暦(こよみ)とはカレンダーのことで、お正月グッズの一つです。
年末になると、人々はお正月飾りを飾ったり、カレンダーを新しいものと掛け替えたりして、新たな気持ちで新年を迎えます。
私達は、年、月、日という時間の流れのもとで日常生活を営んでいるため、「暦」は生活の上で欠かすことのできないものです。
しかし、「暦」の恩恵を受けて生活をしていながらも、私たちはこれまで「暦」について考えたことが意外と少なくありませんか?
一、いろいろな暦
暦とは、簡単に言えば、巡ってくる年、月、日、季節を記したものだと説明されています。
暦という漢字は、音読みでは「れき」、訓読みでは「こよみ」となります。
暦には、大きく分けて「太陰暦」、「太陽暦」、「太陰太陽暦」の三種類がありますが、現在、世界中で一般的に用いられているのは太陽暦です。
日本では、1873年(明治6年)から太陽暦を採用するようになりました。
1)「太陰暦」
太陰とは、太陽に対して天体の月を意味する言葉です。
太陰暦は、新月を含む日を1日とし、月の満ち欠けで1か月を定める暦です。月の満ち欠けの周期は約29.5日となり、それを1か月とし、12か月で1年(29.5×12=354日)と定めました。太陰暦の1年は、太陽暦と比べて11日ほど短く、そのズレは33年で約1年の差が生じます。
太陰暦はうるう年を用いない暦で、イスラム社会では現在でも使われています。
2)「太陽暦」
太陽暦は、地球が太陽のまわりを一周する時間を一年とする暦です。
地球が太陽の周りを一周する(地球の公転)のは約365.24日なので、365日を1年とします。端数があるので、4年に一度、ズレを調整するうるう年(一年366日)を設けます。
また、月が地球の周りを一周するのが約29.5日なので、1か月の日数を30日か31日として1年を12か月としています。ただし、太陽暦の場合、暦月の区切りは月の満ち欠けとは関係ありません。
現在世界中で使われているのは、太陽の運行を基に定められた太陽暦です。 私たちが普段「カレンダー」という言葉を聞いて思い浮かべるのは、太陽暦のことでしょう。
3)「太陰太陽暦」
太陽暦と太陰暦を合体させたものが太陰太陽暦です。
太陰太陽暦は、太陰暦と同様に、月の満ち欠けで1か月を定めますが、太陽の動きも取り入れて月日を定めた暦です。
太陰暦の1年は29.5日×12=354日と定めるため、1太陽年(365日)に比べて11日ほど短く、その差は3年でほぼ1か月に達します。太陰太陽暦では、数年に一度1年を13か月(うるう月)にして調整していました。
また、太陰太陽暦の場合、春分、夏至など二十四節気(にじゅうしせっき)を季節変化の指標として暦に取り入れています。二十四節気は、1年の太陽の黄道上の動きを24等分して決められているため、太陽暦の範疇に属します。
二、日本の「暦」
1)「暦」の伝来
暦は飛鳥時代に中国から日本へ伝わりました。百済から学者を招いて、日本で初めて暦が作られたのは推古12年(604年)、今から約1420数年前のことだそうです。
当時使われていたのは、太陰太陽暦でした。
太陰太陽暦は、今から4000年以上も前に古代中国で作られ、利用されていたと考えられています。太陰太陽暦は農耕に最も適している他、その根底にある陰陽五行の思想、天体運行の法則に対する理解、天人合一という古代中国人の価値観も反映されていました。
中国から伝えられて来た太陰太陽暦は、日本の季節に合うように調整されながら、明治6年(1872)の改暦まで約1200年の間、農作業の目安となる暦として日本では使われていました。
2)「新暦」と「旧暦」
現在日常的に使われている太陽暦は新暦と呼ばれています。旧暦は、昔使われていた太陰太陽暦のことを言い、現在使用されている新暦に対する呼び方です。
旧暦という言葉は、広義では、「新暦以前に使われていたすべての暦」を意味しますが、その中でも、改暦直前の「天保暦」を指すことが多いようです。
長い歴史の中で、日本社会は太陰太陽暦を用いていました。明治初期から新暦に移ってしまったものの、太陰太陽暦に基づく伝統行事や習慣、例えば「ひな祭り」、「七夕」、「中秋の名月」などは継承され、今でも人々の生活の中に色濃く残っています。
三、「暦」と「歴」
最後に、暦という漢字の意味合いを考えてみたいと思います。
暦とは、日(太陽)が規則正しく運行することを字義としています。暦について、『淮南子』(注1)巻八「本経訓」には、「星月之行、可以暦推得也」、つまり「暦を以て日月星辰の動きを推測することができる」と書かれています。
暦は私たちの身近な存在ではありますが、太陽や月など天体の運行を究明する奥深い学問でもあるのです。
一方、暦の字形と似ている言葉に「歴」があります。
「歴」は音読みでは同じく「れき」と発音しますが、訓読みでは歴る(へる)となります。『説文解字』(注2)では、「歴は過となり」と説明されています。
歴は、整然とした間隔の歩行(止は足跡)を字義としています。一足一足、一歩一歩の歩みが積み重なって歴史となることを連想させます。
「歴」と「暦」は、意味は異なりますが、時間軸から見れば、繋がっています。
「歴」は現時点よりも「過去」の時間を表現するのに対して、「暦」が未来の時間を表しているように考えられます。
私達は時間の流れのもとで生きています。未来に向かって、現在過ごしている日々は、積み重なってやがて歴史となります。過去、現在、未来は繋がって一体となっているからです。
新年を迎えた今、新しい暦を眺めながら、「未来を期待して、悔しい過去を作らないよう、現在に最善を尽くそう」と改めて思いました。
(注1):中国、前漢の高祖の孫で淮南王の劉安(紀元前179年 – 紀元前122年)が編著した哲学書。現存するもの21巻。
(注2):最古の漢字字典。漢字の原義・成立を説明すること。「後漢(25年〜220年)の作。
(文・一心)