中国の新華社通信はこのほど、現在中国ではさまざまな分野で故郷に戻って起業する者が1200万人を超えており、その多くは若い大学生や都市部のホワイトカラー層であると主張しています。

 今年の中国共産党(以下、中共)「全国両会」(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)では、故郷に帰り、4000頭の牛を飼い育てて富を築いた大卒者が代表として登場しました。

農民が故郷に帰るのは起業のためか?

 最近、若者の故郷に帰って起業するニュースが中国のメディアで頻繁に取り上げられています。しばしば「3年で年収100万元(約2000万円)を超えた」といった内容が報じられ、起業の種類も多岐にわたります。例えば、ダチョウを飼育する者もいれば、キュウリを販売する者、サラミを販売する者、食用キノコを育てる者もいます。

 しかし、これに対して多くのネットユーザーは懐疑的な反応を示しています。
 「(都市で)仕事を見つけられず、仕方なく(故郷の)家に帰っただけなのに、政府は私を故郷に帰って起業した者だと言っている」
 「政府が言うところの『故郷に帰って起業した者が1200万人を超えた』というのは、実際には失業者が1200万人を超えているということだ」

 中国のTikTok(ティックトック)では、2025年の故郷に帰って起業するという内容の動画が6500件以上のコメントを集め、その多くは中共が失業を美化して故郷に帰って起業するという手法を批判しています。

 陝西省のあるネットユーザー(@司马缸砸光)は「妻の兄は1月16日に南部へ出稼ぎに行き、3月初めに荷物を持って帰ってきた。それが(政府が言うところの)故郷に帰って起業した者だったのだ」と述べました。

 広東省のあるネットユーザー(@这只因不太美)は、「街で何もしていないのに、(政府は)これが市場調査をしていると言っている」とコメントしました。

「4000頭の牛を飼う」という誇張がバレる 

 今年の中共の「全国両会」では、河南省南陽市出身の女性で、全国人民代表・趙昭(ちょうしょう)さんがメディアに広く取り上げられました。

 中共の機関紙「人民網(人民日報)」によると、24歳の趙さんは2008年、鄭州市での仕事を辞め、故郷に帰って牛を飼い始めました。現在、9棟の標準化された牛舎を持ち、4000頭の肉牛を飼育しており、年産額は6000万元(約12億円)に達し、周辺の500以上の農家を肉牛飼育に参加させています。

 趙さんは今年の「全国両会」の会場で公式メディアに対して「熱意を込めて」演説し、「大学卒業後に故郷に帰り、4000頭の肉牛を飼育するという起業の神話を作り上げた」と主張しました。このインタビュー動画はSNSで数日間広まり、ネットユーザーから「草稿なしで大げさに話す」「基本的な常識のない作り話」と批判されています。

 あらゆる産業が低迷している現在、牛の飼育も儲からないビジネスとなっています。中国メディアの報道によれば、牛の価格が大幅に下落した影響で、多くの肉牛の飼育者が赤字に陥っています。趙さんが「4000頭の牛を飼う」と自慢する一方で、複数の牛飼いがネットに動画を投稿し、牛の飼育が赤字で深刻な状況を訴えています。

 ある養殖業者がTikTokに動画を投稿し、次のように疑問を呈しています。「今の牛はどんどん価値が下がっている。うちの村では最初に3頭の牛を買うのに35000元(約70万円)かかり、今では10頭の牛を売っても32000元(約64万円)にしかならない。3年間育てて最後は赤字だった。あなた(趙さん)は4000頭の牛を飼ってどうやってお金を稼いだのか、その養殖で成功する秘訣を公開して、全国の養殖業者と一緒にお金を稼げるようにしてほしい」

 養殖を行っているネットユーザーは、公式メディアを皮肉った動画を撮り、こう述べています。「一般の人々は趙さんの『起業プロセス』を学ぶ必要はない。なぜなら、牛を飼うのは難しくないからだ。学ぶべきことは、彼女が大卒後に最初の『起業資金』をどうやって得たのかということだ」

 公開情報によると、趙さんは2015年に「南陽雅民農牧有限公司」という会社を設立しました。趙さんの持株比率はわずか21%で、大株主ではありません。大株主は張華さんという人物で、持株比率は64%以上、張さんはまた、同社の取締役兼総経理を務めています。この会社にはもう一人の株主がおり、河南省政府と関連のある投資ファンドで、持株比率は14.28%です。明らかに、趙さんの会社には地元政府からの資金支援があり、これはどの農民でも得られるものではありません。

 趙さんはその後のインタビューで、最初は50頭の牛だけを飼っていたが、後に協同組合を設立し、多くの牛飼いが参加することで、徐々に「4000頭の牛規模に達した」と主張しました。

 しかし、商業情報プラットフォームで調べてみると、趙昭名義のその協同組合は、今年の3月11日、つまり中国共産党全国人民代表大会が閉幕したその日に設立されたばかりで、出資額はわずか50万元(約1000万円)に過ぎないことが分かりました。

 日本在住の政治評論家、五岳散人氏は、この件について次のようにコメントしています。「趙さんを取り上げた理由は、(中共が)その典型を作りたかったからだ。例えば、大学生が故郷に帰って起業するという話をするには、誰か一人を選んでその人物を代表的な存在として持ち上げる必要がある。この若い女性も何もしていなかったわけではないが、なぜ大株主ではなく、彼女を選んだのか。それは(中共が)大学生の故郷に帰っての起業を提唱しているからだ。」

若者の失業状況

 ラジオ・フリー・アジアによれば、中国国家統計局は20日に2月の失業率データを発表しました。それによると、全国の都市部で在校中の学生を除いた16歳から24歳の労働人口の失業率は16.9%で、2カ月連続で上昇しています。また、在校中の学生を除いた25歳から29歳の労働人口の失業率は7.3%で、15カ月ぶりの高水準となっています。

 一方、香港科学技術大学の丁学良名誉教授は、香港メディア「信報」で発表した記事で、中国の大卒の失業者は3000万人近くに達しており、就業率は公式に発表されている56%を大きく下回り、平均して30%以下であると予測しています。また、高校の教員と交流したところ、最も低い就業率を示した高校ではその数字がわずか20%に過ぎないことが分かったと述べています。

 中国国家統計局の公式ウェブサイトによると、毎週1時間働けば就業と見なされるとのことです。一方で、アメリカでは15時間、フランスでは20時間となっています。なお、農業人口は常に中共の統計局による就業者数の範囲に含まれていません。2025年には1222万人の大学生が卒業し、就職活動を行うと予測されています。

 また、台湾シンクタンクの顧問である陳俐甫(チン・リフ)氏はラジオ・フリー・アジアのインタビューで、こうした動きが失業率を美化できると指摘しました。「これは、田舎で労働を探し、近くの畑で青菜を育てたり、農作業を手伝ったりすることで起業していると見なされ、失業人口に含まれないことを意味する。目的は都市部の失業者をすべて農村に押し込めることだ。本来、5人で1ムー(約200坪)の畑を耕すのが適切なのに、無理に10人を詰め込むことで、みんなに仕事があるように見せかけるのだ」

(翻訳・藍彧)