近年、中国経済は深刻な不景気に見舞われ、外交面でもアメリカをはじめとする多くの民主国家との対立が顕著になっています。専門家の間では、2024年の中国を「四方に危機が潜み、困難が尽きない」と表現する声が聞かれています。台湾の国立政治大学国際関係研究センターの研究員で、中国問題を35年かけて研究してきた台湾人学者・宋国誠(そうこくせい)氏は2024年12月28日、YouTubeチャンネル「華視三国演義」の番組で、2024年の中国当局が示した10の衰退の兆候を総括しました。
一、習近平の党内地位の弱体化
近年の習近平氏の公の場での姿を見ると、「足取りはふらつき、反応もやや鈍く見える」様子が目立ち、「顔色は真っ赤」という状態です。このことから、健康状態について「赤信号ではないにしても、少なくとも黄信号が点灯している」と考えられます。
習近平氏の表情や態度には「強い不安感、さらには深刻な焦燥感」が顕著に現れています。この「深刻な焦燥感」は彼の周囲にも影響を及ぼしているようです。習近平氏の健康問題は、その権力基盤の危機と密接に関係しているとされています。最近、中国共産党(以下、中共)の軍事専門誌は、習近平氏の中央軍事委員会主席としての責任体制に異議を唱える『集団指導』に関する一連の記事を掲載しました。宋氏は、この動きが習近平氏の権力が疑問視され、挑戦されている証拠であると指摘しています。
二、対外戦略の崩壊
習近平氏が掲げた看板政策である「一帯一路」構想は、各地で計画が頓挫し、未完成のまま放置されるプロジェクトが相次いでいます。一部の国では「反中」運動が発生する事態にも至っています。また、最近の中共の戦略的パートナーは次々と困難に直面しています。ハマスの惨敗、ヒズボラによるイスラエルへの和解提案、イラン自体が存亡の危機に直面しているなどがその例です。特にシリアのアサド政権が崩壊した後、中国共産党がアサド政権と結んでいた秘密協定が次々と明るみに出ました。
宋氏は、「これらの状況は、習近平氏の対外政策がほぼ破綻したことを示している。中には、『今日のアサドが明日の習近平になるのではないか』とささやく声もある」と語っています。
三、地政学リスクの悪化
中共の地政学的状況は急速に悪化し、多くの危機の兆候が現れています。かつて強硬姿勢で知られた「戦狼外交(せんろうがいこう)」は、現在では力を失い「病猫外交(びょうびょうがいこう)」と揶揄されるほどに変化しました。この変化は、中共が国際的な地政学の中で孤立を深めている状況を反映しています。国際社会からの好感度が低下し続け、誤った政策が積み重なる中、中共はかつてない外交上の試練に直面しています。
四、財政赤字の拡大
地方政府の債務問題は、中共の現在の経済運営における主要な課題となっています。しかし、その解決策は、中央政府による予算投入や、新たな借金で旧債務を返済する方法に限られています。最近開催された中央経済工作会議では、2025年の財政赤字をGDP比4%に引き上げる方針が打ち出されました。これは過去に例を見ない高水準です。
五、貧富格差の拡大
貧富の格差が拡大し、社会の安定に深刻な影響を及ぼしています。北京師範大学の中国所得分配研究所のデータによると、中国国内で約9億6000万人が月収2000元(約4万3000円)未満で生活しており、中国の99%の富がわずか1%の人口に集中しています。この不均衡は社会全体に大きな亀裂をもたらしています。
六、国民の財産の縮小
現在、中国の「冷え込む経済」は「経済の完全停滞」に変わり、中国社会における消費はほぼ停止状態に陥っています。国際通貨基金(IMF)の2024年の統計によると、世界で経済先進国に分類される41カ国の中に中国は含まれていません。IMFのデータによれば、中国の一人当たり国民総所得(GNI)は、アメリカの17%、ドイツの25%、日本の34%に過ぎず、国際的な経済地位の低さが浮き彫りになっています。
