中国の旧正月を前に、中国共産党総書記の習近平氏は遼寧省を視察しました。一見すると普通の政治活動のように見えるこの視察ですが、その背後にある宣伝意図や現実との矛盾が、多くの注目と議論を呼びました。公式メディアによれば、習近平氏は今回の視察を通じて、国民生活への配慮や地方の基層社会への関心を示し、その姿勢をアピールしようとしたようです。しかし、この視察と対照的だったのは、中国経済全体の低迷、特に東北地域における深刻な構造的問題や、政府の統治方法に対する国民の広範な不満でした。
新華社の報道によれば、1月22日から24日にかけて、習近平氏は側近を伴い、遼寧省内の複数の地域を訪れました。最初に訪れたのは葫芦島市綏中県にある満洲族の村で、村民と交流し、地域経済や生活の実情を視察しました。その後、瀋陽市大東区の食品市場や住民コミュニティを訪問し、物価について店主に質問するなど、庶民に寄り添う姿勢を示しました。しかし、こうした「親しみやすいリーダー」という演出には、多くの疑念が寄せられています。映像や写真を見ると、習近平氏の周囲を私服警官が取り囲んでいるだけでなく、「一般市民」とされる人々も、事前に用意されたエキストラのように見え、不自然さが際立っています。
このような「演出」について、一部の評論家は、典型的な政治パフォーマンスだと指摘しています。東北地域はかつて中国経済を支えた重要な工業地帯でしたが、長年にわたり経済成長が停滞し、人口流出が深刻化、さらに地方財政も赤字に陥っています。本来であれば、習近平氏の訪問はこうした現実的な問題の解決に焦点を当てるべきですが、宣伝内容を見る限り、個人のイメージを高めるための政治ショーに過ぎないとみられています。村民の笑顔や市場の賑わい、コミュニティの「調和」といった場面は、表面的であり、実際の社会問題にはほとんど触れていません。
また、意図的に作り上げられた宣伝だけでなく、今回の視察には厳重な警備措置が伴いました。遼寧省の作家である孫大駱氏は、習近平氏の視察中に地元警察から「特別な扱い」を受けたと述べています。孫氏によれば、警察は「一緒に食事をする」という名目で接触を図り、「上層部の指示」であると説明されました。その後、習近平氏が遼寧を視察していたことを知り、この「特別な扱い」の背後にあった本当の意図を理解したといいます。実際、こうした異議を唱える人々への監視や圧力は珍しいことではなく、習近平氏の視察が行われる際には、地元で厳重な警備体制が敷かれ、潜在的な「トラブルメーカー」とみなされた人物が拘束されたり、行動を制限されたりすることが通例となっています。
東北地域の経済的困難は、今回の習近平氏の視察において無視できない背景の一つです。この地域はかつて中国経済の発展を支えた重要な拠点でしたが、近年ではグローバル化や産業構造の変化により、競争力を失いつつあります。習近平氏が訪れた葫芦島地域は、2024年の洪水被害で注目されました。復興作業がすでに完了したとはいえ、この訪問はタイミングが適切ではないと批判されており、むしろ政治的パフォーマンスの一環と受け取られています。洪水被害の深刻さは否定できませんが、東北地域の経済衰退は単一の災害だけで説明できるものではありません。産業構造の老朽化、国有企業の非効率性、若年層の人口流出といった長期的な問題が、東北地域の発展を阻害する主要な要因となっています。
また、「ゴーストタウン化」ともいえる現象が東北地域で頻繁に見られるようになっています。この現象は、資源枯渇後の都市が徐々に衰退し、住宅価格が暴落、人口流出が加速し、最終的に無人化に近い状態になることを指します。報道によると、全国で95都市の住宅価格が過去1年間で大幅に下落しており、一部の都市では住宅1戸の価格が数万元(数十万円程度)という驚くほど低い水準にまで落ち込んでいます。それでも買い手がほとんど現れないのが現状です。特に遼寧省では、若年層の人口流出により地域経済の活力がさらに低下し、地方政府の財政負担が一層重くなっています。
さらに、中国全体の経済状況も依然として厳しいものがあります。2024年には全国で約300万軒の飲食店が閉鎖され、その中にはかつて高い人気を誇ったチェーン店も含まれています。この現象は、消費市場の冷え込みを反映するとともに、経済の下振れ圧力の中で中小企業が直面する厳しい経営状況を浮き彫りにしています。また、こうした経済データが国内のメディアで軽視される一方、経済低迷に関する動画や記事が海外で広く拡散している点も注目されています。これに対し、中国共産党はこうした情報を削除・抑圧することで経済危機を隠そうとしているとの指摘がありますが、この手法はむしろ国民の信頼をさらに損なう結果を招いています。
習近平氏は今回の視察で「東北全面振興」というスローガンを掲げ、「党の指導を揺るぎなく堅持する」と強調しました。しかし、このスローガンは東北地域が抱える現実的な課題の解決にはつながっていません。専門家によれば、中央政府が東北地域に提供する財政支援は、主に基本的な運営を維持するためのものであり、本格的な経済転換を促進するための投資は極めて不十分とされています。また、地方政府は政策を実行する際に柔軟性を欠き、これが資金の浪費や非効率的な運営につながっています。人口流出、労働力不足、イノベーション能力の低下といった問題が、この地域の長期的な発展を阻害する要因となっています。
習近平氏が遼寧を離れた後、この視察に対する外部の評価は決して良好とは言えませんでした。異議を唱える人々への圧力、未解決の経済問題、さらに公式宣伝の過剰な演出など、一連の問題が宣伝と現実の矛盾を浮き彫りにしました。中国が抱える構造的な経済問題や社会的矛盾の蓄積は、数回の視察で解決できるものではありません。多くの人々は、大量のリソースを形式的な政治活動に投入するよりも、国民の声に真摯に耳を傾け、実効性のある政策を講じるべきだと考えています。こうした具体的な取り組みによってのみ、社会と経済の全面的な進展が期待できると指摘されています。
今回の遼寧視察は、政治的パフォーマンスが実際の行動を代替することはできないという現実を改めて示しました。中国の最高指導者として、習近平氏は「党の指導」を強調する一方で、ますます複雑化する社会的・経済的課題に正面から向き合う必要があります。もし政府が今後も高圧的な手法で秩序を維持し、宣伝に頼って問題を隠蔽しようとするならば、最終的には社会の不満や分裂をさらに悪化させる可能性があります。現実を直視し、問題を認め、実効性のある解決策を模索することでのみ、中国は真の意味での発展と振興を実現できるのです。
(翻訳・吉原木子)