最近、アメリカのメディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」が中国共産党の公式文書を公開し、中国当局が海外の中国人コミュニティに対する監視と選別を強化していることが明らかになりました。こうした監視の被害者の一人が、カナダ在住の中国人留学生、李寧氏です。彼の経験は、中国共産党がハイテク技術と卑劣な脅迫手段を駆使して、国外に住む中国人を徹底的に支配しようとしている現実を浮き彫りにしました。この事件は、中国共産党の専制的な統治がどれほど根深いものかを改めて国際社会に示しています。

家族への嫌がらせと監視

 ボイス・オブ・アメリカの報道によると、1月9日夜、カナダに留学中の李寧氏は、中国・湖北省の実家に住む父親からのウィーチャット(WeChat)メッセージを受け取りました。父親は、地元警察が実家を訪れ、李寧氏の連絡先や関連資料の提供を求めたと伝えました。この事態を受けて、李寧氏は将来帰国した際に不利益を被ることがないよう、地元警察の副所長である呉鋭氏とウィーチャットを通じて連絡を取らざるを得なくなりました。

 地元警察の呉鋭氏は、李寧氏にカナダでの住所や緊急連絡先を提供するよう要求しました。中国の出入国管理当局が李寧氏の地元の警察署に対して情報提供を求め、現在の状況を確認する必要があるというのが表向きの理由でした。李寧氏が詳細な説明を求めたところ、呉鋭氏は『新疆出入国防衛検査センターのデータ分析に関する協力』という文書を提示しました。この文書には、李寧氏を含む数百人の海外在住の中国人の住所や身分証番号、パスポート番号、出国便の詳細情報などが記載されていました。

 このことからわかるように、中国共産党は李寧氏の個人情報を完全に把握しているだけではなく、公安の力を使って中国国内にいる家族に嫌がらせをしています。その目的と言えば、恐怖を煽り、李寧氏の海外での自由な言論を抑え込むことにほかなりません。

 ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、李寧氏は、自身は中国を離れる前は武漢市の国有企業に勤務しており、法律違反もないと述べました。中国共産党の「レッドライン」に抵触したことがあるとすれば、2022年末にボイス・オブ・アメリカの特集番組に顔出しで出演し、パンデミック中に中国を離れた理由を語ったことだけだと振り返りました。李寧氏は、「番組では、武漢での3カ月間のロックダウンを体験したことが原因で中国を離れたことを共有しただけで、別に習近平や中国共産党を批判したわけではない」と述べました。

 李寧氏は、中国共産党が彼を「ブラックリスト」に入れ、新疆で使われているような高度な顔認識技術と監視システムを用いて監視しているのではないかと推測しています。そして、「一個人にすぎない私が、国家レベルの監視システムの標的にされるとは恐ろしいことだ」と語りました。

 中国共産党の脅威に直面しつつも、李寧氏は恐怖に屈することなく、声を上げることを決意しました。「恐怖に沈黙するくらいなら、事実を公表し、国際社会の注目を集めたい」と李寧氏は語ります。そして、早く行動しなければいずれ中国共産党に拘束され、中国中央テレビの「テレビ自白ショー」に出演させられる恐れがあると指摘しました。

ハイテク技術を利用した弾圧

 近年、中国共産党による越境弾圧に関する報告が相次いでいます。フリーダムハウス、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチといった国際人権団体は、中国共産党がハイテク技術を駆使して海外に住む中国人コミュニティへの監視を強化していると指摘しています。中国共産党は電話での嫌がらせや、国内にいる親族を脅迫することで、海外に住む反体制派を沈黙させようとしています。そして、中国共産党の支配下に置かれていない台湾人も被害を被っています。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチが2024年に発表した報告書では、中国共産党が日本や欧米諸国にまで手を伸ばし、国境を越えた弾圧行為を行っていることが明らかになりました。例えば、新疆ウイグル自治区やチベットの出身者が抗議活動に参加するのを阻止しようとした事例が報告されています。被害者たちは、国内にいる家族が公安や統一戦線工作部に頻繁に呼び出され、海外にいる親族に「センシティブな活動」に参加することを中止するよう説得することを強要されたと証言しています。

 人権組織「中国人権」のトップである周鋒鎖氏は大紀元の取材に対し、中国共産党は脅迫や嫌がらせなどを通じて海外在住の華人を全面的にコントロールしようとしていると指摘しました。「中国共産党は統治の正当性を欠いているため常に不安感を抱いており、海外在住の華人に対する監視を強めている。科学技術の進化によってその支配はさらに強化されている」と指摘しました。

中国共産党、募る危機感

 民主化活動家の王軍涛氏は大紀元の取材に対し、中国共産党が海外在住の中国人への弾圧を強化しているのは、共産党内部の危機感が高まっていることの表れだと分析しました。王軍涛氏は、「習近平はすべての人の思想を自分に一元化したいと考えている。彼は党への忠誠だけでなく、自身への個人的な忠誠をも要求している。この個人崇拝と支配欲が、より厳しい弾圧を生む原因となっている」と述べました。

 王軍涛氏は、中国共産党が国内に残された家族に嫌がらせをする目的は、恐怖心を植え付けることで海外に住む中国人の反体制活動を抑制することにあると指摘しました。しかし、王軍涛氏は、「中国共産党の脅しに屈しなければ、彼らは何もできない。恐れを示すと共産党はますます図に乗ってしまい、逆に恐れない姿勢を見せれば彼らは退くのだ」と語りました。

 元弁護士の頼建平(らいけんペイ)氏は、中国共産党が海外在住の中国人やその家族を弾圧するのは何も今に始まった事ではないと述べました。頼建平氏は、「現在、中国共産党が直面している政治的、経済的、社会的危機が深刻化する中で、こうした弾圧行為はさらにエスカレートするだろう」と述べ、「共産党は恐怖による支配を基盤としており、その標的は国内外を問わず常に中国人だ」と強調しました。

国際社会の監視の目

 昨年6月から今年1月にかけて、「法輪功への迫害を追跡調査する国際組織(WOIPFG)」や大紀元は、中国共産党の内部文書を複数入手しました。中国共産党内の良心的な情報提供者によれば、中国共産党は「混合式超限戦」という手法を用いて、ニューヨークに拠点を置く神韻芸術団や法輪功コミュニティに対する国境を越えた弾圧を行っています。さらに、法輪功を弾圧するために設立された超法規的組織である「610弁公室」の海外版を設け、海外でも弾圧活動を展開しているとのことです。ここ1年の間に発生した多くの事件は、これらの内部情報と高い一致を示しています。内部情報筋によると、こうした手法が今後、民主化運動団体など他のターゲットにも使われる可能性があるとのことです。

 中国共産党による海外在住の中国人への監視や嫌がらせは、基本的人権を公然と侵害する行為であり、越境的な弾圧の典型例です。これに対し、フリーダムハウスをはじめとする人権団体は、中国共産党の人権侵害行為に注目し、迅速かつ適切な対応を取るよう呼びかけています。カナダに留学中の中国人学生、李寧氏の事件は、中国共産党がその専制的な触手を海外にまで伸ばしている現状を如実に物語っています。

 李寧氏は、「私にはもう選択肢がなかった。ただ立ち上がるしかなかった」と述べました。彼の経験は、中国共産党の弾圧が中国国内にとどまらず、より隠密な形で海外にも広がっていることを示しています。恐怖の中で希望を見出すためには、その実態を暴露し、勇敢に立ち向かうことが何よりも大切なのです。

(翻訳・唐木 衛)