最近、湖南省郴州市永興県で、ある河川の水質観測地点においてタリウム濃度の異常が検出されました。この汚染は市をまたいで拡大し、下流地域の住民の飲料水安全に深刻な脅威を与えています。永興県政府は、突発的な環境事件として四級の緊急対応を発動しました。この事件をめぐる情報はインターネット上でも大きな注目を集めましたが、関連する報道の多くが削除されたことで、情報統制の疑いも生じています。

 『極目新聞』の報道によると、永興県政府弁公室は通達を発表し、3月16日午後8時、耒水の郴州・衡陽市境にある大河灘の地表水自動モニタリングステーションでタリウム濃度の異常が検出されたとのことです。これを受けて永興県政府は、3月17日午前0時に耒水流域で第IV級の緊急対応を開始しました。

 大河灘村の住民によると、最近村内ではこの件について話題になっており、ある人から「当局が耒水で密漁を厳しく取り締まっているのは、水質汚染を懸念して、魚が人体に有害になることを恐れてのことではないか」と聞かされたそうです。また、「周辺のある県で工場からの排水に問題があったらしく、その後地元ではダムに薬品を投入して水質を浄化している」との情報もあったとのことです。この住民は「我が家は耒水から数十キロ離れた場所の地下水を使用しており、今のところ特に問題はない」と話す一方、「耒水の近くで井戸水を使っている村民は、飲料水が影響を受けているかもしれない」と懸念を示しました。

 3月22日の夜、永興県政府弁公室の担当者は、報道内容が事実であることを認めました。3月16日にタリウム濃度の異常が確認されて以降、永興県の関係部署は周辺地域と協力して対応にあたっており、一方では汚染水域に薬剤を投入してタリウム濃度を下げる作業を行い、もう一方では汚染源と原因の特定に努めているとのことです。ただし、現時点では具体的な原因については把握できていないとしています。なお、同県の飲料水は現在のところ通常通り供給されています。

 『九派新聞』の報道によると、衡陽市にあるある塩化企業が社内通知を発表し、自社の供給水源が耒水の該当区間にあるため、市と区の環境保護局からの通知を受け、今後半月の間、耒水の水を飲用や食品の洗浄などに使用しないよう呼びかけたとしています。

 また、3月23日にはCCTVが、湖南省(こなんしょう)郴州市(ちんしゅうし)の当局が通報を発表したと伝えました。それによると、最近耒水流域の一部河川で水質に異常が見られたため、迅速に緊急対応措置を発動し、下流地域と連携して対応を進めているとのことです。モニタリングの結果、沿線地域の飲料水は安全であるとされています。

 タリウムは無色無臭の金属で、主に鉛・亜鉛・銅などの硫化鉱石中に微量に含まれています。タリウムは人体にとって必須の微量元素ではなく、水・食物・空気を通じて体内に取り込まれた場合、肝臓がん・食道がん・大腸がんなどを引き起こす恐れがあります。

 公開資料によると、耒水は湖南省衡陽地域で2番目に大きな河川であり、湘江の支流の中でも最長・最大とされています。全長は約453キロメートルにおよび、郴州市(ちんしゅうし)の汝城県(じょじょうけん)・資興市(しこうし)・蘇仙区(そせんく)・永興県(えいこうけん)を経て、衡陽市(こうようし)の耒陽市(らいようし)・衡南県(こうなんけん)・珠暉区(しゅきく)を流れ、最終的に湘江に合流します。

 注目すべきなのは、今回の事件に関する複数の報道がすでに削除されている点です。たとえば、『网易新聞』と『東方財富網』の記事は現在、いずれも「404 Not Found」と表示され、閲覧できない状態となっています。このことから、当局による情報封鎖の可能性が指摘されています。

 インターネット上では湖南省(こなんしょう)出身のユーザーを中心に怒りの声が広がっています。あるユーザーは「有色金属の精錬に長年携わってきた。今さら息子がこの業界で働けるか?周囲にはがんになった同僚が多く、すでに亡くなった人も少なくない」と憤りをあらわにしています。

 また、別のネットユーザーは、「永興ではよくあること。河原の泥は奇妙な色をしていて、草も生えない。工場は黒煙を違法に排出していて、通報すれば一時的に停止するが、夜になるとまた稼働を再開する。廃棄物から貴金属を抽出する工場がきれいなはずがない」と指摘しています。

 情報封鎖への不満も高まっています。「何日も経っているのに、未だにどの工場かを明かさないなんて恐ろしい」「これは劇物なのに、しかも飲料水源なんでしょ?」「よくよく考えると本当に恐ろしい。これだけ日数が経っても原因が特定できないなんて、極めて深刻な水道水の安全事件だ。庶民の命も命なんだよ」と怒りのコメントが相次いでいます。

 地元とみられるネットユーザーは「自分は現地の人間だが、スーパーのペットボトル水はすでに売り切れている。政府はすでに6,000トン以上の中和剤としてナトリウム系の薬品を投下している」と述べています。また別のユーザーは「終わったな。もう既に(汚染水を)使ってしまってる可能性がある。庶民はほとんどが水道水を使っている。これで追い打ちだ」と投稿しました。

 注目すべきは、2021年12月21日の『財新』の報道です。中央環境保護督察チームは、湖南省にはタリウムを取り扱う企業が多く、タリウムを含む廃棄鉱山や尾鉱ダムが多数存在しており、過去にも繰り返し汚染事件が発生していると指摘しています。2020年以降、湘江の本流にある22カ所の飲用水水源地のうち、17カ所でタリウム濃度の異常が確認されており、2020年8月には12カ所が基準値を超えていたとされています。

(翻訳・吉原木子)