中国吉林省長春市のあるネットユーザーがこのほど、勤めている会社が給与を現金で支給せず、消費券に置き換えているという不満を、SNSに投稿しました。この消費券には使用期限や使用場所の制限があり、日常生活に大きな不便をもたらしているといいます。この投稿は瞬く間に注目を集め、多くの議論を引き起こしました。また、他の地域でも類似の事例が次々と明らかになり、ショッピングカードやポイントで、給与を代替する企業が存在していることが指摘されています。
1月4日、吉林省のネットユーザーが投稿した内容によると、大衆卓越ホールディンググループ有限公司という企業が、従業員に3カ月間現金の給与を支給せず、代わりに消費券を発行しているとのことです。この消費券は現金として、使用することができず、同企業が運営する商業施設でのみ利用可能で、しかも指定された商品やサービスに限られるといいます。中国メディアの報道によれば、内部関係者はこれらの消費券を、「企業内流通券」と表現し、それが従業員に対する給与として、支給されていることを認めました。年末ボーナスのような福利厚生ではなく、あくまで給与そのものとして、支給されているとのことです。
さらに、記者の調査では、この消費券が5元、10元、20元、50元、100元といった額面で発行されていることが判明しました。券には「重慶路・活力城Mall」や「大衆置業」などのロゴが印刷され、シリアルナンバーも記載されています。また、2024年12月30日に、同企業が発行した「従業員消費券使用細則」によると、これらの消費券は重慶路活力城Mall内の指定店舗、大衆プロパティマネジメントが提供する管理サービス、大衆置業が販売する不動産や、駐車場などに使用可能とされています。ただし、使用期限は2025年12月31日までであり、お釣りは出ない仕様になっています。このような条件付きの消費券が、給与として支給されることに、多くの従業員が不満を抱いています。
《華商報》の記者が1月5日に、この企業に連絡を試みましたが、電話応答は「間違い電話だ」という一言で切られ、それ以降は電話が繋がらなくなりました。また、同企業が運営する商業施設のスタッフによると、消費券を使用できる店舗は限られており、主に飲食店や衣料品店に集中しているとのことです。施設内の提携外の店舗では、消費券は使用できないため、従業員が日常生活で必要とする商品やサービスに、対応できないケースも多いといいます。
この事態はネット上で大きな議論を巻き起こし、多くのネットユーザーが不満を訴えています。あるネットユーザーは「この消費券で学費を払えるのか?ガソリンを入れることもできないし、スーパーでも使えない。本当にふざけている」と怒りを示しました。また、「こうした問題を政府が見過ごしているとは信じがたい。政府がこのような企業を取り締まらないなら、どこに訴えればいいのか」と、政府の対応を批判する声も相次ぎました。一方で、「会社が本当に資金繰りに苦しんでいるからこその苦肉の策だ」という同情的な意見もあり、「こうすることで会社が少しでも存続できるなら、まだマシだ」と擁護する声も見られました。
吉林省以外でも、類似の事例が報告されています。例えば、河南省鄭州市では、ある企業が従業員に対して、ショッピングカードを給与として支給しているとのことです。しかし、このショッピングカードも利用に厳しい制限があり、毎月1日しか使えない上、1回の使用金額にも上限が設けられていました。ショッピングカードが利用可能な店舗も、商業施設内の提携店に限定されており、従業員は使い勝手の悪さに、大きな不満を抱いています。
さらに、江蘇省のハイテク企業では、給与をポイント制に切り替えるという大胆な方法が採用されました。この仕組みでは、従業員は毎日一定数のポイントを獲得しますが、ポイントを現金に交換するためには、企業が黒字化し、十分なキャッシュフローを確保する必要があります。
これらの事例は、中国経済が直面している深刻な低迷を反映しています。企業は収益の減少により経営が悪化し、人員削減や給与削減を余儀なくされています。一方で、労働者は収入の減少により、消費を控えざるを得ず、これがさらなる市場縮小を招いているのです。このような悪循環は、失業率の上昇や生活困窮をもたらし、社会的な不安を増大させています。
このような状況下で、政府の公務員給与引き上げ政策は、さらなる議論を巻き起こしています。2024年7月以降、中国全国で公務員の月給が、平均500元引き上げられ、一部の基層公務員では、900元以上の増加が報告されています。四川省のある公務員は月給が6200元から、7100元に増加したと述べる一方で、広東省恵州市の公務員は、まだ加給通知を受け取っていないとしています。この政策は、地方財政にさらなる圧力をかけ、社会格差を拡大するとの批判が強まっています。
一部の評論家は、この政策が経済回復ではなく、体制の安定維持を目的としていると指摘しています。大紀元のコラムニストである王赫氏によれば、公務員は中国共産党体制を支える重要な柱であり、給与引き上げは彼らを懐柔し、社会不安の抑制を図る手段だとしています。しかし、地方政府はすでに多額の債務を抱えており、加給政策がさらなる財政危機を招く可能性が高いといいます。
これらを踏まえると、中国経済は現在、企業、労働者、地方政府のすべてが厳しい課題に直面しており、今後の政策がどのように展開されるかが注目されています。給与を消費券で代替する企業の実態や、公務員給与の引き上げによる格差の拡大は、中国経済と社会の不均衡を顕著に示しています。経済回復と社会安定を両立させる政策の実現が、今後の最大の課題と言えるでしょう。
(翻訳・吉原木子)