中国の運送業界は今、深刻な危機に直面しています。不景気により運賃は以前の半分近くに低下し、業者同士の値下げ競争も白熱化しています。さらに、共産党当局による理不尽な取り締まりや罰金も運転手たちを苦しめています。仕事を確保しようとすればするほど、過酷な労働を強いられ、中には高速道路のサービスエリアで力尽きる運転手もいます。なぜ、彼らはここまで追い詰められているのでしょうか?
運送業界で価格崩壊
中国ではコロナ禍以降、人口減少と消費意欲の減退により景気が大幅に後退し、各地で企業の倒産やリストラが相次いでいます。その影響で、運送業界では貨物量が減少し、運賃が値下がりしています。
広東省仏山市でトラック運転手として働く趙赫(ちょう・かく)さんは、2012年から業界に参入しました。海外メディア『大紀元』の取材に対し、趙赫さんは、「市場の状況は厳しい」と嘆いています。
趙赫さんによると、以前の運賃水準は100kmあたり450元(約9,200円)でしたが、今では280元(約5,700円)、ひどい時には170元(約3,500円)まで下がっています。
「とにかく運転手の数が多すぎる。ベテラン運転手が発注を拒否しても、新人が安い価格で受注してしまい、価格崩壊が起きてしまった」と趙赫さんは指摘します。「今では、ベテラン運転手も安い運賃を受け入れなければ仕事にありつけない」といい、「月収1万元(約20万円)を超えるのも難しい」とのことです。
アプリで価格競争激化
中国では10年ほど前から、物流プラットフォームの普及により運送業者間の価格競争が激しさを増しています。代表的なものとして、「貨拉拉(ララムーブ)」や「運満満(ユンマンマン)」などがあり、運転手はオンライン上で荷物の送り主とマッチングし、仕事を受注します。
河南省開封市に住む李浩(りこう)さんは、3年前に輸送業界に参入しました。以前は工場勤務やフードデリバリーの仕事をしていましたが、最終的に「貨拉拉(ララムーブ)」の運転手として働くことを選びました。
李浩さんは、「昔は物流プラットフォームのようなものはなく、ドライバーは送り主と直接交渉して仕事を得ていた。顧客との関係を築き、維持しなければならない。頭が良くないとやっていけない業界だった」と話します。「ですが、その分収入も良かった。帰りの便が空車でも、十分に利益を出すことができた。アプリが登場してから状況は一変した」。
この10年間で、中国の運送業界は物流プラットフォームにほぼ独占される形となりました。李浩さんは、「工場が荷物を発送する情報はすべてオンライン上で共有され、多くの運送業者が同じ情報をもとに仕事を奪い合っている。結果として価格競争が激化し、以前は1kmあたり10元(約200円)だった運賃が、現在では5元(約100円)まで下落した」と述べました。
取り締まりが生んだ悲劇
中国のトラックの運転手を苦しめるのは、業界内での値下げ競争だけではありません。政府による過剰な取り締まりや理不尽な罰金も、時に命取りとなります。
河南省鄭州市で2024年12月5日、トラック運転手が高架橋の上から飛び降りる事件が発生しました。地元ではトラックの高架橋走行が禁止されており、この運転手は取り締まりを受け、逃げ場を失った末に絶望し、飛び降りたとみられています。
地元警察の説明によると、通行禁止の違反については罰金100元(約2,000円)と減点1点の処分が科されます。しかし、インターネット上では、「実際には罰金数千元(数万円)、6点の減点が一般的ではないか」との指摘があり、中国警察による理不尽な法執行が浮き彫りになりました。
2021年4月5日に発生した金徳強(きん・とくきょう)さんの事件は、その典型例です。トラック運転手だった金徳強さんが河北省内の検問所を通過した際、ナビゲーションシステムの不具合を理由にトラックを押収され、さらに2000元(約4万円)の罰金を科されました。金徳強さんは処分が不当であると抗議しましたが、受け入れられませんでした。高額な罰金を支払えず、絶望した金徳強さんは農薬を飲み、自ら命を絶ちました。
上海出身の企業家で、現在はアメリカに住む胡力任(こ・りじん)氏は、「トラック運転手は中国社会で最も過酷な労働環境に置かれている職業のひとつだ」と指摘しています。長距離の貨物輸送は複数の地域をまたぐため、道路管理局や運輸局だけではなく、複数の法執行機関が関わるため、搾取されるリスクも高まります。
相次ぐトラック運転手の突然死
激しい競争と厳しい取り締まりのなか、日々プレッシャーに晒される運転手がトラックの中で突然死する事例も複数確認されています。
2024年11月15日、江蘇省徐州市で43歳のトラック運転手、劉磊(りゅう・らい)さんが配送途中に意識を失い、高速道路のサービスエリアで命を落としました。彼は、意識が遠のく前に車両を安全な場所に停めることに成功しましたが、そのまま帰らぬ人となりました。
今年2月13日、内モンゴル出身のトラック運転手、劉俊平(りゅう・しゅんぺい)さんは、浙江省まで貨物を輸送しましたが、帰りの注文を待つため、そのまま現地に滞在していました。翌日、同行していた運転手仲間が新たな配送案件を受注し、彼を呼びに行ったところ、劉俊平さんがトラックの車内で亡くなっているのを発見しました。
2024年4月17日、中国の動画投稿プラットフォーム「抖音(ドウイン)」には、「また一人、トラック運転手が亡くなった」というタイトルで動画を公開しました。投稿者によると、ある運転手が工場で積み荷の順番待ちをしている最中に亡くなったとのことです。「工場側が運転手と連絡が取れなくなり、トラックを確認したところ、すでに息を引き取っていた」とのことでした。投稿者は動画内で「今月だけで10人以上の運転手が亡くなった」と語っています。
ストライキも無意味、崩壊する運送業界
3月1日、中国のトラック運転手たちは運賃の引き上げや運行環境の改善を求めてストライキを試みました。しかし、参加者はごく一部にとどまり、結果として、運転手たちの要求は何ひとつ実現しませんでした。
趙赫さんは、「ストライキを起こしても、大きな影響を与えるのは難しい。ある地域だけストライキしても意味はなく、全国規模でストライキしなければ状況は変わらないだろう。しかし、仕事を休めば、その分の収入がなくなってしまう」と複雑な心中を語りました。
李浩氏は、「失業者が自腹でトラックを購入し、運送業に参入するケースが増えている。競争が激化し、仕事を得るのがさらに難しくなった」と述べました。
深圳市で運送業を営む陳龍(ちん・りゅう)さんは、「貨拉拉(ララムーブ)の小型貨物運送業はすでに崩壊している」とし、「多くのワンボックス車のドライバーは、車を売って業界を去っている」と述べました。
中国物流・購買連合会の報告資料によると、中国国内のトラック運転手の数は約1,600万人です。これは、6年前に比べて約1,400万人ものドライバーが業界を去ったことを意味します。
(翻訳・唐木 衛)