2025年3月28日、ミャンマーで発生した大規模な地震が隣国タイにも及び、大きな人的・物的被害をもたらしました。なかでも、タイの首都バンコクでは、建設中だった高層ビルが地震の衝撃で数秒のうちに崩壊し、多くの注目を集めています。このビルは、中国の国有企業である中国中鉄十局(ちゅうごくちゅうてつじゅうきょく)が施工を担当しており、事故直後には同社が以前に公開していた「竣工祝い」の記事を削除したことで、「手抜き工事」との批判がネット上で広がりました。
同日午後、ミャンマーのザガイン地方域でマグニチュード7.7の地震が発生。震源から遠く離れたタイでも大きな揺れが観測され、バンコクではすでに上棟済みだった建設中の高層ビルが、あっという間に瓦礫の山と化しました。多くの作業員がその場に取り残されました。
複数の国際メディアの報道によると、事故当時、現場にはタイ人を含む300〜400人の作業員が作業しており、外国人労働者も含まれていたとされています。タイのアヌティン・チャンウィーラクン(Anutin Charnvirakul)副首相は、「この事故により少なくとも8人が死亡し、110人以上が瓦礫の下に閉じ込められている。現在までに12人が救出された」と述べました。また、倒壊の主な原因として「建物下部の柱の破損」が挙げられています。
バンコク・ポストの報道によれば、タイの副監査長官スティポン・ブンニティ(Sutthipong Boonnithi)氏は、このプロジェクトがイタリアン・タイ・デベロップメント社と中国中鉄十局有限公司による共同事業体「ITD-CREC」によって施工されていたと明かしました。
中国のニュースサイト財新網(ざいしんもう)は3月28日、今回倒壊したビルが中国中鉄十局にとって初の海外超高層建築プロジェクトだったと報じました。33階建てのオフィスビルで、地震によって構造が深刻な損傷を受け、最終的に全壊に至ったとのことです。現地では死傷者数が依然として増え続けています。
皮肉なことに、事故のわずか約1年前、2024年4月2日には中鉄十局が公式WeChatアカウントにて、同ビルの主体構造が3月31日に無事上棟したことを祝う記事を公開していました。しかし、地震が発生した28日の午後には、この記事が即座に削除されました。海外の一部報道機関では、そのスクリーンショットが保存されており、現在も事件の重要な証拠とされています。
この一連の出来事はネット上で大きな話題となり、多くのネットユーザーが中鉄十局の施工品質や企業姿勢に疑問を呈しました。「どの国がまだ彼らに建設を依頼するのだろうか?」「海外にまで手抜き工事を輸出するとは…」といった批判の声が相次ぎました。
その日の夜、中国国内のポータルサイト「网易(ワンイー)」に、今回の事故に言及した個人運営のブログ記事が複数投稿されました。その中のひとつは「タイでビル倒壊、中鉄十局が即座に記事を削除」というタイトルで、広く注目を集めました。
記事によれば、崩壊したビルは高さ137メートルで、タイの監査署の新庁舎として使用される予定でした。中鉄十局が投稿していた元の広報記事では、このプロジェクトが「中国海外建設の名刺」と称されており、建設過程では最新の滑り型枠工法や自動クライミング足場技術、多方向配管ゼロ干渉設計などの先進技術が導入されたと説明されていました。
さらに、記事は「技術攻関チーム」を編成し、安全を最優先に全ての難題を克服する方針であったとし、配電・消防・空調設備の配管ルートに至るまで、衝突を避けるよう精密に設計されていたと紹介しています。
しかし、この華々しく紹介された「海外の模範プロジェクト」は、遠く離れた地震一つであっけなく崩れ落ち、「まるでブラックジョークのようだ」と記事は皮肉を込めて指摘しています。
さらに、「建物が倒れるのはまだしも、宣伝は倒してはならない」とし、中鉄十局が現場がまだ粉塵と悲鳴に包まれている最中に、驚くほど素早く過去のPR記事を削除したことに触れています。
「技術的課題の克服は失敗、配管の干渉も気にされず、ビルが倒壊しても問題なし。だが、ネット空間はクリーンに保たれ、企業イメージも、国家の体面も守られた」という風刺的な一文が印象的です。「あのかつて百メートルを超える高さを誇った“海外の名刺”は、今では瓦礫と化し、次の“迅速な削除劇”が再演されるのを静かに待っている」と締めくくられています。
また、別の個人記事では「ミャンマーの強震がバンコクに影響、唯一倒壊したのは建設中のタイ監査署ビル」と題し、「このプロジェクトはタイ側が設計し、中鉄十局が施工を担当した」こと、そして「昨年4月に発表された上棟祝いの記事が事故直後に削除された」ことにも言及していました。
しかし、これら中鉄十局の対応を批判したブログ記事も、わずか数時間のうちにすべて削除され、中国のネット上から完全に姿を消しました。
中国国内のSNS上でも、多くの関連投稿が一夜にして削除されました。翌3月29日時点で、わずかに残っていた投稿の中では「唯一倒壊したのが中鉄十局のプロジェクトとは。去年あんなに誇らしげに上棟を報告していたのに、こんなにも耐震性が低いとは。まさに手抜き工事で恥ずかしい」といった声が上がっていました。
また、「中鉄十局が施工したビルが倒壊した。もっと詳しい情報を公開してほしい。まるで何もなかったかのように振る舞うのはおかしい」と疑問を投げかける投稿も見られました。
一方、中国の国営メディアはこの事故について、きわめて簡素な対応にとどまりました。新華社(しんかしゃ)は50字足らずの速報のみを掲載し、「救助現場の最新情報によると、地震によりバンコクの高層ビルが倒壊し、5人が死亡、9人が負傷、117人が行方不明」と報じただけでした。
CCTV(中国中央電視台)の報道でも、施工を担当した中国中鉄十局の名前は一切言及されず、また倒壊現場に中国人作業員がいたかどうか、その安否などについても中国政府からは一切の情報が公開されていません。
(翻訳・吉原木子)