中国の人工知能(AI)企業「深度求索(DeepSeek)」は、低コストを掲げながらも、米国のOpenAIが開発した最先端モデルと肩を並べる性能を持つと主張し、国内外で大きな注目を集めています。しかし、この「画期的な」成果に対して、多くの疑問が投げかけられています。台湾の経済専門家は、DeepSeekの開発コストに関する情報が不透明であることに疑念を抱いています。一方、中国国内の業界関係者の間では、DeepSeekは他社の技術を模倣するに過ぎず、本当の技術革新にはつながらないとの指摘もあります。また、一部の専門家は、DeepSeekが厳格な政治検閲を行っているだけでなく、ユーザーのプライバシーを脅かす可能性があると警鐘を鳴らしています。
DeepSeekは、中国のハイテク企業「幻方量化(Qifan Quant)」傘下の子会社であり、設立からわずか1年余りで「DeepSeek-V3」や「DeepSeek-R1」などの大規模言語モデルを次々と発表しました。公式発表によると、DeepSeekのトレーニングにはNVIDIAのH800 GPUが使用され、開発費用はわずか558万ドルに抑えられたとされています。これは西側の競合企業と比較して圧倒的に低コストであり、一見すると画期的な成果に思われます。しかし、H800は米国の輸出規制により、中国市場向けに設計された性能の低いチップであるため、この「低コスト」の主張には多くの疑念が寄せられています。
DeepSeekの発表を受け、株式市場は即座に反応しました。1月27日、NVIDIAの株価は一日で約17%急落し、時価総額は5890億ドル(約87兆円)も消失しました。これは、米国株市場史上最大の単日損失となりました。同日、DeepSeekのアプリは米国と中国のApple Storeの無料アプリランキングでトップに躍り出ました。この一連の動きは、投資家や技術業界の間で大きな波紋を呼んでいます。
台湾のNGO活動家、Manting Huang氏は、米国のメディア「大紀元」の取材に対し、「DeepSeekの親会社である幻方量化は、もともと自動化投資を活用して規制を回避してきた企業であり、その運営手法には以前から多くの疑問が投げかけられていました」と述べています。また、「DeepSeekは中国のAI規制の対象となるため、開発段階では巧みに検閲を回避してきましたが、最終的には政府の規制に従わざるを得ません。そのため、中国国内の他のAI企業からは、DeepSeekがChatGPTの技術を流用し、市場価格の半額以下で提供していることが、不公正な競争を引き起こしていると批判されています」と指摘しました。
同時に、米国のAIスタートアップ「Scale AI」のCEO、アレクサンダー・ワン(Alexandr Wang)氏はテレビのインタビューで、「DeepSeekは5万個のNVIDIA H100プロセッサを保有している」と発言しました。「しかし、彼らはそれを公には認めることができません。なぜなら、これは米国の輸出規制に違反する可能性があるからです。実際には、外部の予想をはるかに上回る数のチップを保有しているかもしれませんが、今後は輸出規制によって大きな制約を受けることになるでしょう」と述べました。この発言は、DeepSeekの開発コストや技術の透明性に対する疑念をさらに深める結果となりました。
台湾の経済評論家、胡采蘋(Hu Caiping)氏もSNSで、「DeepSeekの開発コストは明らかに過小申告されている。なぜなら、同社は言語モデルの開発コストを一切公開していないからです」と批判しました。また、「幻方量化は中国国内で最もGPUを大量に確保している企業の一つであり、そのような企業が“低コスト”を主張するのは不自然です」と指摘しました。
DeepSeekの技術が本当に革新的なものなのかどうかも、外部から大きな注目を集めています。中国のテクノロジーブロガー「水小木」氏は、DeepSeekのトレーニングコストと時間がOpenAIのGPT-4と比較して圧倒的に低いことを指摘し、一見すると「遥かに先を行っている」ように見えるが、詳しく分析すると違和感があると述べています。彼によると、国際的な技術革新があるたびに、中国企業は「すでに超えた」「封鎖を突破した」と発表する傾向があるものの、時間が経つとそれらの「先進的」な企業の多くは姿を消してしまうという共通点があると指摘しました。
中国の経済メディア《每日経済新聞》が行った調査によると、DeepSeekに「あなたは誰ですか?」と質問すると、「私はGPT-4です」と回答するケースが確認されています。また、APIの仕様について尋ねたところ、OpenAIのAPIの使用方法をそのまま提示したことも判明しました。このことから、DeepSeekは「知識蒸留(Knowledge Distillation)」という手法を使用している可能性が高いことが示唆されています。つまり、独自に新しいモデルを開発したのではなく、すでに存在する大規模なAIモデルの出力を用いて学習させたものだということです。
また、中国国内のAI起業家の一人が、DeepSeekとChatGPTにロジックパズルを解かせたところ、DeepSeekは誤った回答を示し、一方のChatGPTは正解を出したと報告しています。この結果を公表すると、「DeepSeekを貶めている」との批判が寄せられたそうですが、彼は「私は中国国内のAI業界の起業家であり、DeepSeekを非難することで何か得をするわけではありません。ただ、事実を述べているだけです」と反論しました。
さらに、DeepSeekには技術面以外にも懸念点があります。それは、政治的検閲とユーザーのプライバシー問題です。実際に多くのユーザーがDeepSeekをテストしたところ、「天安門事件」「習近平」「中国共産党」などの政治的に敏感なトピックに関する質問には、一切回答しないか、もしくは中国政府の公式見解を繰り返すだけでした。また、「大躍進政策の死者数」や「文化大革命で亡くなった人数」といった質問に対しても、「お答えできません」との返答が返ってきました。このような対応に対し、ネットユーザーからは「DeepSeekは100%共産党の意向に従っているAIだ」と揶揄する声が上がっています。
前内モンゴル自治区の官僚である杜文氏は、SNS「X(旧Twitter)」上で、「私は中国共産党に対する賛辞を一切信じません。彼らがやっていることは、盗作、模倣、そして虚偽の情報発信だけです。共産党体制の下では、本物の技術革新を持つ企業が生まれることはありません」と述べました。
最終的に、DeepSeekは短期間で市場の注目を集めることに成功しましたが、その実態は技術革新というよりも、中国共産党の影響を受けたプロジェクトに過ぎないのではないかという懸念が広がっています。Manting Huang氏は、「DeepSeekの主な目的は、短期間で市場から資金を集めることにあり、本当の意味での技術的ブレイクスルーをもたらすものではありません」と結論づけました。
(翻訳・吉原木子)