中国の多くの省や市で今年、従来と異なり、公務員採用試験において留学生の応募を突然拒否する方針が取られました。有名大学出身の留学生であっても例外ではありませんでした。

 専門家は、政権が危機に瀕している中国共産党(以下、中共)が「自由思想」を持つ留学生を使うことに恐れていると分析しています。

留学生枠の導入背景 官僚子女の特別待遇が狙い

 かつて留学生が特別選抜公務員として採用されるようになった背景には、官僚の子女に公務員への道を提供し、体制内に取り込む狙いがあったとされています。

 特別選抜公務員とは、中国各省の党委員会が毎年、各大学から新卒生を選抜し、地方の基層組織での業務に配置して重点的に育成する仕組みを指します。彼らは党や政府の幹部後継者候補として位置づけられ、その待遇や昇進のスピードは、通常の公務員採用で入った者よりも優遇される仕組みになっています。

 特別選抜公務員には「普通特別選抜公務員」と「定向特別選抜公務員」の2種類があります。普通特別選抜公務員の多くは、郷・鎮や街道といった基層レベルの機関に配属されます。一方で、定向特別選抜公務員は、県や市政府、さらには省政府といった、より上位の政府機関に配属されることが一般的です。

 2023年、中国各地で帰国留学生を対象とした定向選抜が相次いで実施されました。一般的に(中国)公務員になるためには、「国家試験」や「地方試験」と呼ばれる採用試験を受ける必要がありますが、これらの競争が激化する中で、「特別選抜」と呼ばれる採用方式の規模が近年急速に拡大しています。

 「中国新聞週刊」は2023年10月21日、「定向特別選抜公務員が『帰国留学生』を対象に」と題する記事で、不完全な統計ながら、この1年間で北京、上海、重慶市、広東省を含む複数の省級行政機関が、帰国留学生に対して定向選抜を開放していると報じました。

 中共が当初、留学生に特別選抜公務員の門戸を開いた背景には、官僚子女を体制内に取り込む意図があります。

 広州市に住む姜志生さん(仮名)は、かつて体制内のメディアで働いていた経験を持つ人物です。彼は大紀元の取材に対し、次のように述べました。

「以前、留学生が公務員の定向選抜に参加できるようにしたのは、幹部の子どもたちが帰国する際に、その進路を用意するためだ。この定向選抜という制度自体が、中共の官僚や富裕層の子どものために作られた特別な仕組みであり、彼らが出世できるよう便宜を図るものである」

「数年前に始まった大学の特別選抜入試で、一体誰が受かったのか。庶民とは何の関係もない。それは大学に合格できなかった富裕層や官僚の子女のために作られた制度である。彼らは国内の大学で卒業証書を取得してから、海外で経歴を積んで帰国する。大学入試では特別選抜入試があり、公務員試験では特別選抜公務員制度が存在する。常にこのような規則外の特別な政策が官僚の子どもたちを支えている」

 現在、留学生の優位性はすでに失われていることに対し、上海市在住の劉雪梅氏(仮名)は次のように語りました。

「息子が英国留学中にガールフレンドを作り、その父親は中国の名門大学の校長であった。彼女の父親は二人が帰国後、その名門大学で働けるよう手配してくれると約束した。しかし、彼女はすでに大学での職を得た一方、私の息子は帰国して1年以上経つのに、いまだに何の手配もされていない。留学生は長年にわたって海外で生活し、多くの他国の学生たちと接し、(帰国後も)連絡が続いている。そういった環境の中で、意図せずに国家機密を漏らしてしまう可能性もある。こうした懸念から、留学生が公務員試験を受けることを制限しているのではないか」

多くの省・市で留学生を「制限・拒否」

 2025年に入り、中国における公務員選抜政策に大きな変化が見られ、多くの省・市が留学生の応募を明確に制限、あるいは完全に拒否する方針を示しました。

 中国最大の経済省である広東省では、2025年の公務員選抜試験において、ハーバード大学、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学を含む世界の名門大学60校の卒業生を対象外としました。一方、公務員受験者が多い山東省では、定向選抜や通常の選抜を問わず、すべての海外大学卒業生を対象外としています。

 北京市の定向選抜でも留学生の応募を拒否していますが、「優秀人材育成計画」という別枠では留学生の応募が許可されています。ただし、海外名門大学の修士号取得者には、国内の「トップ大学」または「トップ学科」の指定校を卒業していることが必須条件とされています。 定向選抜は公務員枠ですが、「優秀人材育成計画」は企業や政府系事業体向けの制度に分類されます。

 河北省、河南省、山西省においても、2023年までは海外著名大学の卒業生が選抜に応募可能でしたが、2024年以降、すべての海外大学卒業生が応募資格を失いました。

中国共産党の自己恐慌を示す現象

 中国当局の政策変更について、オーストラリア在住の歴史学者、李元華氏が大紀元の取材に対し、次のように分析しました。

 「かつて留学生は非常に需要が高い存在であったが、現在では差別的な扱いを受けている。この現象は、中国の経済衰退と中共の自己封鎖政策に起因している。中共は、留学生が海外で自由社会の情報に触れる機会があるため、中共の欺瞞を見抜きやすいと考えている。このような人々は、海外で得た『自由思想の持ち主 』と見なされており、その結果、中共はこれらの若者を雇用することを恐れている。

 これは中共の自己恐慌の表れである。また、これは明らかに社会的な方向性の変化を示している。かつて中国経済は国際社会と密接につながっており、帰国した留学生が重用されていた。しかし、現在では状況が一変し、外国資本の急速な撤退や産業チェーンの海外移転が進んでいる。その結果、留学生のバックグラウンドを持つ公務員に対する需要が減少している。留学生は海外で民主主義や自由思想の影響を受けており、中共にとって信頼できない要素となっている」

 アメリカ南カロライナ大学の謝田教授は次のように述べています。「中共の視点から見ると、帰国した留学生は外国の管理経験や知識をもたらす一方で、西側の思想や理念、やり方も持ち帰るのである。彼らは中共の官僚的な体制や党文化に対して嫌悪感を抱く傾向がある。また、少なからず自由や民主主義の思想を持ち帰り、共産主義思想に反対する可能性がある。つまり、留学生の存在は中共にとっては諸刃の剣である 」

 シドニー工科大学の馮崇義准教授は次のように述べています。

 「留学は本来、改革開放の証と見なされ、初期の頃は政府の公務員が帰国した留学生を優先的に採用していた。しかし、習近平氏が政権を握ったことで、ここ10年間で留学生が中国当局からますます差別を受けるようになった。これは、中共による外部に対する疑念の高まりを反映している。選抜公務員制度で留学生を排除することは、中国が再び閉鎖的な道へ進む結果を招くだろう」

 台湾淡江大学中国大陸研究所の曾偉峰助教授は次のように述べました。

「習近平氏が国家安全保障を重視する体制のもとでは、これらの帰国留学生に対する警戒が一層強まっている。これにより、彼らは挫折感を味わうことになる。留学中の中国の若者にとって、まさにジレンマに陥っている状況である。海外の大学で教職を見つけるのも難しく、中国に戻ってもより良い仕事の機会を得ることができない」

 中国の公務員選抜政策がますます政治的忠誠心に焦点を当てる中で、帰国留学生の立場は一層難しいものとなっています。この傾向は、中共当局が国際化と政治安全の間で苦慮していることを反映しています。同時に、この動きは中国がより閉鎖的な未来に向かっている可能性を示唆しているのではないかという考えを呼び起こします。

(翻訳・藍彧)