七、社会階層の分裂
宋氏によれば、従来の社会経済における階層構造、つまり、資本家が投資を行い、中間層が経営を担い、労働者階級が働くという仕組みは、徐々に崩壊しつつあります。各階層間の利益共有メカニズムが機能不全に陥った結果、社会の亀裂が拡大しています。
資本家階層は、資本収益率の低下と国内での競争激化を背景に、資本と産業の国外流出が顕著になっています。一方、中間層は社会の消費を支える主力でありながら、近年の収入の伸び悩みと経済的プレッシャーの増加により、消費意欲が大幅に低下しています。この傾向は、消費全体の需要を弱体化させるとともに、経済の活力を抑制する結果を招いています。これにより、中間層は経済回復を牽引する力として期待できない状況に陥っています。
労働者階級の状況はより深刻です。多くの労働者が賃金未払い問題や失業に直面しており、2023年だけでも4700万人が職を失いました。特に若年層では、都市での生活基盤を築けず、やむを得ず郷里に戻って低欲望の生活を送るケースが増えています。このような「卒業即失業」という現象は、社会階層の分裂を象徴する一例と言えます。
八、米中対立の先鋭化
宋氏は、2025年に米中対立の先鋭化が「中共最大の危機の一つ」となる可能性が高いと指摘しています。特にトランプ氏が指名した内閣メンバーは全員が対中タカ派(強硬派)であり、トランプ氏は中共に対して60%の高関税を課すと表明しています。仮にこの政策が30%のみ実施されたとしても、中国のGDPは0.8%から1%の減少が予測されます。その結果、2025年に中国のGDP成長率が5%に達することはほぼ不可能となるでしょう。
九、レアメタル供給網切断の逆効果
2023年にいくつかのレアメタル輸出を制限した後、2024年9月、中国商務部は再び輸出禁止令を発表し、制限対象となるレアメタルの種類をさらに増やしました。これはアメリカが中共の高性能半導体などの先端技術へのアクセスを制限したことへの報復と見られています。
宋国誠氏は、中共が上流の供給網を切断することでレアメタルの不足を引き起こそうとしているが、それは「人為的な行為による不足」に過ぎず、実際の市場における不足ではないと指摘します。「これまで中共は大量生産で価格を引き下げたため、西側諸国の生産停止や採掘中止を誘発してきた。しかし、中共が輸出を停止すれば価格が上昇し、西側諸国はレアアース採掘を再開したり、代替チェーンへの投資を拡大したりするだろう。このような状況は、中共自身が自らのレアメタル供給網での優位性を失う結果を招く、まさに『自業自得』と言える」
十、政権の正当性への疑念
経済の低迷や社会不安の深刻化といった現実は、中国の経済秩序を脅かすだけでなく、中共の統治に対する正当性をも直接揺るがしています。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の最近の報道によると、あるコンサルティング会社が今年初めに習近平氏向けに作成した報告書で、経済を回復させるための措置を講じなければ、中国がデフレスパイラルに陥る可能性があると強調しました。しかし、習近平氏はこれに耳を貸さず、「デフレの何が悪いのか?物価が安くなるのは皆が喜ぶことではないのか?」と問いかけたとされています。この無知ともいえる態度と軽視は、中国の政策決定層に大きな影響を与え、「デフレ」というテーマを話題にすることさえ避ける雰囲気を生んだとされています。
宋氏は、「習近平氏のこのような態度は、政府の統治能力に対する国民の信頼を間違いなく損ねており、それが中共の政権の正当性をさらに弱体化させている」と指摘しています。
2025年中国共産党のキーワード「衰」
宋氏は、これら10の兆候だけでは中共政権全体の衰退を完全に表現できないとし、「2025年の中共を一文字で表現するなら、それは『衰』である」と締めくくりました。
(翻訳・藍彧)