2025年の旧正月が近づいています。本来であれば、中国人にとって家族が集まり旧年を送り、新年を迎える伝統的な祝日ですが、都市の至る所で忙しそうに走り回るデリバリー配達員の姿が見られます。彼らは「その場で旧正月を過ごす」ことを選び、旧正月期間中の競争が減る機会を利用して、少しでも多く稼ごうとしています。この現象は、中国経済の低迷を背景とした多くの人々の生活状況を反映しているだけでなく、旧正月における消費行動の深刻な変化をも示しています。
デリバリー配達員が旧正月期間中に故郷に戻らないようにするため、多くのデリバリープラットフォームが様々な補助政策を打ち出し、「配達すればするほど稼げる」というスローガンを掲げています。一部の配達員は過去の旧正月期間中の配達経験について、収入が通常より大幅に高かったと語っています。ある配達員は旧正月期間中に6,000元から7,000元(約10万円から12万円)を追加で稼げたと明かし、さらに勤勉に働けばもっと稼げるとも言います。美団(Meituan)などのプラットフォームは、全国で6,000回以上の配達員向け旧正月イベントを開催し、このような方法でより多くの配達員を引き留めようとしています。
安徽省の配達員である李さんは、今年故郷に戻らないことを選びました。彼の計画は、会社が休暇を取る間に旧正月期間の仕事のチャンスを活かすことです。彼は、「休暇中の夜に配達をすれば、家族の経済的な負担を軽減できる」と語っています。一方、広東省の王さんも同じように旧正月中に仕事を続けることを選びました。彼は、多くの人が旧正月のために帰省することで配達員の数が大幅に減少し、1件あたりの注文単価が通常より高くなると指摘しました。さらに「他の人が休んでいる間に自分は働く」と語り、これは稼ぐ貴重なチャンスだと述べています。
旧正月中の「その場で旧正月を過ごす」という現象は、経済低迷が社会の様々な層に与える深刻な影響をある程度反映しています。解雇や減給の影響は中国の多くの業界に広がっています。例えば証券業界では、2024年のデータによると従業員数が約2万人減少し、2017年の35万人から33万人に減少しました。これは2019年末の水準に逆戻りした形となります。一部の大手証券会社では従業員数が大幅に減少し、中信証券では1年間で1,388人が減少、国信証券や広発証券でもそれぞれ1,000人以上の人員削減が行われました。
証券業界における解雇の背景には、業界全体のデジタル化の加速と業務負担の増加があります。従来の人手依存型の職種は自動化やスマート化に取って代わられ、業界内の職種需要が明らかに減少しています。一部の経験豊富なヘッドハンター(特定の職業に就いている有能な人材を引き抜く者)は、現在の証券業界の状況を「仕事は多いが収入は少ない」と表現しています。多くの従業員は転職の意向があっても、より良い仕事を見つけるのが難しい状況です。北部地域にある中規模証券会社の社員は、新しい職を1~2年探しているものの、いまだ希望がかなわないと語りました。「一方では市場に合致する職が少なく、他方では多くの企業内部に深刻な内紛が存在しているため、職場の未来への期待がますます薄れている」と述べています。
一方、減給の波も従業員に深刻な影響を与えています。深圳市の証券会社で働く投資銀行部門の社員によると、投資銀行業務の縮小が競争を激化させ、多くの企業が合併や再編を通じてコスト削減を図っているといいます。解雇と減給は業界全体で一般的な現象となっており、多くの社員は給与の減少だけでなく、キャリアの発展が制限されることや将来への不安に直面しています。多くの人が期待を下げざるを得ず、転職や業界からの離脱を考えるようになっています。
経済的なプレッシャーは、雇用市場の低迷にとどまらず、一般市民の消費行動にも深く影響を与えています。かつて旧正月期間は年間で最も消費が盛んな時期の一つでしたが、最近では収入の伸びが停滞し、さらには減少する人が増えたため、多くの人が消費習慣を見直さざるを得なくなりました。例えば、広州の陳さんは、例年なら旧正月中にヨーロッパでスキー休暇を楽しみ、通常1万ドルを費やしていましたが、今年は予算を2,000ドルに削減し、近隣のアジア諸国への旅行を選択しました。さらに、1泊300元(約6,000円)のエコノミーホテルに宿泊せざるを得なくなり、「これは自分を慰めるための旅行のようなものです。経済的に厳しい時期には予算を切り詰める必要がありますが、それでも少しはお金を使ってストレスを解消しなければなりません」と語りました。
旧正月期間中の海外旅行者数は昨年より増加したものの、依然としてパンデミック前の水準にはほど遠い状況です。データによると、2025年旧正月期間中の海外旅行者数は220万人から260万人と見込まれており、これは2019年のピーク時の約40%に過ぎません。旅行先も大きく変化し、多くの中国人観光客が費用対効果の高い近隣国を選ぶようになりました。例えば、日本、韓国、タイ、マレーシアなどが挙げられ、欧米などの長距離旅行先はもはや多くの人にとって優先事項ではありません。オンライン旅行プラットフォーム「飛猪(Fliggy)」のデータによれば、今年は上海から韓国の済州島までの片道航空券が最低284元(約5,700円)で販売され、香港への航空券とホテルの価格は昨年より20%下がったといいます。
約3年間に及ぶゼロコロナ政策と不動産危機は中国経済を大きく損ないました。雇用市場の低迷や不動産価格の下落、社会保障への不安が中国人の消費意欲を著しく低下させています。データによれば、多くの人が職業の将来性に悲観的で、貯金を最優先するようになっています。一方で、政府が打ち出した一連の経済刺激策は目立った成果を上げられておらず、人々は経済的困難の中で将来の危機に備えた資源を蓄えようとしています。
団らんを象徴するこの伝統的な祝日である旧正月は、経済低迷という背景の下で、より現実的な意味を持つようになりました。デリバリー配達員にとっては、家族との再会を犠牲にしても経済的安定を得る機会となり、普通の人々にとっては限られた予算内で家族と共に祝日の雰囲気を感じ取ろうとする努力の場となっています。あるネットユーザーは、「今の環境は良くない。もう何年も続いていて、毎日不安の中で生きている。未来がどうなるか全く分からない。でもせめて旧正月の時くらいはリラックスして、家族と再会して不安を和らげたい」とコメントしています。
(翻訳・吉原木子)