2024年12月27日、中国政府は新たに「低空経済司」を設立しました。この新組織は、航空業界における低空域の利用拡大を目指しており、低空経済を「新たな生産力の形態」と位置づけています。すでに中国国内では、国有資本や政府主導の資金がこの分野に殺到し、注目を集める成長産業としての地位を確立しつつあります。一部の中国専門家は、低空経済を「未来産業の新エンジン」と称しています。

 しかし、この取り組みには疑念も多く寄せられています。低空経済とは一体何を指し、どのように実現されるのでしょうか。また、この分野への膨大な投資が果たして成果を生むのか、それとも国家主導の「壮大な失敗」に終わるのか、議論が巻き起こっています。

低空経済発展の計画と政策提案を担う新機関

 この新たに設置した「低空経済司」は、低空経済の発展戦略や中長期発展計画の策定・実施を担当し、関連政策の提案を行う役割を担います。

 いわゆる低空経済とは、高度3000メートル以下の空域を主な対象とし、有人・無人航空機による低空飛行活動を中心に展開される多分野にまたがる経済形態を指します。具体的には、低空インフラ、低空飛行機の製造、低空運営サービス、低空飛行の支援など、さまざまな分野を包括しています。

 中国科学技術省の機関紙「科技日報」は、2024年12月29日付の記事で「低空経済はいつ本格的に『離陸』するのか?」とのタイトルで報じ、低空経済が今年、国有資本や政府主導の基金に最も好まれる産業の一つとなったと指摘しました。記事によると、国有資本や政府投資プラットフォームがこの分野への大規模な投資を進めているとのことです。

国有企業の参入ラッシュ

 最近、中国の多くの国有資本企業が低空経済分野へと続々参入しています。2024年12月20日には、「上海低空経済産業発展有限公司」が設立され、その6つの株主はいずれも上海の有力国有企業です。

 また、12月21日には湖南省で「低空経済発展集団有限公司」が設立され、株主には湖南省内の複数の国有企業が名を連ねています。続く12月24日には、中国郵政集団が無人機会社を設立すると発表しました。

 中国で最初に設立された国資系低空経済企業は、2023年11月に発足した「深セン低空産業発展服務有限公司」で、これは中国初の地方型低空経済国有プラットフォームとなります。

 注目すべき点として、この分野に参入する国有企業は、主に国有または地方投資会社であり、直接的または間接的な投資手法を通じて業界に参加しています。このような動きは、低空経済の発展を加速させるとともに、国有資本の新たな成長分野への注力を象徴しています。

未来産業の新たなエンジンか?

 中国の官製メディア「上海証券報」は2024年12月28日の記事で、中興通訊(ZTE)無線未来研究所主任の崔亦軍(さい・えきぐん)氏の発言を次のように報じました。「低空経済は新質生産力の典型的な代表であり、戦略的な新興産業であると同時に、未来産業の新しいエンジンでもある」

 習近平氏が提唱する「新質生産力」を象徴する「新三種」である電気自動車(EV)、リチウム電池、太陽電池は現在、生産能力の過剰状態にあり、多くの国々からボイコットされています。一方で、これらが中国経済に占める割合は非常に低いのが現状です。

 米国のシンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」の研究員で、中国プロジェクトコーディネーターでもある黄天磊(こう・てんらい)氏は、中国経済成長の原動力は内需、すなわち国内の投資と消費にあると指摘しています。しかし、「新三種」はこの2つの条件を満たしていないため、期待された役割を果たしていないと述べています。

 中国当局が「新三種」の輸出貢献度の増加を繰り返し強調しているものの、国内需要が少ないため、中国の輸出総額に占める割合も小さく、結果的に中国経済全体への貢献も限定的であり、経済を復興させる力にはなり得ないと、黄氏が指摘しました。

 中国の公式データによると、「新三種」の2023年の輸出総額は1.06万億元(約22.8兆円)であり、同年の中国全体の輸出総額23.8万億元(約513兆円)に占める割合は約4.4%でした。

 中国当局が大々的に宣伝する「低空経済」は、「新三種」と比較してGDPへの貢献度がさらに低い状況にあります。中国の公式データによると、2023年の低空経済産業の市場規模は約5000億元(約10兆円)で、GDPのわずか0.4%に相当します。2023年12月に開催された中国共産党中央委員会経済工作会議では、この産業の市場規模を2030年までに2兆元(約43兆円)に拡大し、GDP比1.1%を目指す計画が発表されました。

 しかし、一部の分析家は、低空経済が中国のGDPに占める割合がこの程度では、「未来産業の新エンジン」という評価にふさわしいのか疑問を呈しています。

宣伝の演出か

 「上海証券報」は2024年12月28日付の記事で「低空経済」の模擬シナリオを次のように紹介しました。

 12月21日正午、深セン市のある公園で張さんがスマートフォンを使い、出前を注文しました。その十数分後、無人機が彼の食事を運び、「空から降りてきた」というものです。

 官製メディアはこれを、低空経済が一般市民の日常生活にもたらす利便性を象徴する一例として伝えています。

 このような記事は、宣伝の話題作りに過ぎません。経済が衰退し、失業者が至る所にあふれている現在、配達業は多くの人々が生計を立てるための手段となっています。しかし、無人機による配達が普及すれば、多くの配達員が職を失う可能性があります。

 中国経済が内需不足に苦しむ中、中国当局はいわゆる「新三種」や「低空経済」といった「新質の生産力」に巨額の資金を投入しています。これらは中国経済の復興には全く寄与せず、むしろ私営企業の生存空間を大きく圧迫し、一般市民の雇用機会を減らしています。

トランプ当選が中国の経済政策に与える影響

 アメリカ・スタンフォード大学中国経済と制度研究センターの研究員、許成鋼(きょ・せいこう)氏によると、中国当局が推進する「新三種」は、今後の経済発展の主要分野を先取りしようとする試みであると分析しています。

 グリーン経済とは、環境保護と生態系の維持を目指す持続可能な経済を指します。これは現代の西洋社会において政治的正義の象徴とされており、西洋の政治家たちは、グリーン経済を支配する者が世界を支配するだろうと予測しています。

 そのため、中国当局は太陽電池、電気自動車、リチウムイオン電池を代表とする「新三種」の開発を推進し、この分野で優位に立つことを目指してきました。

 しかし、トランプ氏がホワイトハウスに復帰することで状況は一変する可能性があります。トランプ氏は選挙期間中、グリーン経済を「詐欺」だと断じ、その支援を打ち切ると公約しました。また、アメリカでの石油および天然ガスの採掘を大幅に増加させるとも表明しています。

 現在、アメリカは世界最大の石油生産国であり、2023年以降、液化天然ガス(LNG)の最大輸出国となっています。2023年の輸出量は2018年の3倍に達しており、2030年までにさらに倍増すると見込まれています。

 もしアメリカ政府がグリーン経済への支援を取りやめた場合、中国のグリーン経済関連製品は最大の市場を失うことになります。この状況下で、中国当局が進めてきた「新三種」や「低空経済」が果たして期待される役割を果たせるのか、大きな疑問が残ります。

(翻訳・藍彧)