中国当局は国内観光を促進するため、2016年に各地で特色ある小鎮(小規模な町)の創設を奨励しました。これを受け、多くの地域が自らの状況を顧みず、「古風」な町を次々と開発しました。しかし、類似したデザインの施設が乱立したため、観光客は一度訪れれば十分と感じ、興味を失う傾向が強まっています。
中国の官製メディアによると、多くの古鎮が現在、運営難に陥り、一部は破産手続きを進めています。多くの古鎮が建設途中で放棄され、完成しても人が訪れず「ゴーストタウン」と化しているケースが相次いでいます。
巨額投資が生んだゴーストタウン
湖南省張家界市(ちょうかかい)に壮大な歴史テーマパーク「大庸古城」が、その壮大な景観で世界的に知られているが、それを運営する上場企業「張家界」は、苦境に立たされています。
中国の機関紙「工人日報(こうじんにっぽう)」が3月2日に報じたところによると、総投資額約25億元(約538億円)の湖南省張家界市の「大庸古城」プロジェクトが、開業から3年余りが経過した現在、累計で5億元(約108億円)以上の赤字を計上し、2024年上半期の入場券販売数はわずか2300枚、1日平均にして20人以下という厳しい状況に陥っています。
現地に到着すると、まず目に入ったのは閉鎖されたチケット売り場でした。かつては276元(約6000円)という高額な入場料が設定されていたようですが、現在は無料開放となっています。
テーマパークの入り口には、期待と不安が入り混じる観光客の姿はなく、閑散とした雰囲気が漂っていました。
園内に足を踏み入れると、広大な敷地に歴史的な建造物が点在しているものの、人影はまばらでした。営業している店舗はごくわずかで、映画館も稼働している様子はありませんでした。
ネット上では「荒涼としている」「閑散としている」「観光客より商店の方が多い」といった厳しい声が相次いでいます。
2015年頃、中国の観光業界では古都建設ブームが広がり、自然景観で名高い張家界も「大庸古城建設」に乗り出しました。公開資料によると、このプロジェクトは明清時代に繁栄した南門口の旧跡に建設され、明清様式の建築を特徴としています。敷地面積は16万平方メートルに及び、2021年6月に営業を開始しました。張家界市では単体投資として最大規模の都市型観光文化プロジェクトでしたが、現在は大きな経済的負担となっています。
莫大な投資を投じた大庸古城だが、想定していた観光客数を集めることはできず、城内の商業区のテナント誘致も低迷しています。
中国メディア「極目新聞」によると、記者が全国企業情報システムのウェブサイトで調査したところ、大庸古城の所在地にある企業や店舗は、張家界大庸古城発展有限公司を除けばわずか18軒しかなく、そのうち3軒はすでに閉店していました。
2024年12月16日、張家界景勝地を所有する張家界旅游集団は、会社の再編準備に関する公告を発表しました。それによると、同社は過去4年間で7億元(約143億円)の損失を計上し、2024年上半期だけでも6116万元(12.4億円)の赤字となっています。
特に傘下の子会社である大庸古城発展有限公司は、2024年上半期の純損失が約6438万元(約13億円)に達しました。総投資額25億元をかけたこの古城は、現在、深刻な財務難に陥り、ほぼゴーストタウンと化しています。
大量生産された人工古城、同質化の波に埋もれる危機
大庸古城の低迷は、中国各地の人工古城が直面する共通の危機でもあります。
大庸古城の建設が始まった2016年、中国の住宅建設部など三つの政府機関は「奨励・指導」する特別な通知を発表し、各地で「特色ある小鎮」建設ブームが巻き起こりました。
今や多くの古城・古鎮が経営難に直面し、中にはすでに閉鎖されたものもあります。
陝西省藍田県(らんでんけん)にあった白鹿原民俗文化村は、開業からわずか4年で観光客の減少により取り壊されました。
四川省成都市の龍潭水郷も閑散としており、周辺の住民が空き地を耕して畑にするほどの状況になっています。
総投資額40億元(約816億円)をかけ、中国の最高級観光地基準で建設された山東省済南市の宋風古城は、2019年の着工以来大きな注目を集め、2020年には山東省の「スター・プロジェクト」に選ばれました。当初の計画では、完成から2年で年間500万人以上の観光客を呼び込むとされていました。しかし、5年以上経った現在も第1期工事すら完了しておらず、園内は雑草が生い茂り、荒れ果てた状態になっています。
中国の多くの古城プロジェクトは、「古風を模倣する」という概念的な設計だけで突貫的に建設されており、その建築や商業形態はどこも似たり寄ったりです。
例えば、古風様式といえば青いレンガに白い壁、青石の敷石道路、赤い提灯が定番で、特色あるはずの屋台グルメも(豆腐の発酵食品)臭豆腐(チョードーフ)、焼きイカ、糖葫芦(砂糖がけの果物串)ばかりです。
こうした「突然現れた古城・古鎮」は、歴史的・文化的な背景を持たず、そこに暮らす住民の日常の温もりも感じられません。そのため、観光客にとっても独自の文化体験が得られず、一時は人気を集めた「古城観光ブーム」が急速に冷え込んだ大きな要因となっています。
ある観光客は、「どの古鎮もまるでコピー&ペーストされたようで、類似度は99%に達している」と指摘しています。
中国観光研究院が発表した『2024年中国古鎮観光発展報告』によると、回答者の51.3%が「現在の古鎮はある程度似通っている」と答え、38.5%が「古鎮はどれも非常に似ており、独自の特色に欠ける」と感じていることが明らかになりました。
2012年、中国古都文化研究院の林鵬院長は、当時中国には2800以上の開発済みまたは開発中の古都があると述べました。データによると、そのうち最高ランクの5A級観光地に認定されたのはわずか33カ所にとどまります。つまり、多くの古鎮の知名度が低く、深刻な同質化の問題を抱えていることを意味します。
報道によると、2018年に中国国家発展改革委員会が全国の「特色小鎮」の評価を行った際、419カ所の「問題のある小鎮」が不適格とされ、改善を求められました。その中には、多くの古風を模倣するプロジェクトが含まれていました。
「古都ブーム」に伴う巨額の建設・運営コスト
中国メディア「藍鯨財経」の調査によると、大庸古城のように数億元規模の投資を伴う人工古城プロジェクトは、中国国内では決して珍しくありません。
広東省遂渓県政府の公告によると、「遂渓孔子文化城」の建設には約3.5億元が投じられています。2023年には複数のメディアが、甘粛省天水市の古城修復に約9億元が費やされたものの、元の姿を失ってしまったと報じました。
中国では、一時的な話題性を持つ観光が主流となりつつあります。例えば、全国から観光客が押し寄せた淄博(ズーボー)の焼き肉ブーム、中国南部からハルビン旅行に向かう中国人を「南方小土豆(南の小さなじゃがいも)」現象、さらには2024年に話題となった「孫悟空に従って山西を巡る」など、現在の観光産業は単なる景色を楽しむものではなく、強い「話題性」を伴う文化観光へとシフトしています。
こうした「話題型」観光は、ひな形化された「古城観光」とは対極にあります。本当に地域の文化に根ざした観光業でなければ、こうしたブームを受け入れる土台を持つことはできません。
膨大な資金が投入されても訪れる人はほとんどおらず、結局、これらの古城は次々とゴーストタウン化していきます。
(翻訳・藍彧)