが大きな打撃を受けているとのことです。

 この関税政策の発表を受けて、中国株式市場は4月3日に急落しました。A株の3大指数が全面安となり、上海総合指数は0.51%、深セン成分指数は1.46%、創業板指数は1.8%それぞれ下落しました。これに対し中国商務部は即座に声明を発表し、「断固として反対する」と述べた上で、対抗措置を講じる可能性を示唆しました。一部の業界関係者は、中米間にはなお交渉の余地があると期待を寄せています。

 アメリカ・セントトーマス大学の国際関係学教授である葉耀元氏は、今回の「相互関税」は世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすと分析しています。トランプ氏は交渉の余地を残しているものの、中国にとっては立場が極めて厳しいとし、「中国共産党がここで弱腰を見せれば、他国が中国との足並みを揃えるのを躊躇する可能性があります。中国共産党は『面子(メンツ)』を極めて重視している」と語りました。

 アメリカの経済学者である黄大衛氏は、今回の関税政策がアメリカ市場に依存する中国の中小製造業にさらなる圧力をかけると指摘し、「致命的とは言えませんが、すでに逼迫している輸出利益をさらに削り、生産拠点の海外移転を加速させることになるでしょう」と述べました。

 葉耀元氏もまた、中国の産業構造が今後さらに内向きになり、国内での過剰競争が激化し、失業率が上昇する可能性があると予測しています。「中国が公表している経済成長率ですら4%を下回る見通しであるならば、状況は極めて深刻であり、中国共産党の支配体制に深刻な影響を及ぼす恐れがあります」と警鐘を鳴らしました。

(翻訳・吉原木子)