中国の新年(旧正月)早々、深センの国有企業は深刻な危機に陥っていた万科(バンカ)グループを迅速に介入し、万科は「国有資本主導」の時代に入ったことになります。
万科の経営陣が大幅交代
中国の財新網は2月6日、万科が社内通知を発表し、新たに10名の管理職を任命すると報じました。そのうちの大半は、万科の筆頭株主である深セン地鉄グループ(深鉄グループ)またはその子会社からの人材であり、一部はこれまで深セン市国有資産監督管理委員会が直接または間接的に管理する企業に所属していた人物です。
この10名は全員、万科の中・上級管理職として就任し、その職務範囲は、万科本社レベルの戦略投資運営管理部、財務資金管理部、開発経営事業グループといった3つの中核部門のほか、法務部やグループオフィスなどの主要な機能部門、さらには華東や北京といった主要地域の子会社にまで及びます。これらの人材の学歴、職務経歴、専門能力は、新たな職務に適合しています。
新たに就任した董事長(代表取締役会長兼CEO)の辛傑氏、執行副総裁(専務取締役もしくは副社長)の李鋒氏、華翠氏、李剛氏らは、いずれも国有企業である深鉄グループまたは深セン市の国有資本関連の組織からの出身です。また、万科本社および地域の中核ポストに就任した10名以上の新任幹部もすべて国有資本の背景を持つ人物が占めており、戦略投資運営管理部の趙正陽部長や、財務資金管理部の肖静華部長などが含まれています。
業界関係者は、「董事会(取締役会)から中・上級の職能部門に至るまで、深センの国有資本系の幹部が相次いで就任したことで、万科は正式に『国有資本主導』の時代に入ったと言える」と述べました。
危機に陥った万科
中国経済が繁栄していた時期、民間の不動産デベロッパーは都市のスカイラインを一変させ、その創業者たちに莫大な富をもたらしました。しかし近年、そうした企業の破綻は日常茶飯事となっています。
中国恒大、碧桂園、融創中国といった大手企業が、その代表格です。最盛期には、いずれも年間契約売上高が5000億元(約10. 5兆円)を超えていました。しかし、中国経済が低迷している現在、不振が続く不動産業界では、多くの上場企業の幹部が減給を余儀なくされています。一部の幹部は給与の受け取り自体を放棄するケースも見られます。
時系列で見ると、不動産企業の幹部の減給は二つの時期に集中しています。
最初の時期は2021年で、この年に万科グループの郁亮会長はすべてのボーナスを放棄し、年収を1093万元(約2.2億円)削減しました。これは約90%の減額に相当します。
次の時期は2023年末から2024年前半にかけてであり、碧桂園や万科などの企業は、幹部の年収を12万元(約240万円)に固定する措置を講じました。
2024年、中国経済の低迷はさらに深刻化し、不動産価格は下落を続け、不動産企業の債務危機も一層深刻化しました。かつて業界のリーダーと見なされていた碧桂園や万科でさえ、財務状況の悪化が止まらず、両社は債務再編を余儀なくされています。
2024年を通じて、万科の販売面積は前年同期比で27%減少し、販売量も35%の大幅な落ち込みを記録しました。モルガン・スタンレーのデータによると、万科は今年、満期を迎える債券が3300億元(約6930億円)に達するとされています。
2025年1月15日には、万科の祝九勝最高経営責任者(CEO)が警察当局に連行され、市場に大きな衝撃を与えました。
不動産業界における「国進民退」
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は2月3日、中国の不動産危機がすでに3年以上続いており、現在この業界がますます国有企業主導に移行していると報じました。かつて中国経済の発展を象徴する存在であったこの業界にとって、これは驚くべき逆転です。
万科は、流動性危機に陥った民間不動産デベロッパーの一つであり、現在も存続している中国最大手の不動産開発企業の一つです。政府の介入により、同社はひとまずデフォルト(債務不履行)の瀬戸際から救い出されました。
しかし、万科は特殊なケースでもあります。同社は国有企業ではないものの、政府との関係が極めて深いのが特徴です。実際、万科の起源をたどると、1984年に設立された国有企業「深セン現代科教儀器展示販売センター」に行き着きます。当時、この企業はオフィス機器の輸出入および販売を手がけていました。その後、中国の市場経済改革の波に乗り、中国初の株式会社の一つとして成長し、1990年代には深セン証券取引所の最初の上場企業の一つとなりました。
2017年に起きた株式争奪戦の末、深セン地鉄グループが万科の筆頭株主となり、政府の影響力が一層強まる形となりました。
中国の多くの不動産デベロッパーと同様に、万科も同じ悪循環に苦しんでいます。販売の減少がキャッシュフローの悪化と負債の増加を招き、それがさらに購買意欲を低下させるという連鎖です。多くの消費者は、契約した住宅が完成しないのではないかと懸念し、購入をためらっています。
万科の契約販売額は、2020年のピーク時と比べて3分の2も減少しました。ここ5年間で、同社の純負債は2倍に膨れ上がり、2520億元(約5.3兆円)に達しました。また、契約負債(主に未引き渡しの住宅)は5870億元(約12.3兆円)にまで増加しています。
1月27日午後、万科は複数の重要な発表を行いました。内容は役員の交代、2024年の業績見通し、プロジェクトの譲渡など多岐にわたり、同社にとって近年の不動産業界の変革に伴う重要な節目となりました。この動きは、業界内でも大きな注目を集めています。
発表によると、万科は2024年において、上場企業の株主に帰属する純損失が約450億元(約9450億円)となる見込みで、前年と比較して470.0%の減少となります。また、非経常的損益を除いた純損失は約410億元(約8610億円)に達し、前年同期比で518.6%の減少を記録する見通しです。基本的な1株当たりの損失は約3.79元(約80円)となる見込みです。
この発表に伴い、万科の郁亮会長が辞任し、筆頭株主である深鉄グループの董事長である辛傑氏が新たに就任しました。また、深鉄グループは万科から複数のプロジェクトを買収する予定であり、同社の経営への影響力を一層強めています。
米大手投資銀行のデータによると、中国の上位100社の不動産デベロッパーにおける国有企業の市場シェアは、2019年の32%から2024年には70%まで上昇しました。また、地方政府の融資プラットフォームを含む国有企業が2024年に購入した土地の割合は85%に達し、これは2021年の61%から大幅に増加しています。このデータは、中国の不動産業界における「国進民退」の流れが急速に進んでいることを示しています。
しかし、市場のファンダメンタルズは依然として厳しいままです。モルガン・スタンレーのデータによると、中国各都市の既存住宅在庫を消化するには2年間の時間が必要とされています。小都市の状況が一層深刻であり、売れ残った住宅を処分するには2年4ヵ月を要すると見込まれています。
(翻訳・藍彧)