中国の自動車販売業界はここ4年間で大きな変革を迎え、約8000店舗のディーラーが相次いで閉店または営業停止に追い込まれました。 経済成長の鈍化と消費需要の低迷が影響し、かつては自動車市場の黄金モデルとされた4S店(ディーラーに相当)が、資金繰りの行き詰まりや在庫過多、利益減少といった多重の困難に直面しています。

 中国の「4S店」とは、車両販売(Sales)、部品販売(Spare parts)、アフターサービス、情報提供・フィードバック(Survey)の4つのサービスを提供する総合ディーラーで、ショールームと整備工場が併設されています。一カ所で自動車購入からアフターケアまで対応できる便利な体制が特徴です。

 

ディーラーの閉店が相次ぎ、アウディや紅旗の販売店も苦境に直面

 中国を象徴する「紅旗(ホンチー)」ブランドや、世界的に有名なBMW、アウディといった高級車ブランドのディーラーも含まれます。特に天津市で最大規模のアウディディーラーの閉店は、高額な購入代金の未返金や顧客の権利保護の困難さを浮き彫りにしました。この問題は単なる業界内の危機ではなく、中国経済の深層的な課題を映し出すものとなっています。

 これにより、多くの地域で車両購入手続きが中断される、納車が滞るといった問題が発生し、消費者からの苦情が相次いでいます。
かつては、ディーラーを開設すると、1年で初期投資を回収できるほどの収益を上げるとされていました。しかし、近年ではBMWやポルシェ、メルセデス・ベンツなどの高級車ブランドの販売店ですら、在庫の積み増しや値下げ競争に耐えきれず、閉店を余儀なくされています。

 中国自動車流通協会による統計では、過去4年間で8000以上のディーラーが市場から消え、2023年だけで2540店舗が閉店し、過去最高を記録しました。2024年上半期にはさらに約2000店舗が閉店されています。BMWにしろ、アウディにしろ、その他の高級車ディーラーにしろ、閉店の主な原因は資金チェーンの断裂で、新車販売やアフターサービスの全面停止に至っています。

 最近、天津市内で最大規模を誇るアウディのディーラーが資金繰りの悪化により閉店を発表しました。この店舗の従業員は8月以降給与を受け取れておらず、現在法的手段を模索中です。この問題により、1500人以上の車の所有者に影響が及び、多くの顧客が約80万元(約1700万円)もの車両代金を支払っているにもかかわらず、納車されず、返金も受けられない状況です。

 また、天津では国産車ブランド「紅旗」のディーラーも閉店し、車の所有者による抗議活動が発生しています。紅旗は中共を象徴するブランドとされており、そのディーラーの倒産は中国共産党体制の崩壊を示すものと一部で見なされています。
 
老舗自動車販売業者に迫る破産の危機

 中国の新車市場で価格競争が一段と激化する中、今年1月17日、設立27年の広東永奥投資集団有限公司が資金危機に陥り、複数のディーラーが閉店し、従業員への給与未払いが発生しました。この事件はメディアの注目を集め、不動産大手の恒大集団と同列に語られるほどの衝撃を与えています。

 2023年2月には、自動車業界で20年以上にわたり事業を展開してきた浙江中通集団が破産したとのニュースが伝えられ、傘下の19店舗のディーラーがすべて閉店しました。

 2023年4月には、30年近く運営を続けてきた老舗のディーラーグループである重慶龍華実業集団の店舗が閉店や休業、または譲渡され、多くの顧客が受け取ったメンテナンスサービスや購入した保守契約が履行されない事態が発生しました。

 2023年6月30日には、かつて「ディーラーの王」と呼ばれた龐大集団が上海証券取引所で上場廃止となり、同社の株式は取引終了に追い込まれました。

 中国自動車流通協会のデータによると、2023年に年間販売目標を達成できなかったディーラーは全体の6割以上に上り、23.2%のディーラーは目標の70%にも達していません。
 
価格競争が続く中、ディーラーの利益が激減

 カーディーラーの利益源は主に4つに分類されます。新車販売の売買価格差、アフターサービス(修理・メンテナンス)、派生業務、そしてメーカーからのインセンティブです。

 しかし、複数の業界関係者によると、近年では自動車市場の供給と需要のバランスが崩れつつあり、特に生産台数の増加が需要の成長スピードを上回る状況が続いています。その結果、供給過剰となり、メーカーは在庫をさばくために価格を引き下げざるを得なくなっています。

 2023年3月、東風汽車集団が史上最大規模の値引きセールを実施したのを皮切りに、他の自動車メーカーも次々と価格引き下げに追随しました。BMWの主要車種でさえ、第二四半期に大幅値下げが行われました。さらに、12月末の販売促進キャンペーンでは、約20社のメーカーが車両価格を下げ、ディーラーも期間限定の割引を大幅に拡大しました。

 2024年初頭には、すでに20社以上のメーカーが60を超える車種で多種多様な割引戦略を発表しています。このような価格競争の激化により、ディーラーの利益率はますます縮小しています。

 劉暢氏(仮名)は深セン市にある自動車販売店の共同経営者です。彼は次のように述べています。「現在の自動車市場は非常に厳しい状況にあり、多くのディーラーがメーカーからのインセンティブを受け取っても、赤字で車を売っている状況。もはや車の販売による差益を得ることはできず、アフターサービスや派生サービスの分野で利益を追求するしかない」
 
メーカーからディーラーへの販売プレッシャー

 中国自動車流通協会専門家委員会メンバーの顔景輝氏は、次のように指摘しています。「自動車メーカーは、自社の生産能力をもとに年度計画を立て、それに基づいて生産を行っている。通常、メーカーは高めの販売目標を設定し、それをディーラーに分配する形を取っている。この構造により、メーカー側の販売プレッシャーがディーラーに転嫁されている」

 中山市にある自動車ブランドのディーラー店長である朱茂氏(仮名)は、次のように述べています。「当店では毎月、メーカーから与えられた目標に従って車両や部品を購入することになっている。どれだけの車両を仕入れるかは、店舗側で決定できるものではない。現在、多くの車両が在庫として積み上がり、資金繰りに非常に大きな負担がかかっている。メーカーからのインセンティブは、当店の利益の最も重要な部分を占めているが、目標を達成できなければインセンティブを受け取ることができず、さらに、人気車種の配給が削減される、発注や出荷が遅延するといった罰則を受ける可能性がある」
 
市場の苦境が示す経済の隠れた課題

 経済成長の鈍化と新エネルギー車市場の台頭という二重の圧力により、従来の燃油車市場は大きな苦境に陥っています。ディーラーを中心としたサービス網の大規模な倒産は、自動車販売業界の脆弱性を浮き彫りにすると同時に、中国経済の深層的な問題も映し出しています。

ディーラーの閉店がさらに増える中で、消費者や従業員の権益をどのように守るかが、政府や自動車業界にとって喫緊の課題となっています。

(翻訳・藍彧)