近年、中国では年金の支払いを拒否する若者が増加しており、この現象は社会全体で大きな注目を集めています。通貨デフレーションや不動産危機による経済的打撃を背景に、中国の年金制度は崩壊の危機に直面しています。中国社会科学院は以前から警告を発しており、中国年金の積立金は急速に減少しており、政府の支援があっても2035年までに枯渇する可能性があると指摘しています。
2019年に中国社会科学院が発表した「中国年金精算報告2019-2050」によると、2028年には当期の年金収支が初めて赤字に転落し、その不足額は1,181億3,000万元に達すると予測されています。さらに、2035年までには年金が完全に枯渇する可能性があり、これは80年代生まれの世代がまだ退職年齢に達していない状況を指しています。この世代が引退を迎える頃には、もはや受け取れる年金がない可能性があるのです。同報告はまた、今後30年間で扶養率が倍増し、年金支払いの負担がますます増加すると予測しています。現在では、約2人の支払者が1人の退職者を扶養していますが、2050年にはほぼ1対1の割合にまで減少すると見られています。この深刻な不均衡が、現行の年金制度に対する若い世代の信頼を大きく損なっています。
しかし現在、中国が直面する年金枯渇の問題は、2019年の報告に記された状況よりもさらに深刻かもしれません。その原因は、中国経済の内外環境がここ数年で大きく変化したことに加え、2019年末から始まった世界的なパンデミックが中国経済に与えた甚大な影響にあります。このパンデミックは、多くの工場や企業を倒産に追い込み、大量の失業者を生み出しました。さらに近年、中国当局の対外政策が一段と激化したことで、多くの外資系企業が中国から撤退し、雇用問題はさらに深刻化しています。このような社会的背景の中、多くの人々が自分自身を養うことさえ困難な状況にあり、年金を支払う余裕など全くないのが実情です。
実際、すでに多くの若者が年金の支払いを中止しています。ブルームバーグの統計によれば、現在、数千万人規模の若者が年金の支払いを停止しています。22歳の若者が取材に応じ、「年金基金にお金を払っても意味がない。私たちが退職する頃には、年金はすでに枯渇している可能性が高い」と語りました。また、毎月の支払い額が自身の給与の5分の1に相当するため、「将来の不確実性のために貯蓄するくらいなら、このお金を現在の生活の質を向上させるために使う方が良い」と述べています。このような考えを持つ若者は増加の一途をたどっています。
このような年金制度への不信感は若者に限らず、多くの市民にも広がっています。深セン市の李さんは、自身が年金保険料を一度も支払ったことがないと語り、その理由として資金の行方に対する疑念を挙げました。彼は「お金を自分で管理した方が安心できる」と述べています。また、現在の経済的困難により、多くの市民が基本的な生活を維持するだけで精一杯で、将来への希望を持つ余裕がないと指摘しました。李さんによれば、「経済状況は非常に悪化しており、給与水準は以前の半分以下に下がった」とのことです。それでも生きるために働き続けるしかないと嘆いています。
さらに、中国の人口高齢化問題は年金制度への負担を一層深刻化させています。今後10年間で、毎年2,000万人以上が労働市場から引退すると予測されていますが、新たに労働市場に参入する若者の数は減少を続けています。2035年には、中国の60歳以上の人口が4億人を超え、総人口の約3割を占める見込みです。この膨大な高齢者人口は欧米諸国を大きく上回り、さらに出生率の低下によってその影響は深刻化しています。中国政府は2016年に一人っ子政策を廃止しましたが、経済的負担のため、多くの家庭が複数の子どもを育てることができません。国連は、2100年までに中国の人口が半減する可能性があると予測しています。
年金制度の危機に対応するため、中国政府は近年いくつかの措置を講じています。その一つが退職年齢の引き上げです。昨年9月、男性労働者の退職年齢が60歳から63歳に、女性労働者が50歳から55歳に引き上げられました。これは1978年以来初めての改革でしたが、国民の間では強い不満を引き起こしました。多くの人々は、退職年齢の引き上げが根本的な解決策にはならず、労働市場の競争を激化させるだけだと考えています。
また、政府は年金基金を強化するため、国内資本市場や戦略的分野への投資を提案しています。しかし、中国株式市場が長年にわたり規範的な市場機構を欠いていることから、多くの専門家はこの計画に懐疑的です。年金基金を株式市場に投入することで、危機が緩和されるどころか、むしろ資金の枯渇を加速させる可能性があると指摘されています。
現在の制度において、中国の年金体系には構造的な問題が存在しています。中国問題の専門家である王赫氏によれば、中国の年金は政府が管理する「第1の柱」に大きく依存しており、企業による補助年金や個人年金の「第2」「第3の柱」の規模は非常に小さいとされています。また、「第1の柱」の内部でも大きな不均衡が見られます。官僚の年金額は平均で5,000元以上、都市部の企業職員は2,000~3,000元、農村部の住民に至ってはわずか200元程度です。このような格差が年金制度への不信感を生み、多くの人々が支払いを中止する要因となっています。
さらに、中国経済の低迷も年金制度の危機を加速させています。不動産市場の低迷により家庭の資産が減少し、企業倒産の増加で雇用環境は悪化しています。このような状況下、多くの家庭が年金の支払いを負担できなくなり、財政赤字が一層深刻化しています。
年金問題は高齢者の生活保障だけでなく、社会の安定にも影響を与える可能性があります。この状況が放置されれば、年金制度の崩壊が経済全体や社会秩序に与える悪影響は計り知れません。政府には、制度改革を通じて透明性と公平性を確保し、国民の信頼を取り戻すための緊急の取り組みが求められています。
(翻訳・吉原木子)