近年、中国経済は不景気が続き、消費の低価格志向(いわゆる「消費ダウングレード」)がますます顕著になっています。消費者の購買行動は大きく変化し、これまでのような体裁やブランドを重視した消費から、より理性的かつ実用的な消費へと転換しています。この変化は、個々の消費習慣に影響を与えるだけでなく、さまざまな業界の発展にも深い影響を及ぼしています。

 このような消費ダウングレードの背景の中で、多くの5つ星ホテルが手頃な価格の「残り物ミステリーボックス」(余剰食品ボックス)ビュッフェを提供し、より多くの消費者を引き付けています。「残り物ミステリーボックス」とは、飲食店が賞味期限間近または営業終了前に売れ残った食品をランダムに組み合わせ、ミステリーボックス形式で消費者に販売するものです。多くの5つ星ホテルでは、当日売れ残った高級料理をランダムに詰め合わせて安価で販売しています。たとえば、元値200元以上のビュッフェがわずか79元で購入できます。料理の受け取り時間は通常、午後8時30分から9時30分の間に設定されており、販売数はその日の残量に応じて限定されています。

 深圳市のヒルトンホテルの関係者によると、ミステリーボックスの枠は2〜3個のこともあれば、10個以上になることもあるといいます。中国メディアの報道によると、龍華清湖に位置する5つ星ホテルが提供する「残り物ミステリーボックス」ビュッフェ券が販売開始以来、多くの消費者の関心を集めています。このミステリーボックス券により、消費者は低価格で高品質な料理を楽しむことができる一方、ホテル側も食品廃棄を減らす新たな取り組みを実現しています。

 消費者の体験談も共有されています。たとえば、「白粥」というネットユーザーは、深圳での海鮮ビュッフェは通常200元以上と高額だが、79元のミステリーボックス券を購入することで、200元以上の料理を味わえたと語っています。ボックスには焼きロブスターやアワビのような高級料理は含まれていなかったものの、その他の料理は通常価格のビュッフェとほとんど変わらなかったとのことです。さらに、ホテルは食事時間を厳しく制限せず、サービスも満足のいくものであったと評価しています。

 一部の専門家は、「残り物ミステリーボックス」ビュッフェを5つ星ホテルが不況時に採用した革新的な戦略と分析しています。この取り組みは食品廃棄を減らすだけでなく、ホテルに追加の収益をもたらしています。消費者にとっては、「格安でも質が落ちない」消費スタイルが満足感を与え、さらに5つ星ホテルの雰囲気の中で会合やデート、ビジネス会談を楽しむ利便性も提供しています。

 一部のネットユーザーも自身の体験をSNSで共有しています。例えば、「19.9元でビュッフェ料理が4箱も手に入った。感動的!」という声や、「長沙のホテルでは15.9元でミステリーボックスが提供されており、量も十分で品質も良い」といった評価があります。これらの投稿は「残り物ミステリーボックス」の人気をさらに高めています。しかし、一部の消費者からは異なる意見もありました。中には、ミステリーボックスの料理の品質が不均一で、食事体験がその日の残り物の量次第であるとの声もあり、「難民のように残り物を取り合った」と自嘲する意見もありました。

 消費ダウングレードのトレンドは「代替品」や無印の商品(白牌)の台頭としても顕著です。無印の商品(白牌)とは、ブランド名が付いていない商品であり、小規模メーカーが生産したスマートフォンやPC、その他の製品を指します。ブランド商品の対極に位置するこれらの製品は、実用性を重視した消費者に支持されています。一方、代替品(平替)は、有名ブランドと同様の機能や効果を持ちながら、より安価である製品を指します。また、「廉替(廉価な代替品)」と呼ばれるものもあり、これは高価格帯の商品を安価な商品に置き換えるだけでなく、ブランドへのこだわりそのものを捨てる傾向を表します。

 博報堂生活総合研究所と中国伝媒大学広告学院の共同調査によれば、中国の消費者の80%がすでに消費ダウングレードに陥っていると考えています。この調査では、3000人の中国人を対象にオンラインでアンケートを実施し、42%の回答者が2024年の支出が前年よりも減少したと答えています。支出を削減した主な理由としては、59%が収入や資産の減少を挙げ、47%が周囲の消費習慣の影響を受けたと回答しています。

 この傾向は、消費者の購買決定に直接影響を及ぼしています。多くの人がオンラインショッピングのセールで商品を大量購入することに興味を失い、代わりに安価な代替品や必需品以外の購入を控えるようになりました。たとえば、高価なダウンジャケットに代わり、安価な軍用コートを選ぶ消費者もいます。

 無印商品の市場パフォーマンスは特に顕著です。中国の有名な電子商取引サイトの「拼多多(Pinduoduo)」は、これらの商品を売りにし、ここ数年で50%以上の収益増加を達成しました。無印の化粧品ブランド「海洁娅」は、抖音(Douyin)プラットフォームで月間売上10億元以上を記録し、多くの国際的有名ブランドを上回っています。この現象は、消費者がブランド価値よりも商品の実用性や価格に重点を置くようになったことを示しています。

 消費ダウングレードは、高級品業界にも深い影響を与えています。世界の高級品市場は3,630億ユーロの価値があるものの、ここ数年で最も低迷した時期を迎えています。LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)やケリンググループのような高級ブランドは、中国市場への依存度が高すぎたため、中国経済の減速によりかつてない挑戦に直面しています。不動産危機、失業率の上昇、内需の低迷により、高級品に対する需要が大幅に減少しました。

 ベイン・アンド・カンパニーの推計によると、2024年の高級品業界の売上高は2%減少しました。特に、LVMHのファッションおよびレザー部門の売上高は3%減少し、過去6か月で同社の市場価値が大幅に縮小しました。一方、アメリカ市場では多少の改善が見られます。株式市場の好調やドル高の恩恵を受け、アメリカの消費者は高級品への支出を再び増加させています。しかし、この回復は中国市場の低迷を補うには不十分です。

 今後も消費ダウングレードの傾向は続くと予想され、世界経済の構造に深い影響を与えるでしょう。中国の消費者は、ブランド重視からコストパフォーマンス重視へと移行し、より実用的な消費を選ぶようになっています。

(翻訳・吉原木子)