中国の大手ハイテク企業であるファーウェイ(華為)が、採用に関する不正行為の疑いで大きな注目を集めています。社内通達によると、正式社員72名と非正規雇用者19名が採用プロセスにおいて不正を行っていたことが明らかになりました。さらにネット上の情報によれば、ファーウェイ社員が候補者を紹介する際に、一人あたり2万~5万元の手数料を受け取っていたというのです。
中国メディア「澎湃新聞」が報じたところによると、ファーウェイの人事部による内部監査の結果、ICT製品・ソリューション部門など複数の部署で代理試験や試験問題の事前漏洩などの不正行為が行われていたことが判明しました。さらに、一部の社員が社内情報を外部に売却し、私的な利益を得ていたとも伝えられています。
また、ファーウェイのOD(アウトソーシング契約)社員が正式採用へと昇格する可能性があるという噂が広まり、それを目当てに裏ルートを使って採用されようとする人がいたともいわれています。ファーウェイ成都研究所のある社員は「経済観察報」の取材に対し、「今回の通達は主にデータストレージ部門が対象で、処分を受けた62名のうち一部は解雇され、一部は社内で厳重注意処分となりました。もともとこの部門は総人数が100名ほどしかいないため、多くのチームがほぼ壊滅状態になりました」と語っています。
また、この社員によると、2024年半ばの時点ですでにSNS上で「一部の人事担当者や社員が特定のITコミュニティのブロガーや外部の研修機関と結託し、代理試験の“ビジネスモデル”を構築している」という告発が出ており、「お金さえ払えばファーウェイのOD職に就ける」といった実態が浮き彫りになっていたというのです。
ファーウェイのOD社員は正式雇用契約とは異なる非正規枠ですが、給与や待遇は正式社員に近く、優秀な人材であれば正社員に登用される可能性もあります。そのため競争が激化し、不正な手段を使ってでもこのポジションを手に入れようとする人が出てきても不思議ではないでしょう。
評論家の郭閩氏は、今回のファーウェイにおける不正が明るみに出た背景として、同社の高待遇が大きな要因だと指摘しています。たとえ一時的な雇用であっても、多くの人が不正手段を使ってでも入社を目指すほどの魅力があるからです。また、中国の厳しい雇用情勢も影響しており、臨時職でさえ裏ルートを使わなければ入社が難しいほど、求職競争が激化しているといわれています。郭氏は「こうした不正取引は長年続いてきたが、今回は規模が拡大して隠し切れなくなり、表面化したのではないか」と述べました。
「搜狐科技」の報道によれば、ファーウェイの採用不正はすでに一種の「ブラックマーケット」と化しており、支社の幹部や人事担当者、開発スタッフなど多くの関係者が試験問題の漏洩や違法な金銭取引に関わっていたとされています。さらに社内の人脈を使って採用候補者を紹介する場合、2万~5万元の「紹介料」が発生するうえ、入社後も毎月3000元のキックバックを要求されるケースがあったというのです。
東呉大学企業管理学部の林修民講師は、中国社会における不正の蔓延について、「就職競争の激化や長年の不正行為の慣習、そして最近の経済低迷が重なり、採用不正が一段と深刻化している」と指摘します。ファーウェイは中国政府が重点的に育成しているハイテク企業であり、そのブランド力が高いだけに競争も激しく、不正を使ってでも入社を狙う人があとを絶たないのが現状です。
実際、ファーウェイだけでなく、他の中国企業でも不正行為が相次いで発覚しています。たとえばテンセント(騰訊)は、2019年以降社内の汚職に関するデータを公表しており、同年には60名以上の社員が規則違反で解雇され、10名以上が刑事責任を追及されました。その後、2022年には解雇者数が100人を超え、2023年には120人以上が解雇されるなど、過去5年間で最大規模にまで拡大しています。さらに2024年11月にはバイトダンス(字節跳動)が第4四半期の企業倫理報告を発表し、90名の社員が不正行為で解雇されたことを明らかにしました。一年間を通して合計353名が同様の理由で解雇され、そのうち39名は刑事責任を問われて司法機関に送致されたというのです。
評論家の郭閩氏は、「不正手段での就職はファーウェイだけの問題ではなく、中国全土に蔓延している現象で、長年続いてきた」と述べています。過去には「出来レース採用(萝卜招聘)」と呼ばれる手口も話題になりました。これは、企業が特定の人物を採用するため、彼らに有利な採用条件や職務内容を設定したうえで、あたかも公正な公開採用を行っているかのように見せかける方法です。一見すると公平に見えますが、実際には裏で内定が決まっていることがほとんどでした。今回のファーウェイの採用不正も、こうした構造的な問題が表面化したにすぎないのかもしれません。
林修民氏は「法治国家と権威主義国家では価値観が異なり、それが文化にも大きな影響を与えている」と指摘します。欧米では社会全体が信頼を基盤としたシステムを構築していますが、中国では相互不信が根強く、不正が日常的に行われやすい環境にあるというのです。具体例として、欧米ではクレジットカードがサインだけで使える「信用取引」の考え方が定着している一方、中国ではカードにチップが内蔵され、必ず暗証番号を入力しなければならない点などを挙げています。林氏は最後に「中国社会がより透明で公正な方向へ進まない限り、こうした不正を根絶するのは難しいだろう」と語りました。
(翻訳・吉原木子)