世界で最も高い未完成ビルは中国の天津にあります。それが、総工費700億元、高さ596.49メートルを誇る超高層ビル「高銀金融117(Goldin Finance 117)」です。もしこのビルが完成していれば、世界で最も高い建築物の一つとなっていたはずです。しかし、2015年に資金難により工事が中断され、同年9月にはイギリスのギネス世界記録に「世界一高い未使用建築物」として登録されました。

 イギリスの『デイリー・メール』紙は3月19日、この「高銀金融117」は2008年に香港の富豪・潘蘇通(パン・ストン)氏の主導で着工されたプロジェクトであり、「新・京津高銀天下」都市開発計画の中心的存在として位置づけられていたと報じました。

 建築関連サイト「B1M」によると、高銀金融117は地上128階、地下4階構造で、地上117階には住宅、ホテル、オフィスなどが入る予定でした。残りの11階は機械設備や運営管理に使用される計画で、世界一高い展望台、プール、レストラン、スカイバーも設けられる予定でした。

 2015年時点で、高銀金融117は世界で5番目に高いビルであり、ドバイのブルジュ・ハリファ、上海中心、メッカのアブラージュ・アル・ベイト時計塔、深センの平安金融中心に次ぐ高さを誇っていました。

 他の同規模の超高層ビルと異なる点は、高銀金融117の最上階が居住可能な空間として設計されていたことです。完成していれば、居住可能な建物としては世界第2位の高さとなり、828メートルのブルジュ・ハリファに次ぐ存在になる予定でした。

 『チャイナ・デイリー』はかつて、中国株式市場が2015年半ばに崩壊したことにより、香港の高銀地産グループの資金繰りが悪化し、同年9月に構造上の最上階まで完成したものの、それ以降は工事が停止されたと報じています。2020年12月には無期限の工事中断状態となりました。その後、部分的な再開工事もありましたが、結局完成には至りませんでした。

 『镁刻地产(メイカー不動産)』によると、2015年5月21日には高銀グループ傘下の高銀地産と高銀金融の株価が一時60%以上も急落し、時価総額は1,000億香港ドル以上消失しました。潘蘇通氏は両社の株式の約3分の2を保有しており、1日で個人資産が800億香港ドル以上減少しました。

 工事停止にもかかわらず、高銀地産は2016年の年次報告書で「このランドマーク的な超高層ビルは、現在中国で最も高い建物であり、構造上の高さでは世界第3位です。この壮大な建築物は、当社の卓越した不動産開発能力を証明するものです」と述べていました。実際には、この時点で117大厦は「ダイヤモンド型の頂部」と外装の仕上げを残すのみとなっていました。潘氏は当時、「このプロジェクトにはすでに400億元を投資した」と語っています。

 その後数年間にわたり、このビルは再三にわたって工事中断と再開を繰り返しました。

 2020年6月には、中国信達資産管理股份有限公司が公告を出し、「高銀地産が委託貸付契約に基づく元利金の返済を履行しておらず、裁判所に訴訟と財産保全を申し立てた」と発表しました。訴状では、元本15億元と利息、延滞金、複利、違約金の支払いを求め、被告名義の資産を差し押さえ・凍結するよう要請しています。

 天津の市場関係者は、「要するに、信達が高銀に資金を貸してビルを建てさせ、完成・販売後に返済するという計画だったが、大きな利益か巨額損失かの賭けだった。結局、ビルは完成せず、在庫物件も売れないため、高銀は返済できず、信達のような不良債権処理のプロまでもが債権回収に追い込まれている」と述べました。

 実際、当初からこのプロジェクトには大きな困難があったと指摘する声もあります。まず、開発企業である高銀グループは中国市場では新参者であり、中国政府の支援もない中、全額を自己資金でまかなう必要がありました。

 さらに、天津のような二線都市で高級住宅プロジェクトを展開すること自体が無理のある計画だったとする見方もあります。というのも、ターゲットとするエリート層にとっては魅力に欠けていたからです。

 高銀金融117をはじめとする超高層ビルプロジェクトの連続した頓挫を受け、中国国家発展改革委員会は2021年に、500メートルを超える超高層建築の新規建設を禁止すると発表しました。さらに、250メートルを超えるビルについても厳しい制限が課されるようになりました。つまり、今後仮に高銀金融117が工事再開となっても、それは中国において最後の「高さ500メートル超え」の超高層ビルとなる可能性があります。

 かつて不動産業は中国のGDPの約25%を支えていましたが、2020年に政府が「住宅は投機のためでなく住むためのもの(房住不炒)」という方針を打ち出し、不動産企業への融資に“三道紅線(中国政府が2020年に不動産企業向けに導入した融資規制。資産負債率、純負債率、現金短債比率の3つの財務指標に基づき、借入れ制限を段階的に強化するもの。)”という規制を設けたことで、長年依存していたレバレッジ経営が行き詰まりました。その結果、多くの建設プロジェクトが中断し、開発案件が大幅に減少するなどの問題が次々と発生しました。

 さらに経済の減速、地方政府の財政難により、企業の倒産、公務員の給与削減、住宅ローンの返済停止といった連鎖的な社会問題も広がりました。こうした状況を受け、2024年9月に開催された中国共産党中央政治局会議では、実質的に「房住不炒」政策の終結が宣言されるに至りました。

(翻訳・吉原木子)