中国共産党が長年依存してきた「土地財政」による経済高度成長のモデルが、いま崩壊の危機に直面しています。その過程で浮かび上がってきたのは、中国共産党による土地収用の背後にある、想像を絶するほどの腐敗した実態です。

 建設技師の鄭剛氏は、建築業界に30年間携わった経験を持ち、土地収用の内部事情に精通しています。このほど、海外メディア『大紀元』の取材に対し、中国共産党官僚が土地収用を通じて莫大な利益を得ている実態を詳しく語りました。

測量データの改ざんで補償金横領

 鄭剛氏は、2000年に深圳市のある村で関わった土地収用の経験を振り返り、当時の国土局の幹部が、実際の測量結果ではなく、「政府の都合に合わせた数値を出せ」と測量担当者に命じていたと証言しました。

 中国共産党官僚は、農民が専門知識を持ち合わせていないことに付け込み、測量データを改ざんして利益を着服していたのです。例えば、本来は1,000ムー(1ムーは約666.7平方メートル)の土地が収用対象であったにもかかわらず、対外的な報告書に記載される面積は700ムーだけです。残る300ムー分の補償金は官僚たちの間で分配されていたとのことです。

 補償金そのものを横領するケースも後を絶ちません。たとえば、本来は1ムーあたり1万元(約21万円)の補償金が支払われるはずでしたが、市や県、村の行政官僚によって次々と横領され、最終的に農民の手に渡ったのはわずか4,000元(約8万2千円)だったケースもあるといいます。

 逆に、官僚が補償額を水増しして汚職するケースもありました。鄭剛氏は2017年に湖南省郴州(ちんしゅう)市汝城(じょじょう)県の熱水(ねっすい)鎮で道路工事に従事した際の体験も語りました。当時、土地を収用された地元農民に対して、補償金として1平方メートルあたり2元(約40円)と説明されていました。

 ところが、鄭剛氏が確認したところ、県当局が上に提出した帳簿には補償金が1平方メートルあたり22元と記載されていました。つまり、補償総額は数百万元に達していたにもかかわらず、実際に農民に渡ったのは20万元ほど、残りの金額はすべて官僚たちに横領されていました。

 鄭剛氏は、「当時はさすがに呆然とした。地元の国土局の官僚に『どういうことだ』と尋ねたところ、『余計な口出しはするな』と注意された。補償金は県政府から始まり、許認可権限のある県共産党委員会書記や国土局長、さらに鎮の幹部に至るまで、職位のランクに応じて山分けされていた」と語りました。

 また、地方官僚が補償金をそのまま着服するケースもありました。

 湖南省長沙市で行われたある都市道路の建設プロジェクトでは、土地補償金の総額が2.2億元(約45億円)にのぼり、土地所有者102世帯が支給対象となっていました。本来であれば1世帯あたり約200万元(約4,100万円)の補償が行われるはずでした。

 しかし鄭剛氏によれば、政府幹部とのコネがあった家庭に対しては最大で120万元(約2,500万円)が支払われた一方、多くの世帯には70〜80万元(約1,500万円)程度しか支給されませんでした。実際に住民の手に渡ったのは総額で1億元未満で、残りの1億数千万元はすべて地方官僚の懐に収まっていたのです。

 これほどあからさまな不正が行われていながらも、土地を収用された住民たちは、誰一人として抗議の声を上げることができませんでした。彼らは権力を持つ官僚への恐れから、泣き寝入りするしかありませんでした。鄭剛氏はその現実に強い失望を感じたと語りました

官僚の私腹を肥やす「土地財政」

 鄭剛氏は長年の観察から、中国共産党が推し進めてきた「土地財政」制度そのものに、深刻な制度上の欠陥があると指摘しています。この仕組みは共産党官僚に恣意的な裁量権を与え、不正や横領を可能にする温床になっています。

 鄭剛氏は、ある国有工場の事例を紹介しました。この工場は、本来なら細々と操業を続けていける状態だったにもかかわらず、地元の政府官僚によって意図的に経営破綻に追い込まれました。その後、工場は政府官僚によって極めて低い価格で買収されました。

 鄭剛氏は、「本来であれば、この工場はなんとかやっていけたはずなのに、官僚が意図的に潰した。倒産した後、官僚が手配した人物が、この工場を非常に安い価格で買い取った。なぜなら、その土地は工業用地だったからだ。ところが、彼らは工場を買収した後、土地の用途を工業要地から商業用地に変えた。土地の用途を変えるだけで、その資産価値は5〜6倍も跳ね上がった」と語りました。

 その土地が売却された際、用途変更による土地の大幅な値上がり分は、すべて土地の許認可権限を握っている官僚たちによって着服されたとのことです。

 鄭剛氏は業界内の関係者たちともこの問題について繰り返し議論を重ねてきました。その結果、「官僚が土地収用で私腹を肥やすことができる根本的な原因は、中国共産党の歪な制度そのものだ」と結論付けました。

 鄭剛氏は、「中国の大規模なインフラ建設や土地収用は、結局のところ、政府官僚が権力を使って富を再分配する手段に過ぎない」と述べました。中国共産党による一党独裁体制のもと、権力を持つ者はまるで強盗のように振る舞い、一般市民には対抗手段がありません。そのため、汚職や腐敗を根絶することができないのだ、と指摘しました。

 さらに鄭剛氏は、「これはまるで強盗が人々に財産を分配しているようなものだ。誰もこの強盗を止めることも管理することもできないのなら、その強盗はどう振る舞うか、想像に難くない。中国共産党こそがその強盗だ。つまり、問題の本質は制度にある。制度こそがあらゆる問題の根源なのだ」と語りました。

土地収用が火種に 高まる社会不安

 近年、中国各地では土地収用をめぐる住民と政府官僚との衝突が頻発しています。被害に遭っているのは主に農民や自営業者で、彼らの土地は不当に安い価格で強制的に収用されています。強制収用された土地は政府を経由して不動産ディベロッパーの手に渡り、土地財政を支える地盤として、中国のGDPを膨らませるのです。

 不利益を被った人々は、正当な補償を求めて裁判しても、勝訴判決をもらえるケースは稀です。例え勝訴しても、支給される補償金はごくわずかで、損失を補填できるだけの金額に遠く及びません。

 なぜなら、土地利用を許認可する地方政府の官僚は不動産ディベロッパーと利益関係にあり、さらに、裁判所もほぼ例外なく政府官僚に有利な判決を下すからです。さらに、中国当局は社会の安定と繁栄をアピールするため、土地収用に関する報道に対して厳しい情報統制を敷いています。そのため、強制的に土地や家を奪われた人々の声が社会に届くことはありません。

 いま、中国各地で続く土地収用の問題は、社会の対立を深める「火種」となっています。民衆のあいだには、長年積もった不満や怒りが蓄積されており、大きな歪みとなっています。中国の地方政府が人々の生活を顧みない統治を続ける限り、近い将来、より深刻な社会不安を招く可能性があると懸念されています。

(翻訳・唐木 衛)