最近、中国最大の電気自動車メーカーであるBYD(比亜迪)の無錫および成都の工場で、大規模なストライキが相次いで発生しました。無錫工場の労働者は、会社が約束を破り、収入が大幅に減少したことに抗議しました。続いて成都工場でも、給与の引き下げや補償金の未支給といった問題に対して大規模な抗議活動が起きています。
3月28日から31日にかけて、BYDの複数の工場で従業員が次々とストライキを起こしました。会社が労働者の同意を得ずに給与を引き下げ、ポジションを変更し、福利厚生を削減したことに対しての抗議であり、さらに、買収元が用意した約10億元の補償金を会社側が着服したという主張もなされています。労働者たちは、正当な補償を受け取った上での自由な退職を求めています。
Xの投稿によると、最初に抗議が起きたのは江蘇省無錫市にあるBYDの工場でした。3月28日と29日には、1,000人以上の労働者が工場内に集まり、会社の一方的な約束違反と給与カットに対する不満を訴えました。この工場はもともと米国のジャビル・グループ傘下のグリーンドット・テクノロジー社に属しており、2023年9月にBYDが買収しました。買収前、ジャビルは、BYDで働き続けたくない労働者には補償金を支払った上での退職を認める制度を設けていました。
しかし、多くの労働者は「18か月間は給与・福利厚生・職務を変更しない」とするBYDの約束を信じ、補償金の受け取りを放棄して残留を選びました。
ところが2024年5月から、会社は突然「週5日・1日8時間勤務制」を導入し、労働者の収入は大きく減少しました。さらに、BYDは職務変更や降格を頻繁に行い、給与をさらに削減するなど、待遇悪化が相次ぎました。こうした状況に対してストライキに参加する労働者が日増しに増え、3月14日に抗議を表明したある労働者は公安当局により5日間拘留されるという事態も発生し、全面的なストライキの引き金となりました。
一部の抗議者は取材に対し、BYDが成果給を削減しただけでなく、30元の誕生日手当など複数の福利厚生も廃止する予定であると述べ、不満をあらわにしました。彼らは、買収当初に提示された約束を会社が誠実に履行するか、またはジャビルが用意していた補償金を支給した上での自主退職を認めるよう訴えています。
事態の拡大を受け、現地警察もすぐに介入しました。現場には多数の警察官が出動し、「警察執法」と書かれた青地に白文字の横断幕を掲げ、抗議活動の様子を覆い隠そうとしました。
3月31日には成都工場でも大規模な抗議が発生しました。ある労働者は、ジャビルが用意していた補償金は総額10億元にも上り、会社がそれを正しく分配すれば、退職を希望するすべての労働者に合理的な補償が可能だったはずだと指摘しました。さらに、成都工場ではこの1年間、職務の調整、シフト制の導入、外部支援への派遣、成果給の削減などによって、従業員の待遇が一貫して悪化していたと述べました。今回の抗議の中心的な要求は、「合理的な補償の支給」と「補償を受けたうえでの自主退職の権利を認めること」だと強調しています。
現在に至るまで、BYD側はこれらの抗議活動について一切の公式コメントを出していません。
ネット上では、本件に対する議論が広がっています。「なぜ時給の引き上げではなく、残業を求めてストライキをするのか」、「欧米の資本家が見たら泣くだろう。欧米の市民は残業を拒否しているのに、中国人は自ら進んで搾取されようとしている」、「8時間労働の厳格な実施より、残業で多く稼ぎたい……庶民の暮らしは本当に大変だ」といったコメントが寄せられています。
実は、労働時間の変更をめぐる抗議は今回が初めてではありません。2024年5月には、無錫のBYD電子有限公司でもストライキが発生しました。『中国労工通訊』の報道によると、当時会社は、管理職および技術職の勤務時間を、1日12時間の2交代制・週1日休みから、「週5日・1日8時間制」へと変更しました。その結果、労働者の収入は大きく減少し、月給はかつての5,000〜6,000元から、2,490元にまで下がったと報じられています。
国内の工場だけでなく、BYDの海外事業でも労働問題が相次いでいます。2024年12月、ブラジルの労働当局は、BYDがバイーア州にある建設現場で「奴隷的労働」を行っていたことを明らかにしました。
ブラジルの連邦労働検察庁(MPT)が2024年12月23日に発表した声明によると、BYDがブラジル北東部バイーア州で建設中の工場では、160人を超える建設労働者が「奴隷的待遇」を受けていたとして救出されました。労働当局が5か所の宿舎を調査したところ、そのうち4か所に深刻な問題が確認されました。この現場は中国の自動車メーカーBYDのもので、施工を担当していたのは錦江グループでした。
当局が公開した写真によれば、宿舎の衛生環境は極めて劣悪で、平均30人に1つしかトイレがなく、男女の区別もされていなかったため、労働者たちは朝4時に起きて行列し、5時半には出勤しなければなりませんでした。宿舎には洗濯設備もなく、食事と宿泊はすべてその場で済ませるしかありませんでした。
さらに、労働者のパスポートやほとんどの給与が建設会社により取り上げられ、工事現場から自由に離れることもできませんでした。週7日間の勤務を強いられることもあり、食事は前日に調理されたものが冷蔵保存されることなく床に置かれ、飲料水は未ろ過で提供されていました。工場には適切な医療設備もなく、体調を崩しても治療を受けられない状況だったといいます。
また、2024年9月にはベトナムのBYD工場でも、低賃金・過度な残業・粗末な食事などを理由に、500人以上の従業員がストライキを行いました。労働者たちは、夜勤手当の未払い、成果給の不正控除、他社よりも低い基本給など6つの不満を挙げました。最終的に、ベトナム富寿省の労働組合が介入し、BYDは基本給の引き上げ、夜勤手当の増額、休憩制度の導入など8項目の改善策を発表しました。
国内外を問わず、BYDが直面している労使問題は無視できない段階に来ています。企業の急速な拡大と同時に、従業員の権利と利益をどう守るか、そしてグローバル企業として適切な労働環境をどう整備していくかは、今後の経営において避けて通れない重要な課題です。
(翻訳・吉原木子)