中国の2025年の帰省ラッシュは1月14日に始まりました。中国政府は、今年の帰省ラッシュ期間中の地域間移動人数が90億人に達すると予測し、前年と比べて約7%増加するとしています。しかし、実際には例年と大きく異なる様子が見られました。以前のように駅やバスターミナルが人で溢れ返る光景はなく、高速鉄道や飛行機といった高速交通手段の乗客は少なく、価格が大幅に割引されても空席が目立ちました。一方で、20年以上前の鈍行列車「緑皮車(りょくひしゃ)」が再び注目を集め、切符が手に入りにくい状況になるなど、現在の経済状況の厳しさを反映する対照的な現象が起きています。

 報道によると、今年の帰省ラッシュ期間中、高速鉄道の切符や航空券は大幅に値下げされました。例えば、重慶(じゅうけい)から懐化(かいか)への高速鉄道の切符はわずか15元(約1.9割引)、重慶から杭州(こうしゅう)への高速鉄道の切符は298元(約3.4割引)と非常に安価でした。普通列車の切符はさらに安く、重慶西駅(じゅうけいにしえき)発のK4820列車の切符は2.5元、重慶から渠県(きょけん)への切符は4.5元と「破格の安値」と呼ばれるほどです。このような破格の値段にもかかわらず、高速鉄道の車両は空席が目立ち、乗客がほとんどいない状況が続いています。ある乗客が撮影した動画では、車両内に自分一人しかいない様子が映し出されており、「25年生きてきて、こんな帰省ラッシュは見たことがない」と驚きを語っています。また、一部の乗客は、ダフ屋がオンラインプラットフォーム上で「切符が品薄」という偽情報を流して需要を煽っていると指摘しており、切符を購入して車内に入ると実際には空席ばかりという状況に直面したと不満を漏らしています。

 航空券の価格も同様に大幅な値下げが行われました。旧正月直前の期間中、重慶から上海(シャンハイ)や深セン、天津(テンシン)などへの航空券の価格は200元(約4200円)程度にまで下がりました。また、北京、上海、広州(こうしゅう)など全国主要都市からの多くの便でも同様の割引価格が設定されました。それにもかかわらず、飛行機の利用者も例年と比べて明らかに減少しています。あるネットユーザーは、1ヶ月前に購入したハルビンから海口(かいこう)への航空券が2,500元だったにもかかわらず、数日前に同じ便の価格が1,600元まで値下がりしていたと述べています。払い戻しの手数料が高額であるため、多くの消費者は「損をした」と感じています。

 これに対し、緑皮車は再び多くの人々の第一選択肢となっています。杭州からハルビンまでの緑皮車の切符はわずか200元で購入でき、高速鉄道を利用するよりも大幅に安価です。さらに、高速鉄道は経由地が多く、時間や費用の面で効率が悪いため、多くの人が緑皮車を選ぶようになりました。広州駅では、帰省ラッシュ初日の待合室が例年のような混雑を見せることはありませんでしたが、緑皮車の車両は満席状態で、人々が押し合いながら乗り込む姿が見られました。このような状況は、経済的な厳しさが人々の交通手段の選択に与える影響を如実に示しています。

 経済の低迷は、多くの出稼ぎ労働者に帰省を諦めさせる結果となりました。かつて帰省ラッシュ期間中は人々で賑わっていた駅も、今年は閑散としており、江西省九江市(きゅうこうし)の駅でも人々の姿がまばらです。さらには、高速道路のサービスエリアですら車も人影もほとんど見られない状況で、多くのネットユーザーが驚きを隠せませんでした。工場の閉鎖や操業停止により、多くの労働者が帰省ラッシュ前にすでに地元に戻っているため、旧正月の移動のピークは例年ほど高くなかったのです。

 交通機関だけでなく、旧正月の商業活動も冷え込んでいます。上海、東莞(とうかん)、合肥(ごうひ)といった都市の商業地区や卸売市場はどこも人影が少なく、店主たちは仕入れた商品が売れず頭を抱えています。上海のある果物卸売市場では、店主が大量の在庫を抱えたまま顧客がほとんど来ない状況が続いており、動画でその様子を記録した市民が「完全に閑散としている」と語っています。東莞の広香市場も同様に、多くの店舗が閉店し、街全体が萎縮した雰囲気に包まれています。

 多くの人々が経済的な不安から消費を控えるようになり、旧正月の伝統的な習慣にも影響を及ぼしています。かつて家族や親戚との再会が旧正月の大きな楽しみであったものの、今年は交通費や年貨(旧正月の買い出し)を削減するために帰省を見送る人が増えています。お年玉の額も縮小し、買い物や外出を控える傾向が顕著です。

 2025年の帰省ラッシュは、高速鉄道や飛行機の空席率と緑皮車の混雑度を対比させることで、経済の低迷がどのように社会全体に影響を与えているかを浮き彫りにしました。価格の大幅な引き下げにもかかわらず、多くの人々が出費を控える状況は、経済の回復にはまだ時間がかかることを示唆しています。今回の旧正月は、多くの人々にとって特別な記憶として残ることでしょう。

(翻訳・吉原木子)