中国の俳優、王星氏が最近ミャンマーのミャワディにある詐欺団地に人身売買されたというニュースが大きな社会的関心を集めています。この事件は、ミャンマーの通信詐欺団地の闇を暴いただけでなく、中国政府がこの種の事件で果たしている役割についての深い議論を引き起こしました。ミャンマー南東部の特殊な地域であるミャワディは、近年、国際的な通信詐欺の中心地となりつつあります。多くの被害者の経験は、この地域が単なる犯罪組織の活動拠点にとどまらず、中国政府との密接なつながりを持つ複雑な利益構造の一端であることを明らかにしています。
2025年1月3日、中国の俳優王星氏は、タイ・バンコクでの仕事の打ち合わせのために向かった後に消息を絶ち、外部の関心を集めました。その後、彼がミャンマーのミャワディ地域にある詐欺団地に拉致されていることが確認されました。家族がネット上で何度も助けを求め、世論の圧力が高まる中、タイと中国政府はようやく行動を起こしました。1月7日、タイ軍は王星氏を無事救出し、彼をバンコクに送り返しました。そして1月10日、王星氏は中国に帰国しました。しかし、王星氏が無事に救出されたことで事件が解決したわけではなく、むしろさらに深い問題が浮き彫りになりました。
王星氏の証言によれば、彼が収容されていた詐欺団地には、50人の中国人が監禁されていたといいます。この情報は、再びミャンマーのミャワディ詐欺団地に対する公衆の注目を集めました。ミャワディはミャンマーのカレン州南東部に位置し、タイとの国境に接しています。この地域は、モエイ川沿いに数十もの詐欺団地が広がっていることで知られています。ここは多くの詐欺グループの拠点となっており、被害者は詐欺の手口に騙されてこの地に連れて来られ、偽投資やギャンブル詐欺、いわゆる「恋愛詐欺(オンライン詐欺を用いて感情を操作し、金銭をだまし取る手口)」などの犯罪行為に従事させられます。これらの団地では、労働を強制されるだけでなく、虐待や拷問も行われており、被害者が逃げ出すのはほぼ不可能です。
王星事件が拡大する中、被害者家族の1人である戴さんが「星星帰国プロジェクト」という救助グループを設立しました。彼女はオンラインフォームを通じて全国の被害者情報を収集し、さらなる救援活動を促進しようとしました。このプロジェクトは公開後、短期間で1,100人以上の被害者家族によって情報が提供されました。しかし、1月11日の夜、このプロジェクトは不明な理由で更新が停止され、その後、海外のGoogleドキュメントに移行されました。1月14日現在、「星星帰国プロジェクト」には1,359人以上の被害者の詳細情報が記録されており、性別、年齢、失踪日、事件の進展状況、家族の要望などが含まれています。
これらの行動と中国政府の態度は鮮明な対比をなしています。中国公安部は世論の圧力を受けて、「国外の詐欺団地を徹底的に叩く」と表明しましたが、実際には多くの被害者家族が訴えているように、事件はほとんど立件されておらず、警察への通報も冷淡に扱われています。
ミャワディ詐欺団地の闇は、犯罪グループだけでなく、その背後にある中国資本の複雑な背景をも明らかにしています。複数の情報筋によれば、これらの団地の運営者はほぼすべて中国人だとされています。貴州省の企業家である幸衛林氏の事例はその典型です。彼は視察の名目でミャンマーの詐欺団地に誘拐され、3カ月以上にわたる過酷な扱いを受けた後、幸運にも脱出しました。彼はインタビューで、「これらの団地の裏で操っているのは例外なく中国人だ」と述べています。さらに衝撃的なのは、これらの団地のインフラ、例えば通信設備や電力供給がほぼすべて中国資本によって提供されているという事実です。このような深い関与は、中国政府がこれらの違法行為を黙認、あるいは支援しているのではないかという疑念を抱かせます。
福建幇(福建省出身者による非公式な組織または集団を指す)勢力と詐欺活動の関係に関する暴露が近年相次いでいます。福建幇は詐欺やギャンブル業界での影響力で知られ、とりわけ東南アジア地域での活動が著しいです。福建省出身の詐欺グループは、地元政府や公安部門との癒着を利用して活動を拡大しており、東南アジアにおいて資金移動ネットワークを構築し、ミャワディ詐欺団地と利益共同体を形成しています。一部の情報筋は、これらの団地で使用される資金が頻繁に動いており、その額は数億元に達すると指摘しています。しかし、一般市民の小額送金が銀行によって凍結される一方で、これら巨額の資金は問題なく流通していることが、銀行システムの内部問題を浮き彫りにしています。
また、一連の情報は中国政府高層部がこれらの活動に直接関与または黙認している可能性を示唆しています。ミャワディにある大規模な詐欺団地であるKK園区の責任者とされる佘智江氏は、その中心人物の一人です。彼は、自らが中国国家安全部の元職員であることを公表し、「一帯一路」構想の下で複数のプロジェクトに関与していたと明かしました。報道によると、佘智江氏は2018年、中国共産党のトップである習近平氏が出席したフィリピンでの国宴に参加したとされています。2019年には、佘智江氏は中国僑商聯合会の常務副会長に就任し、中国メディアのインタビューを受けた際には『中国僑商』という雑誌の表紙を飾りました。
佘智江氏は、ミャンマーの「アジア太平洋新城」プロジェクトの責任者でもあります。このプロジェクトは、「一帯一路」構想の重要な一部とされ、投資額は150億ドルに上るとされています。しかし、佘智江氏によれば、このプロジェクトにはギャンブルや詐欺行為が絡んでいるだけでなく、中国共産党の高層部とも直接的な関係があるとのことです。佘氏は、中国僑聯(海外華僑を支援する中国の団体)と中国国家安全部がこのプロジェクトで重要な役割を果たしており、さらには、東南アジアでの活動を容易にするために中国国籍の離脱を支援してくれたとも語っています。彼はさらに、「もし中国政府が本気で電信詐欺の拠点を取り締まりたいのであれば、これらの団地の通信設備や電力供給を切断するだけで済むはずだ」と指摘しました。しかし、現実にはこれらの団地は依然として円滑に運営されており、中国政府の姿勢に疑念を抱かせています。
王星事件は一応の決着を見たものの、ミャンマー詐欺団地の闇は完全には暴かれていません。被害者家族の努力が続く中、さらに多くの真実が明らかになることが期待されています。
(翻訳・吉原木子)