中国の大手企業「小米(シャオミ)」はスマートフォンメーカーとして知られていますが、4年前に電気自動車(EV)業界へ参入しました。そして、EV市場への参入から1年も経たないうちに13万5000台以上の電気自動車を納車し、2025年には30万台の生産を予定しています。いっぽう、米国メディアの報道によると、その急成長は市場競争の結果ではなく、中国政府の強力な支援と多額の補助金によって支えられているのです。

価格競争を展開する中国EVメーカー

 現在、中国のEVメーカーは次々と欧米市場に狙いを定め、進出しています。欧米市場は利益率が高く、収益性の向上が期待できると同時に、中国国内で過剰となった生産能力を海外市場で解消することもできます。さらに、政府補助金を利用した低価格戦略で外国メーカーを押さえ込み、市場シェアを一気に拡大することができます。

 米国メディア「ウォール・ストリート・ジャーナル」によると、中国国内のEV生産台数は、世界の他のEVメーカーの生産台数の合計を上回る規模になっています。中国政府は長年にわたり、EV業界に対して巨額の補助金や低金利融資、政策支援を提供してきました。このため、中国メーカーは採算を度外視した低価格戦略を展開することができています。

 例えば、小米がEV市場に参入する際、北京市政府はその生産計画を全面的に支援し、生産許可を迅速に取得できるよう配慮しました。そして、小米は数千人の労働者を動員して、わずか19か月で、サッカー場135個分に相当する巨大工場を建設することができました。

 中国のEVメーカーは政府主導の非市場競争により、短期的な利益を度外視した低価格戦略を展開し、市場シェアを拡大しています。一方、欧米の自動車メーカーは、グローバルなサプライチェーンに依存し、原材料価格の変動や地政学的リスクに直面しています。

 アメリカの自動車メーカー「フォード(Ford)」のジム・ファーリーCEOは、中国のEV戦略は「アメリカの自動車産業の生存を脅かす脅威だ」と警鐘を鳴らしています。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)などは、EV用電池の価格高騰や充電インフラの未整備により、EV事業が停滞しています。

トランプ、中国の不公平競争に警告

 中国企業が繰り出す低価格競争に対し自由主義諸国は懸念を招いており、アメリカ、EU、ブラジルなどが中国製EVに追加関税を課す動きを強めています。各国は、中国製EVの大規模な輸出が市場の秩序を破壊する可能性があるとして、規制を強化しています。

 アメリカのトランプ大統領は、第一期政権のときから中国政府の補助金政策を問題視しており、補助金ありきの中国企業がアメリカの製造業に大きな打撃を与えていると指摘していました。バイデン政権も2024年9月27日に中国製EVに対して100%の関税を課す措置を実施しました。さらに、トランプ氏は2024年大統領選において、一部の輸入自動車に200%の関税を課すことで、アメリカの自動車産業を不正競争から守ることを検討していると述べました。

 EUは2023年10月から中国製EVに対する反補助金調査を開始し、中国EVメーカーが受領する政府補助金がEUの自動車メーカーに脅威を与えていると結論づけました。その結果、EUは中国製EVに対して5年間の反補助金関税を適用し、BYDは17%、Geely(ジーリー)は18.8%、SAICに至っては35.3%という高い税率が設定されました。

 しかし、この高関税が中国製EVの輸出を阻止できるのかについては、依然として議論が続いています。政治リスク専門のコンサルティング会社「ユーラシア・グループ(Eurasia Group)」の中国企業問題部門ディレクターであるアンナ・アシュトン(Anna Ashton)氏は、高関税だけでは問題を解決できない可能性があると警告しています。

 アシュトン氏によると、BYDをはじめとする多くの中国EVメーカーは、メキシコ経由でアメリカ市場に参入する可能性があります。もし最終組立がメキシコで行われた場合、「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の規定により、アメリカ政府は関税を課すことはできません。

不安定な「ゼロ利益戦略」に疑問の声

 米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」で国際ビジネス研究を担当するウィリアム・レインシュ(William Reinsch)氏は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、中国のEV過剰生産がグローバル市場に及ぼす影響について警鐘を鳴らしました。彼は、米国は中国の鉄鋼やアルミニウム、太陽光パネル産業が台頭し、米国市場を脅かした事例からすでに対応策を学んでいると指摘しました。

 レインシュ氏は、「中国のように、信用貸付が市場ではなく政府によって管理される経済体では、特定の分野に過剰投資が行われる傾向がある」と述べました。そして、「過剰投資が進めば、必然的に生産能力が市場需要を上回ることになる。その結果、過剰生産された製品は世界市場に安値で投げ売りされる。これまで何度も同じパターンを見てきたが、中国の自動車産業では今まさに同じようなことが起こっている」と指摘しました。

 実際に、中国のEVメーカーは市場シェア拡大のために利益を度外視し、赤字を出すことを厭わない低価格戦略を続けています。BYDやNIOと同様、小米(シャオミ)も低価格で市場に参入し、まずは市場占有率を拡大する戦略を取っています。

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」によると、小米のEV戦略は、短期的に利益を上げることを目的としておらず、将来的に車載ソフトウェアやサービスによって収益を得るものであるとのことです。この手法は、過去に中国のテクノロジー業界が採用してきた、低価格で市場に広く浸透する戦略と酷似しています。すなわち、まずは低価格でユーザーを獲得し、競争相手を市場から排除した後に価格を引き上げるか、または別の収益モデルに移行する戦略であると考えられています。

 現在、中国のEVメーカーは低価格を武器にシェアを拡大していますが、このような成長モデルが長期的に持続可能かどうかは依然として不透明です。そもそも、中国国内のEV市場はすでに過剰競争の兆しを見せており、一部では値下げ競争もみられています。価格競争がエスカレートすることで企業の資金繰りが悪化し、財務危機に陥る可能性があります。さらに、アメリカやEUなどの西側諸国は、中国製EVの浸透を警戒し、関税障壁を導入し始めています。これにより、中国メーカーが欧米市場で拡大することは一段と困難になる可能性が高まっています。最後に、EV市場はまだ成長段階にあり、消費者の需要や政府の政策が今後の競争環境を大きく左右します。今後、中国政府がEV産業への補助金を縮小したり、国際社会が中国の貿易政策に圧力を強めたりする可能性もあります。そのような場合においても、中国のEVメーカーが現在の競争優位性を維持できるかどうかは未知数となっています。

(翻訳・唐木 衛)