近年、中国において競売物件の数が急増しており、その背後には数え切れないほどの人間ドラマが隠されています。2023年、中国全土で競売にかけられた不動産の件数は80万件近くに達し、前年より30%以上増加しました。最終的に落札されたのは15万件未満ですが、住まいを失った人々にとって、それは単なる物理的な喪失ではなく、経済的・精神的にも大きな打撃となり、家族の生活が一変されています。

 競売物件の多くは三・四級都市に集中していますが、一級都市でも例外ではありません。近年、不動産市場は長期にわたり低迷し、住宅価格の下落、銀行による評価額の引き下げにより、競売物件の価格はさらに低下しました。これが地域全体の不動産価格を押し下げ、住宅ローンを抱える多くの人々に対して「負債が財産を超える状態」へと追い込んでいます。借金問題や企業倒産などで裁判所の命令により自宅を失った人々の状況は、さらに厳しくなります。住み慣れた環境を離れざるを得ないだけでなく、住む場所を確保できない危機に直面します。 賃貸住宅の契約すらも困難になるのです。多くの家主は「信用を失った人」に対し警戒心を抱き、物件を貸し出すことをためらいます。不動産は長年、中国人にとって最も重要な資産でしたが、今や多くの家族が崩壊する原因となっています。

 競売物件の急増の背後には、「処分を執行される人(失信被執行人)」の数の急激な増加があります。中国最高裁判所の執行情報公開ネットによると、2023年11月6日時点で中国の信用失墜者数は850万人に達しました。また、その後のデータの更新は止まっています。データの更新がとまる前には、毎日、2000〜3000人が新たに信用失墜者に登録されており、現在の数は1000万人を遥かに超えていると推測されています。中国では一度「信用失墜者リスト」に載ると、日常生活のあらゆる面で制限を受ける事になります。飛行機や高速鉄道の利用ができなくなり、銀行からの融資も受けられず、さらに子どもの教育や就職にまで影響を及ぼします。本来、この制度は意図的に借金を踏み倒す人々を取り締まるためのものでした。しかし、今ではこのリストに名を連ねる人々の多くは、経済の急激な変化によって突然生活が立ち行かなくなった普通の市民となりました。

 統計データによると、中国の実際の信用失墜者数がすでに2600万人を超えており、毎日1万人以上の人が新たに追加されています。さらに、すべての延滞者を加えると、その数は3億7000万人にも達します。延滞者のうち8623万人には6か月以上の延滞があるため、金融機関から「リスクが高い対象」と見なされています。信用失墜者850万人とは、850万世帯が絶望の淵に立たされていることを意味します。その数はデンマーク、ラオス、ニュージーランドの人口よりも多いのです。

 こうした現象に関して、時事評論家の趙蘭健氏は、自身の経験を交えて次のように述べています。「私にはかつて成功を収めた企業家の友人がいました。10数年前、彼は順調に事業を展開し、輝かしい成功を収めていました。しかし、経済環境の変化が彼を完全に追い詰めました。3年間に及ぶゼロ・コロナ政策により市場は低迷し、経済状況は悪化。資金繰りが行き詰まり、取引先も次々と倒産しました。彼自身も負債の回収ができなくなりました。最終的に彼は巨額の負債を抱え、私に対しても100〜200万元の借金をしました。私にとっても決して小さな額ではありませんでした。しかし、彼には返済能力がなく、請求することすらできませんでした。

 彼の不動産はすでに裁判所によって差し押さえられ、「信用失墜者リスト」に登録されました。その為、飛行機や高速鉄道にも乗れず、基本的な生活さえ困難な状態になりました。彼は決して意図的に借金を踏み倒そうとしたわけではありません。単に経済環境が彼をここまでに追い詰めたのです。こうした事例は、決して珍しいものではなく、現在の中国では無数にあります。かつて成功を収めた者も、わずかな歯車の狂いで一気に転落し、「信用失墜者」として社会から排除されてしまうのです。今日、それが彼らの現実であるならば、明日は我が身の問題となるかもしれません。

 今や、私の友人のような人々はますます増え続けています。彼らは借金を返済したくないわけではなく、追い詰められた末に、どうにもならない状況に陥ったのです。裁判所の判決が正当なものであったとしても、すでに全財産を失った者が、どうやって借金を返済できるというのでしょうか。企業の倒産が相次ぎ、個人の負債が膨れ上がり、銀行の取り立てや裁判所の執行が続き、それらが最終的に悪循環を生み出しています。

 最近、私はこのような話を多く耳にします。強制退去をさせられた家族、競売で住まいを失い、なおも巨額の借金を背負う高齢者、社会の片隅に追いやられた元一般市民。彼らは犯罪者でも悪人でもなく、かつては普通の暮らしをしていた人々です。しかし今、彼らは「信用失墜者」という烙印を押され、社会の底辺へと追いやられています。多くの人が再起を試みようとしますが、「信用失墜者リスト」に載ってしまえば、仕事を探すことも、事業を再開することも、さらには普通に人付き合いをすることすら難しくなります。

 社会の崩壊は、データ上から始まるものではなく、人々の生活の中から起こるものです。強制退去を余儀なくされる人が増え、信用失墜者リストに載る人が増え、借金を返済できない人が増え続けています。これは、単なる個人の問題ではなく、社会全体の危機へと繋がって行きます」

(翻訳・吉原木子)