近年、海外で学業を終えた中国人留学生の多くが、将来への希望を胸に帰国の道を選んでいます。しかし、帰国後に直面する厳しい就職環境や社会的偏見は、彼らの期待を大きく裏切っています。
とりわけ中国国内では、留学経験を持つ若者が、政府主導の不信や制度的な差別の対象となる傾向が強まっており、その進路や生活に深刻な影響を及ぼしています。
そうした中、一人の留学帰国者が海外のSNS「X(旧Twitter)」に投稿した手記が注目を集めています。自身の体験をもとに、海外在住の中国人留学生に「中国には戻らないでください」と繰り返し訴えかけ、ネット上で共感と議論を呼んでいます。
留学帰国者の叫び
あるユーザーが3月18日、Xに投稿したスクリーンショットが話題となりました。そこには「留学帰国者からの手紙」と題された文章が掲載されており、筆者は自らの体験を通じて、最終的に導き出した結論は「中国へ戻るな」です。
この「留学帰国者」は投稿の中で、自身が中国国内の一流大学(211大学)を卒業し、その後海外で大学院に進学し、最近学業を修了して帰国したと述べています。
帰国前には、「多くの人が『中国に戻るな、仕事は本当に見つからない』と忠告してくれたが、その言葉を信じず、皆が適当なことを言っているのだと思い込んでいた。ところが、実際に帰国してしばらく経つと、現実の状況は本当にひどいと身をもって知ることになった」と語りました。
この留学帰国者は、「理屈で言えば、自分の学歴、専攻、実習経験を考えれば、食べていく程度の仕事を見つけるのはそれほど難しくないはずだ。しかし実際には、ここ数カ月の間に無数の履歴書を送り、数えきれない面接を受けてきたにもかかわらず、満足できる仕事は一向に見つからなかった」と嘆いています。
現在、国内の就職市場は、求職者に対して求人が圧倒的に少ない状況にあり、良いポジションはごくわずかです。たとえ比較的条件の良い企業であっても、提示される給与は期待を大きく下回っています。
また、一部の国有企業では留学経験者を受け入れようとせず、「海外で自由主義思想に染まってきた者は、もはや『自分たちの仲間』ではない」と見なす傾向もあると言います。
一方、民間企業に目を向けても、待遇が極めて悪かったり、「週6日勤務・週1日休み」という過酷な労働条件、あるいは頻繁な残業が求められたりする場合が多く見られます。
この留学帰国者は、「こうした厳しい現実を家族にはとても話すことができず、やむなく一方では日給50元(約1000円)のビラ配りのアルバイトをこなしながら、もう一方で新たな就職先を探し続けている。反独裁・反專制、そして民主と自由の理想こそが、絶望の中でも前に進み続けるための最も力強い支えになっている」と語っています。
この留学帰国者は次のように強く忠告しています。
「これまでの経験から言わせてもらうが、海外にいる留学生にはこう忠告したい。たとえどんな困難に直面しても、どれほど厳しい状況にあっても、絶対に中国には戻るな」
「ようやく今になって、この社会における底辺層の人々が感じている絶望というものを理解し始めた。このような絶望的な状況の中にあって、真に社会の最下層にいる人々は、良い教育も受けられず、追い詰められた末に、誰が自分たちを本当に搾取しているのかすら分からなくなっている。それはひとえに、言論の統制によって声を上げる手段も、救いを求める道も奪われているからである。だからこそ彼らは、体制への過剰な忠誠心からくる極端な行動によって社会に報復し、善悪の区別もつけずに、すべてを巻き添えにして壊そうとするようなところまで行き着いてしまうのだ」
「自分自身だけのスローガンをここで声に出して叫びたい。
うそではなく尊厳を、
フリーターではなく安定した雇用を、
口封じではなく自由を、
專制ではなく人権を、
搾取ではなく保障を、
奴隷ではなく市民であれ」
この留学帰国者は、最後に三度繰り返してこう訴えました。
「中国には、戻るな!戻るな!絶対に戻るな!」
これに対して、SNS「X(旧Twitter)」上では、ネットユーザーたちから次のようなコメントが寄せられています。
「まさに事実を語っている」
「かつて中国でヘッドハンターをしていた。しかも多くのヘッドハンターたちの指導役でもあった。そんな私が心底失望してアメリカに来たのである。ヘッドハンターを辞めるというのが何を意味するのか、分かるか?」
「今の中国では、国有企業はあまり留学経験者を受け入れなくなっている。コネでどうにかなる人のことは知らないが、公務員に至っては、今では完全に留学生の受験が認められていない」
「中国では、本当に絶望的な状況である。仕事は見つかりにくく、あちこちで減給や人員削減、さらには給料の未払いも起きている。気軽に投資したり起業したりすることもできない。一夜にして極度の貧困状態に逆戻りするのではないか、あるいは借金まみれで信用情報に傷がつき、一生立ち直れなくなるのではないかと、皆が恐れているのだ」
留学帰国者は中共から「潜在的スパイ」と見なされる存在に
中国共産党(以下、中共)の統治体制は、すでに「全国民がスパイを摘発する時代」へと逆戻りしていると指摘されています。その中でも、海外からの留学帰国者は、真っ先に当局の監視対象となっています。
中国国家安全部が公開している宣伝資料によれば、反スパイ機関は、海外に在住する華僑や欧米へ留学した中国国民を、いずれも「敵対勢力」によってリクルートされる可能性のある潜在的スパイとして扱っているとされています。
ある元中央メディア記者は、これを裏付けるよう次のように証言しています。
「留学または海外に6カ月以上滞在した中国人は、以前から中共にとって重点的な監視対象であった。政府の正式な派遣でない場合、原則としてそうした人物は軍・警察・情報機関、あるいは機密を扱う部門への就職が禁止されていた。現在ではその管理範囲が大幅に拡大しており、当人だけでなく、その直系親族までもが『重点審査対象』として扱われている。また、監視対象となるのは、軍や警察だけではない。いまや一般の公務員や公的機関の職員採用においても、留学帰国者には門が閉ざされつつあるのが現状だ」
2025年に入り、中国の多くの省や市で、公務員採用における留学生の応募が制限または禁止されるようになっています。
広東省では、ハーバード大学やオックスフォード大学など、海外の著名大学60校の卒業生を採用試験の対象外としました。山東省では、どの選考枠であってもすべての海外大学卒業生が応募できないとしています。
河北省・河南省・山西省でも、2023年までは海外の著名大学卒業生にも応募資格がありましたが、2024年以降はすべての海外大学卒業生が対象外となりました。
湖北省の地方当局のある中級官僚も、ラジオ・フリー・アジアに対し次のように語っています。「中共の官僚や富裕層が自分たちの子どもを海外に留学させるのは、もはや一般的なことである。そのため、留学帰国者の中には官僚の子弟が多く含まれている。公式の制限措置の影響をより強く受けているのは、一般市民の留学帰国者であり、官僚の子弟に対する影響はそれほど大きくない。なぜなら、彼らにはこうした禁止措置を回避するためのさまざまな手段があるからだ」
(翻訳・藍彧)