貿易摩擦の激化やコストの上昇といった複合的な要因により、中国本土では労働集約型製造業が加速的に海外へ流出する傾向が強まっています。近年では、靴、衣類、家庭用品、カバン、おもちゃなどを製造する多数の工場が、生産拠点をベトナムやインドネシアなどの東南アジア諸国へ移転しています。このような変化により、高齢で技能の乏しい労働者層が大規模な失業に直面するリスクが高まり、社会全体の雇用情勢にも大きな影響を及ぼしています。
イギリスの『金融時報(きんゆうじほう)』(Financial Times)によると、2000年代初頭に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、世界の先進製造業国は次々といわゆる「中国衝撃(ちゅうごくしょうげき)」に見舞われました。これは、中国が膨大な安価な労働力と高度に集中したサプライチェーンを武器に、急速に製造業の中心地となり、「世界の工場」の地位を確立した現象を指します。しかし、現在では状況が大きく変化しており、中国自身も今や低付加価値の製造業が大規模に流出するという現実に直面しています。
常州大学(ちょうしゅうだいがく)、塩城師範学院(えんじょうしはんがくいん)、河南大学(かなんだいがく)の研究者たちが、2011年から2019年までの9年間にわたり12の労働集約型製造業について分析を行った結果、対象業種における平均雇用人数は約14%減少し、約400万人分の雇用が失われたことが明らかになりました。中でも繊維業は40%の雇用減少という深刻な打撃を受けました。さらに『金融時報』が2019年から2023年までの雇用動向を追跡したところ、この5年間でさらに約340万人の雇用が失われており、製造業の「空洞化」が着実に進行していることが示されています。
一方、中国の世界市場における輸出シェアも減少傾向にあります。ハーバード大学ケネディスクールの教授であるGordon Hanson(ゴードン・ハンソン)氏の研究によると、2013年には家具や家庭用品、カバン、おもちゃなど10の労働集約型製品において、中国の世界輸出シェアは39.3%に達し、過去最高を記録しました。しかし、米国の関税政策の影響を受け、2018年には31.6%にまで低下しました。
さらに近年では、比較的高度な技術を必要とする製造業までもが中国から撤退し始めています。米中関係の悪化を受け、中国国内および外資系企業は中国のサプライチェーンへの依存を減らしつつあり、iPhone、半導体、自動車部品などの生産拠点を東南アジアやインドへと移し始めています。
それに対し、中国当局は引き続き経済発展の路線を行政的に主導しようとしています。他国が製造業中心からサービス業や消費主導型経済へと構造転換を図っているのに対し、中国は依然として「中国共産党(ちゅうごくきょうさんとう)」主導の「中国特色(ちゅうごくとくしょく)」発展モデルに固執し、市場メカニズムの役割を軽視しています。
近年では、中国の最高指導者が「新質(しんしつ)生産力」の発展を掲げ、国家資源を電気自動車や半導体といったハイテク製造業に集中投資しています。しかし、これらの分野における民間の実需は限られており、供給が需要を大きく上回る結果となっています。そのため、資源の誤配分や過剰生産を招き、経済全体に下押し圧力がかかっており、景気低迷の兆候が徐々に現れつつあります。内需拡大による消費循環が構築されない限り、国民は経済成長の恩恵を十分に享受することができません。
2024年ノーベル経済学賞を受賞したDaron Acemoglu(ダロン・アセモグル)、Simon Johnson(サイモン・ジョンソン)、James A. Robinson(ジェームズ・A・ロビンソン)の3人の研究者は、国家の繁栄と貧困を分ける要因として「制度の違い」に注目しました。彼らは、国家の制度を「包摂的制度(ほうせつてきせいど)」と「搾取的制度(さくしゅてきせいど)」に分類しています。前者は、あらゆる社会階層の人々が経済活動に平等に参加し、公平な競争が行われることで、利益が広く共有される仕組みを指します。後者は、権力と富が少数のエリート層に集中し、法の支配や権力の分立が欠如しており、国民の大多数が一部の特権層の利益のために働かされる構造です。
彼らの研究によれば、長期的な経済成長を可能にするのは包摂的制度であり、世界中の成功事例の多くはこの制度を採用しているとされています。一方、搾取的制度は短期的には経済成長を実現する可能性があるものの、その成長は持続せず、やがて停滞または衰退に至ると指摘しています。
アセモグル氏は2014年の講演において、当時の中国を「搾取的制度のもとで成長している典型的な国家」と表現しました。そして、この制度では長期的な持続的経済成長は望めないと明言し、今日の中国経済の衰退をすでに予見していたのです。
その一方で、米国からの輸出圧力も日に日に強まっています。『Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)』が3月28日に報じたところによると、何十年もの間、中国の輸出は世界最大の消費市場である米国に大きく依存してきました。しかし、現在再び政権の座に就いたDonald Trump(ドナルド・トランプ)大統領は、対中関税の強化を継続しており、多くの中国製造業者が「米国に輸出しても利益が出ないなら、どこに売ればよいのか?」という現実に直面しています。
これに対して、カンボジアやベトナムへの工場移転を検討する企業もあり、米国による中国製品への関税回避を狙っています。さらに、仲介業者を排除し、ECなどを通じて消費者に直接商品を販売することで、コスト削減と利益確保を図る動きも出ています。
しかし、こうした対策にも限界があります。トランプ政権が今後さらに関税を引き上げ、米国企業に対して国内調達を一層促進すれば、中国の輸出企業にとっては致命的な打撃となりかねません。これまでの関税政策により、中国製品のコストは平均で20%上昇しています。形式上は米国の輸入業者が関税を負担していますが、実際には米国の小売業者が中国側の供給業者に値下げを要求しており、薄利で運営されている中国の工場にとっては、倒産のリスクが高まっています。
さらに懸念されるのは、トランプ大統領が4月2日に新たな「報復関税」政策を発表する可能性があることです。その対象には、中国企業が工場移転先として検討しているベトナムやカンボジアなども含まれる可能性があり、多くの製造業者が「どこへ行けばいいのか分からない」という深刻なジレンマに陥っています。
(翻訳・吉原木子)