ここ数年、中国経済は新型コロナウイルス感染症による長期間の封鎖措置、不動産危機の拡大、そして近年の生産能力過剰といった問題に直面し、ますます厳しい状況に陥っています。若年層の失業率は依然として高く、多くの若者が将来に希望を持てなくなりつつあります。その影響で、消費を控え、貯金を優先する動きが広がっています。かつての積極的な消費文化は姿を消し、将来に備えた慎重な生活スタイルへと変化してきています。
中国国家統計局の発表によると、2024年12月時点で16歳から24歳の学生以外の若年層における失業率は15.7%でした。この数値は2024年を通じて若者の失業率が高水準で推移していることを示しています。特に8月には年間最高の18.8%を記録し、6月の13.2%が年間最低値でした。ただし、中国政府は失業率の計算基準を変更しており、その対象範囲を大幅に縮小しています。例えば、週に1時間以上働いている人は失業者に含まれず、さらに学生、農村部の住民、長期間仕事を探していない人も統計から除外されています。
公式データ以外にも、就職情報サイト「智联招聘(ちれんしょうへい)」が発表した報告書では、より実態に近い雇用状況が明らかになっています。同報告によると、2024年の大学卒業生の就職率はわずか55.5%であり、約半数の大学卒業生が職に就けない状況にあることが分かります。この現実は、中国の雇用市場が抱える深刻な課題を浮き彫りにすると同時に、経済環境が若者世代に与える大きな影響を示しています。
こうした状況下で、中国の若者たちの消費行動には大きな変化が見られます。以前のような「爆買い」の勢いは次第に収まり、代わりに「節約」や「貯金」が注目されるようになっています。例えば、中国のSNS「小紅書(しょうこうしょ)」では、節約やお金の管理に関する投稿が150万件以上あり、総閲覧回数は13億回に達しています。また、「微博(ウェイボー)」でも「Z世代(1996年~2010年生まれの若者世代)が早期リタイアを目指して必死に貯金」という話題が約8000万回も閲覧されています。
いわゆる「早期リタイア」とは、一定の資産を貯めた後、シンプルな生活と資産運用を通じて仕事から徐々に距離を置くライフスタイルを指します。このような生き方は、中国の若者の間で徐々に広まっています。26歳の蘇愛茹(そ・あいじょ)さんはその代表例と言えるでしょう。半年前にアリババに入社し、インターネット関連の仕事をしている彼女は、業界の不安定さや将来の経済状況への懸念から、日々の無駄な出費を大幅に削減しました。さらに、長期的な貯金計画を立て、200万元(約4,244万円)を目標としています。これは彼女の月収の約100倍に相当します。
同様の変化は26歳の李莉(り・り)さんにも見られます。彼女は昨年9月から深センで高校の英語教師として働いており、月収は1万元(約21万円)を超えています。しかし、収入が安定しているにもかかわらず、服やコンサートチケットなどの娯楽費を大幅に削減し、給与の80%を貯金に回しています。このような計画的な生活スタイルは、ますます多くの若者たちに支持されるようになっています。
オンライン資産管理ツール「余额宝(よかほう)」のデータによれば、2024年末時点で、2000年以降生まれのユーザーの月間平均貯金回数は20回に達し、2024年5月時点の2倍となっています。また、ユーザー1人あたりの平均貯金額は3000元(約6.3万円)に迫り、前年と比べて50%増加しています。さらに、「後浪研究所(こうろうけんきゅうじょ)」の報告によると、90年代生まれの世代では、毎月貯金する習慣を持つ人の割合が41.7%で最も高く、95年代生まれは40.6%で続いています。こうした傾向は、住宅、医療、老後、さらには失業といった不安に備えるためと考えられます。これらの問題は、中国社会において個人の努力が求められる状況にあるためです。
このような若者たちの行動は、社会全体が将来に対して抱く楽観的な見方が後退していることを反映しています。ジョンズ・ホプキンス大学の経済学教授、孔誥烽(こう・こうほう)氏は、新型コロナによる封鎖、経済の低迷、そして政府によるハイテク企業や民間経済への規制強化が、若者たちに最悪の事態への備えを促していると指摘しています。また、彼は「1978年の改革開放以降、初めて中国社会の楽観主義が失われた」と述べ、この現象が深刻な問題であることを強調しています。
実際、蘇愛茹さんは「経済状況は非常に厳しいと感じています。みんながお金を稼ぐのが難しいようなので、貯金をしっかりすることが重要だと思います」と語っています。同様に、80年代生まれの張さんも「家族の安心感のためには貯金が必要だ。住宅ローンや教育費、親の老後のためにもお金がいる」と話しています。
こうした背景の中で、中国全体の貯金額も記録を更新し続けています。中国人民銀行のデータによると、2024年末時点で住民の貯金総額は151兆元に達し、前年より14.3兆元増加しました。一方で、住民の新規融資額は2.7兆元にとどまり、全体の新規融資額に占める割合は15%で、2013年以来の最低水準となっています。
しかしながら、このような貯金優先の傾向は、経済成長に悪影響を及ぼす可能性があります。多くの専門家は、中国政府が国内消費を経済成長の主要な原動力として期待している一方で、消費意欲の低下が長期的な経済発展を阻害するリスクがあると警鐘を鳴らしています。フランス外貿銀行香港支店のエコノミスト、吳卓殷(ご・たくいん)氏は「需要の低迷が続く中で、企業間の競争は激化し、価格競争やデフレがさらに進む可能性がある。消費の縮小は、中価格帯の商品やサービスの市場に大きな影響を与え、中国経済の成長力を弱めるだろう」と指摘しています。
(翻訳・吉原木子)