中国では建物が完成しないまま建築業者が先に倒産する事例がたくさん起きていますが、同様の傾向は電気自動車産業でも見られています。最近では、百度(バイドゥ)と吉利自動車が共同で設立した極越自動車が倒産を発表し、波紋を広げています。

極越自動車が「現地解散」

 2024年12月11日午後、極越自動車のCEO夏一平(か・いちへい)氏はオンライン会議の場で、会社の「現地解散」を宣言しました。この発表を聞いた従業員やサプライヤー、そして車の所有者たちは大きな衝撃を受けました。

 極越自動車は2021年1月に、百度と吉利自動車が共同で設立した会社です。百度は自動車製造の許可を持たないため、吉利の製造許可と商標「極越」を利用しました。持株比率は吉利が65%、百度が35%で、北京市に本社を置く中国の自転車シェアリングサービス「モバイク」の共同創業者である夏一平氏がCEOに就任しました。

 百度が人工知能と自動運転技術を提供し、吉利が車両プラットフォームと製造を担うことで、極越自動車は他の新エネルギー車メーカーに比べて圧倒的な優位性を持っていると考えられました。

 極越自動車の夏一平氏はかつて公の場で「極越自動車の目標はテスラに対抗することだ」と語りました。そして同社の「極越07」というモデルを、「テスラがまだ作っていないMODEL 5」と称していました。このモデルには、テスラに由来するデザインが数多く取り入れられ、例として半円形のステアリングホイール、画面操作によるギアチェンジ、ボタン式ウインカー、そしてドアハンドルのない設計などが挙げられます。

 2024年11月、極越自動車は2つの新モデルを発表しましたが、その販売台数は約2500台にとどまり、新エネルギー車の販売ランキングでは22位という結果でした。

極越自動車の倒産原因

 中国メディアの報道によると、極越自動車が突然倒産した原因は、百度が資金を引き上げたことにあるとされています。中国メディア『財新網』の報道によれば、百度は極越自動車に対しさらに30億元(約640億円)を追加投資する予定でしたが、財務監査の結果、極越自動車が70億元(約1500億円)の巨額の赤字を抱えていることが判明しました。これにより、百度は資金の投入を中止し、結果として極越自動車の資金繰りが行き詰まったとのことです。

 極越自動車が巨額の損失を抱えていたこと自体、それほど驚くべきことではありません。自動車産業は多額の投資と高度な研究開発を要する分野であり、初期段階では多額の資金が必要です。製造コストは販売台数が増えるにつれて徐々に下がり、一定の販売規模に達して初めて利益が出る仕組みです。現在、中国国内の新エネルギー車メーカーの多くは赤字を抱えたまま操業している状態です。

 百度は当初からこうした赤字を織り込んでいたはずですが、なぜ、これほど迅速に極越自動車を見限ったのでしょうか?

 その原因は他の新エネルギー車メーカーと比較することではっきり見ることができます。同じく新エネルギー車を製造する小鵬(シャオポン)自動車は2024年の第1四半期から第3四半期にかけて46億元(約990億円)の費用を投じ、約10万台の新車を販売しました。一方、極越自動車は2024年1月から11月の間にわずか1万台余りしか販売できなかったにも関わらず、必要経費は40億元(約860億円)に達していました。

 つまり、支出額がほぼ同じであるにもかかわらず、極越自動車の販売台数は小鵬自動車のたった10分の1でした。他社と比較して販売台数が多い小鵬自動車ですら、2024年の第1四半期から第3四半期にかけては44億元(約940億円)の赤字を計上している状況で、百度は極越自動車への追加投資は割りに合わないと判断したのです。

 激烈な競争の幕開け

 ここ数年の新エネルギー車(EV)の発展を振り返ると、極越自動車の破綻は、新エネルギー車業界で多発する企業崩壊の一例に過ぎないことがわかります。2023年8月17日のBloombergの報道によれば、2019年には中国に500社存在していた新エネルギー車メーカーは、2023年には100社にまで減少しました。さらに、ポータルサイト「搜狐(SOHU)」の2024年11月3日の報道によると、2024年9月時点で、EVを生産している通常の自動車メーカーを除けば、新エネルギー車メーカーはわずか8社しか残っていないとのことです。

 問題なのは、新エネルギー車メーカーの破綻は、多くの消費者に深刻な影響を与えていることです。車は普通の電化製品と異なり、多くの家庭にとって数年分の貯蓄を費やす大きな買い物です。中国自動車流通協会によると、現在、約16万台の電気自動車が製造元を失っており、所有者は部品を買えず修理ができない状況に陥っています。さらに、生産元のメーカーが倒産したことにより、それらの電気自動車は中古車市場で買い手がつかず、資産価値が急落しています。ガソリン車は歴史が長く、部品を入手するのは比較的容易で、修理もそれほど難しくありません。しかし、多くの新エネルギー車は部品の生産量が限られているほか、修理のノウハウが蓄積されていないため、一度メーカーが倒産すると保守メンテナンスができなくなってしまいます。

 小鵬自動車のCEOである何小鵬(かしょうほう)氏は、「2024は中国の自動車メーカーが激烈な競争に突入する最初の年であり、いわば淘汰の年だ」と述べています。そのため、極越自動車に続いて、他の自動車メーカーも破綻するのではないかと懸念されています。

政府補助への依存

 中国の新エネルギー車産業は、中国政府の巨額な財政補助に依存しながら発展してきました。

 2008年10月、イーロン・マスクがテスラのCEOに就任すると、同年に最初のモデル「ロードスター」を発表しました。このことをきっかけに、中国政府は2009年にEV産業を支援することを決定しました。電気自動車の購入をサポートする補助金は2010年から始まりました。

 2015年までの間、新エネルギー車は1台あたり平均10万6400元(約230万円)の政府補助を受けることができました。一方、この数字は2019年になると5万7000元(約120万円)にまで減少しました。巨額の補助金により、中国は世界最大の電動車生産国となり、日本を抜いて世界最大の自動車輸出国にもなりました。政府は新エネルギー車メーカーに直接補助金を提供するだけでなく、購入時の税金を免除する措置も講じています。また、メーカーはさまざまな税制優遇措置を享受することができます。

 1台の新エネルギー車を製造すれば約10万元(約214万円)の補助金を得られるという誘惑のもと、投資資金は次から次へと新エネルギー車産業に吸い寄せられました。

輸出するも利益「ゼロ」

 中国の新エネルギー車(EV)の平均輸出価格は、2021年には1台あたり1.95万ドル(約300万円)で、2023年では2.38万ドル(約370万円)でした。このような価格帯では、輸出したとしても利益を出すことは困難です。

 中国の新エネルギー車メーカーは政府から巨額の補助金を受け取ることで、他国の自動車メーカーから市場を奪ってきましたが、現在では多くの国々から制裁を受けています。欧米諸国が中国製新エネルギー車に対してアンチダンピング措置を講じるなか、中国製自動車の輸出は今後確実に減少するでしょう。

 さらに、中国国内市場も停滞しており、先行きは暗い状況です。経済の大不況に伴い、中国政府の財政補助は枯渇しつつあります。また、多額の資金を持つベンチャーキャピタルも、これ以上の投資を敬遠しており、既存株主も追加投資を躊躇しています。百度が極越自動車から撤退したのも、自社の資金繰りを考慮しての決定でした。新エネルギー車メーカーの赤字が拡大する中で、各社の資金は急速に底をつくとみられています。

 どのメーカーが生き残るのかを予測するのは困難ですが、唯一確実なのは、生産元を失った数百万台の新エネルギー車が道路に取り残された未来が待っているということです。

(翻訳・唐木 衛)