16世紀の小説『西遊記』は、仏教聖典を求めて旅をする、三蔵法師の物語です。道中、三蔵法師が白馬・玉龍に乗って、孫悟空、猪八戒、沙悟浄を供に従え、幾多の苦難を乗り越え天竺へ取経を目指します。
長い旅の中で荷物を担ぐのは沙悟浄だというイメージがありそうですが、『西遊記』の原文では、荷物を担ぐのは沙悟浄ではなく、猪八戒でした。では、猪八戒の肩の上にはどのような荷物があるのでしょうか?今回はその荷物の中身をチェックしてみましょう。
『西遊記』の第二十三回で、猪八戒は肩の上の荷物についてこのように語りました。
「四片黃籐蔑,長短八條繩。又要防陰雨,氈包三四層。匾擔還愁滑,兩頭釘上釘。銅鑲鐵打九環杖,篾絲籐纏大斗篷。」
四枚重ねの黄藤ひご(天秤棒)、異なる長さの八本の縄。雨で荷物が濡れないように、雨覆いが三、四枚もある。荷物が滑り落ちないように、天秤棒の両端に釘がついている。(三蔵法師の)銅と鉄で作られた九環の錫杖に、竹と藤で編まれた大きな蓑。
天秤棒や縄、雨覆いなどは基本的な荷物で、現代ではスーツケースとそのカバーなどに相当します。三蔵法師が錫杖を持っていない時は猪八戒が代わりに持っています。そして蓑(みの)は伝統的な雨具です。
では、その荷物の中身の詳細を見てみましょう。
四人の着替え
ドラマでは、四人の服がいつでも同じように見えますが、長い旅に備え、たとえ同じ服でも何着か持ち、道中で着替えをする必要があるでしょう。そういえば、四人はどのような服を持っているのでしょうか。
三蔵法師はいろんな服を持っていると考えられます。道中の動きやすい服や寝る時の寝間着のほか、唐の国を代表する僧侶として、お寺や宝塔に訪ねる時はちゃんとした袈裟(けさ)を着る必要があります。
孫悟空は、三蔵法師が持っている服を手直しして着用しているそうです。猪八戒は、高老荘を発つ前に、義父から服をもらったそうです。そして沙悟浄が帰依(きえ)した後、髪型を変えたほか、和尚の服を一着頂いたと言われます。
これらの服や着替えはすべて荷物になり、これをすべて猪八戒が担いでいるのです。
紫金の鉢
紫金の鉢は、三蔵法師が持つ布施を頂くための食器のことです。仙人である三兄弟は食事が無くても困らないでしょうけど、普通の人間である三蔵法師は食事をとらないといけません。ところで、四人はどのようにして食事をとっているのでしょうか。
聖典を求める旅では、長年、人気のない野外を歩くことが多く、何か月間も人家を見かけないことも多々あります。こうなると、三蔵法師が持つ紫金の鉢を孫悟空に持たせ、遠くまで行ってご飯を頂いて来る必要があります。しかし、この紫金の鉢は一人前の食事しか入れられないので、布施を頂いたら、三蔵法師一人で食べることになり、ほかの三人はこれを見守るしかないと言われます。
孫悟空はお腹がすいても平気です。猪八戒と沙悟浄は、孫悟空のいない間で三蔵法師の安全を守るため、どこかに行って食事をすることができません。孫悟空は布施を頂いて戻ってくる途中、道端の木の果実を摘んできて、三人で食べることもありました。仙人である三兄弟は食事が無くても困らないでしょうけど、猪八戒はお腹がすくと愚痴が出てしまいます。道中でお泊りができる人家があり、そこで食事が提供されたら、猪八戒は腹いっぱいまで食べては食べて、一人で十人前のご飯を食べてしまうのです。「大食い」のイメージが強い猪八戒ですが、そのような大食いをする時は長い旅の中で数少ない食事のチャンスだったのかもしれませんね。
通関文牒(ぶんちょう)
通関文牒(ぶんちょう)は、唐の太宗が三蔵法師に発行した文書で、三蔵法師の身分を証明できるもので、現代で言う「パスポート」のようなものです。三蔵法師はこの「文牒」をもって道中の諸国を通るたびにその国の証印(スタンプ)を押してもらい、これを旅の証としていました。
この「文牒」には最初、三蔵法師の名前だけが書かれていました。西梁女人国を出発する前に、国王は「文牒」に孫悟空、猪八戒、沙悟浄の三人の名前を加えました。そして旅の最後、仏教聖典を唐に持ち帰ってきた三蔵法師は「文牒」を太宗に返納したそうです。
備蓄米
驚くかもしれませんが、猪八戒はご飯を炊くこともできます。例えば、物語の第二十四回で、猪八戒は宿泊先の仙荘「五莊観」の裏庭の台所で米を洗って炊きました。「五莊観」の調理器具と調味料を借りましたが、炊いたお米などは自前のお米だったそうです。どうやら、猪八戒は、荷物の中に備蓄米をも入れていたようです。
『西遊記』で描かれた猪八戒の荷物は以上になりますが、総じて見ると結構大量な荷物になります。長い旅のためできるだけ荷物を減らしたでしょうけど、絶対必要なものだけでも、重さは20kgがあったのでしょう。これは猪八戒一人で旅の最後まで担いでいたと考えると、大変な苦労だったと伺えます。
如来様も猪八戒の荷物担当の苦労を認め、西域より帰還の後、猪八戒は浄壇使者(じょうだんししゃ)となりました。実は、猪八戒も孫悟空に次いで働いていたはずですが、その愚痴の多さと絶えない色欲で、功労が打消しされてしまい、荷物担当の苦労だけが認められました。これに対して、猪八戒はまた愚痴を漏らしたのですが、これも仕方ないとしか言えませんね。
2025年の神韻芸術団の巡回公演の中の舞踊劇『猪八戒、求法の旅に加わる』という演目では、猪八戒が主役でした。月の女神である嫦娥(じょうが)に恋心を抱いて手を出そうとして、地上に追放されても改心しない猪八戒は、どのようにして三蔵法師に従い経典を求める旅に加わったのでしょうか?
これから2025年2月9日まで、東京(八王子・文京・上野)、大阪の5カ所で公演を行います。神韻でしか観られない舞踊と生演奏のオーケストラの饗宴という特別な体験を、劇場でお楽しみください。
(翻訳編集・常夏)
チケット購入はこちら: