近年、中国の農村部における年金問題が大きな注目を集めています。多くの高齢者が毎月わずか200元(約4,000円)の年金で生活を維持しており、その厳しい現実が浮き彫りになっています。一部の専門家は、年金額の少なさだけでなく、農村部の高齢者が直面するさらなる生活上の困難にも注目すべきだと指摘しています。特に、医療や介護、就労機会の減少といった問題が重なっています。多くの農村部の高齢者にとって老後の生活は極めて不安定なものとなっています。

 2月13日に発表されたデータによると、2025年の農村部における60歳以上の高齢者の平均年金額は月額123元です。2024年と比べると20元増加しています。しかし、地域間の格差は依然として大きい状態です。例えば北京市では924元、経済が発展している浙江省や江蘇省では200元以上となっている一方、東北地域では110元から140元程度にとどまっています。都市部の会社員が受け取る年金と比較すると、その差は数十倍にも及びます。この格差が農村部の高齢者の生活を一層厳しいものにしています。

 中国の年金制度は「基礎年金」と「個人口座年金」の2つの部分で構成されています。基礎年金は全国共通の標準額が設定されていますが、個人口座年金は個人の納付状況に応じて決まります。農民は月払いまたは一括払いを選択できます。また、納付額が多いほど将来受け取る年金額も増加します。例えば、毎年3,000元を15年間支払えば、退職後に毎月324元の個人口座年金を受け取ることができます。2025年には、一部の省でこの納付上限が8,000元に引き上げられました。しかし、この政策には疑問の声も上がっています。一部の経済評論家は、「支払額が多ければ将来の年金も増えるという仕組みは一見魅力的に思える。しかし、実際に農民の中でそれだけの額を負担できる人がどれほどいるのか」と指摘しています。実際、農村部では多くの家庭が生活に精一杯です。高額な年金保険料を支払う余裕はほとんどないのが現実です。そのため、多くの高齢者は若い頃に十分な保険料を納めることができず、結果として老後はわずかな基礎年金だけで生活せざるを得ない状況に陥っています。

 黒竜江省のあるネットユーザーは、2月11日に農村部の高齢者の実情について紹介しました。73歳の李さんは村で一人暮らしをしています。子供たちは遠方で働いているため、彼女の毎月の収入はわずか150元の基礎年金だけです。生活費を切り詰めるため、普段の食事は主に自家栽培の野菜や安価な穀物が中心です。 肉や高価な食材を買うことはほとんどありません。しかし、冬になると暖房用の石炭を購入しなければなりません。その費用は数か月分の年金を超えることもあります。また、病気になった場合、医療費が大きな負担となるため、彼女は「150元では何もできません。病気になることすら恐ろしいです。」と語っています。農村部では、李さんと同じように年金だけでは医療費を賄えず、病気になっても病院へ行けない高齢者が数多くいます。このような状況が高齢者の健康状態をさらに悪化させる要因となっています。

 旧正月の時期、中国メディア『南方週末』の記者が浙江省紹興市上虞区の農村を訪れました。そこで出会った73歳の男性は、毎月390.5元の年金を受け取っています。若い頃から農業に従事してきましたが、現在では農業だけでは十分な収入を得ることが難しくなっています。幸いにも、彼は電気工事の技術を持っており、村の電気設備の点検や修理を請け負うことで年間6,000元ほどの収入を得ています。しかし、それでも家計は厳しく、特に息子が杭州で店を経営しているものの、経済的に苦しい状況が続いており、孫ももうすぐ小学校に上がるため、教育費などの負担が増しています。彼は「親として、少しでも支えになりたい」と語っています。このように、多くの農村部の高齢者は高齢になっても働き続けています。実際、村には88歳になっても山に入ってタケノコを掘っている人もいるほどです。

 また、高齢者にとって年金額の低さ以上に深刻な問題となっているのが、「仕事がない」という現実です。近年、多くの地方都市では建設現場の労働者に実名登録制を導入し、高齢者の雇用を厳しく制限する動きが広がっています。例えば、上海、天津、深圳、江蘇省泰州、江西省南昌、湖北省荊州などの地域では、60歳以上の男性、50歳以上の女性が建設作業に従事することを禁止しています。さらに、55歳以上の男性や45歳以上の女性は、地下作業、高所作業、高温環境での作業などにも就くことができません。建設業だけでなく、警備員や清掃員、工場勤務の仕事でも、高齢者を雇用しないケースが増えています。そのため、働く意欲があっても仕事を見つけられない高齢者が急増し、生活の困難さが一層深まっています。

 この問題に関する記事が公開された後、テンセントニュースのコメント欄には500件以上の書き込みが寄せられました。多くの人が農村部の高齢者の現状に深い同情を示し、現在の年金制度に不満を述べています。あるネットユーザーは「私の住む地域では、60~70代の高齢者の年金はわずか125元しかありません。彼らの生活は非常に厳しいです。」と実情を語りました。また、「都市部と農村部の年金格差がこれほど大きいのは不公平です。こんなわずかな年金で暮らしていける人がいるのでしょうか?」との制度の見直しを求める声も上がっています。

 農村部の高齢者が直面している年金問題は、単なる個別の経済的課題ではありません。中国全体の社会構造の歪みを映し出すものです。今後、政府がどのような対応を取るのかが注目されています。

(翻訳・吉原木子)