今年の大晦日、中国のある女性企業家が動画を公開しました。彼女の会社は納品を行ったものの、支払いを踏み倒され、さらに会社の銀行口座まで凍結される事態に陥ってしまいました。女性社長は動画のなかで「法律のどこに問題があるのか?一体誰が中国人を陥れているのか?」と嘆きました。

女企業家の理不尽な体験

 1月28日、山東省淄博(しはく)市の「明慧標誌服飾(めいけいひょうしふくしょく)有限公司」の女社長である趙蕾(ちょう・らい)氏が、中国のSNS「抖音(TikTok)」に動画を投稿し、自社が経験した苦難について訴えました。彼女の会社は、売り上げ債務を回収できなかっただけではなく、企業の銀行口座が3か月以上も凍結されてしまったのです。

 趙蕾氏によると、2023年1月、彼女の会社は「淄博乾能鋳造科技股份(しはくけんのうちゅうぞうかぎこふん)有限公司」のために作業服を製造する注文を受け取り、契約金額は10万元(約210万円)でした。しかし、相手企業は前払い金を支払わず、年末に代金を請求しに行くと、その企業はすでに破産手続きを進めていることが判明しました。

 乾能鋳造の企業代表は、「5万元しか支払えない。現金がないので、倉庫にある商品を代わりに持っていって支払いを帳消しにしてほしい」と申し出ました。

 趙蕾氏は弁護士に相談したところ、「その企業は本当に破産する可能性が高いので、多少なりとも物品を受け取ったほうがよい。破産してしまえば1円も取り戻せない可能性がある」と助言されました。

 周囲の企業も物品と交換していたため、彼女も仕方なく軸受け、タイヤ、流量計などの物品を選びました。その後、相手企業の担当者がパソコン上の記録に基づいて価格を計算し、リストを作成して、両社は「物品による債務返済契約」を締結しました。

 しかし、持ち帰った商品はまったく売れず、2024年4月にはそれらを鉄くずとして処分したところ、わずか4000元(約8万円)しか手に入りませんでした。

予想外の口座凍結

 ここからさらに予想外の事態となります。2024年11月、彼女の会社の銀行口座が司法機関によって凍結されました。理由は「物品での債務返済が違法である」というものでした。倒産手続きを進めていた取引先から受け入れた商品について、「元の型番、元の商品と一切違わない状態で全数を返還」しなければならないというのです。さもなければ、口座から5万元以上の金額が差し押さえられるとのことでした。

 趙蕾氏は「本当に困惑した。どうすればいいのかわからず、訴訟を起こすべきか色々考えた」と振り返ります。複数の弁護士に相談したところ、訴訟すべきと言われたものの、勝てる保証はないと言われました。

 彼女は「私は以前、淄博市の仲裁委員会で経済訴訟を起こしたが、その過程で心身ともに疲弊し、五臓六腑全てが破壊されるような思いをした」と語りました。

 やむを得ず、彼女はさらに1万元以上を費やして、売却した物品を買い戻しました。そして、相手企業がそれを引き取った後、一人で事務所に戻り、ドアを閉めて泣き崩れました。「その苦しみは言い表すことができないものだった」と彼女は言います。

 動画の中で、彼女は涙を流しながら、「私はなにを間違えたのか?なぜ何度も搾取されるのか?法律のどこかに問題があるのではないか?」と訴えました。

 趙蕾氏は、倒産手続きを進めていた相手企業の債権者リストを入手しましたが、そこには100社以上の企業が載っており、金額は数万元から数千万元まで様々です。彼女の会社はその中でも「小さな存在」に過ぎませんでした。

 彼女によると、このリストに載っている企業のうち、彼女のように二重に搾取された企業は10数社あり、そのうちの1社はこの問題が原因で倒産しました。

 さらに、彼女を憤慨させたのは、相手企業が納税義務を果たしておらず、未納の税額が1000万元(約2億円)にも上ることでした。

 彼女は声を震わせながら訴えます。

「なぜ中国の経済はこれほど悪化しているのか、今になってやっとわかった。なぜ人々はこんなにも苦しんでいるのか?これは法律に抜け穴があるからではないのか?誰かが私たちを罠にはめているのではないのか?」

 彼女は続けて、「経済がこれほど悪化し、たった1社の破産がどれほどの人々に影響を与えているか、考えたことがあるのか?これは誰かが意図的に仕組んだものではないのか?」と訴えました。そして「もはや、誰かが意図的に私たちを苦しめているとしか思えない」と述べました。

中国共産党の法律体系の欠陥

 中国の民法には、物品による債務の返済について明確な規定がありません。2023年12月4日、中国の最高人民法院は民法に関する法律解釈を示した文書を発表しました。しかし、その法律解釈では、物品による債務の返済の案件に直面した際、「裁判所はこのように判決を下したほうがよい」という比較的緩やかな規範しか示しておらず、その文言は一般的に強行規定とは考えられていません。すなわち、中国の裁判官には判決において大きな裁量権が与えられており、契約の有効性についても担当する裁判官個人の判断に大きく委ねられている状況です。

 趙蕾氏の弁護士が訴訟を勧めながらも、勝訴の保証ができなかったのも、裁判官個人に裁量の幅が認められていることが原因だった可能性があります。そして、趙蕾氏の「法律の欠陥」や「誰かが我々を陥れるために仕組んでいるのではないか?」という言葉は、債務者である企業の経営者と裁判官が結託し、法律の抜け穴を利用して他の企業の財産を奪っている可能性を示唆しているものと考えられています。

 アメリカ在住の元企業家・胡力任(こ・りきじん)氏は、海外メディア大紀元の取材に対し、「趙蕾氏の企業が直面したような状況は、現在中国で極めて一般的になっており、すでに悪循環に陥っている」と述べました。

 彼によると、多くの企業は現在も運営を続けているものの、実際には莫大な負債を抱えており、その中には複雑怪奇な多重債務も数多く含まれています。さらに、一部の企業は資産を担保に銀行から資金を調達し、何とか運営を続けている状況です。現在では多くの企業経営者が逃げ出そうと考えており、すでに国外へ逃亡した者も少なくないとのことです。

中国経済のさらなる悪化

 中国国家統計局のデータによると、2024年上半期だけで少なくとも105万軒の飲食店が閉鎖されました。これには北京、上海、広州、深圳といった一線都市にある高級レストランも含まれています。

 かつて製靴産業で名を馳せた浙江省温州市では、90%以上の靴工場が注文を受けられず、2024年だけで100社以上の経営者が逃亡し、倒産した工場の数は計り知れません。

 2024年10月までに、少なくとも18の多国籍企業が中国工場の閉鎖や業務縮小、大規模な人員削減を発表しました。これには、アメリカのテクノロジー企業であるシスコ、マイクロソフト、IBM、日本のトヨタやホンダ、ドイツのフォルクスワーゲンなどが含まれています。

 中国の法律系サイト「律新社(りつしんしゃ)研究センター」の研究報告によると、2024年上半期だけで中国では48,100社以上が破産し、1日あたり267社以上が倒産しています。この数は、2023年全年の46,112社をすでに超えています。

 胡力任氏は、中国経済は今後も下落を続けると予測し、その原因として三つの大きな問題を挙げました。

 一つ目は政治の左傾化です。すなわち、中国共産党がますます独裁化を強め、国際社会が中国に対する信頼を完全に失うことです。

 二つ目は、輸出の減少で、世界各国が中国製品の輸入を減らし続けていることです。

 そして最後に、不動産市場の崩壊です。中国の不動産価格は暴落し続けており、今後も中国経済に深刻な影響を与えると予想されています。

(翻訳・唐木 衛)