最近、中国では全国的に「口座型」個人年金制度が推進されています。この制度は個人の老後保障を補完することを目的として導入されましたが、多くの人々が懐疑的な態度を示しています。その理由として、経済的な負担が大きいこと、手元の資金に余裕がないこと、さらに政府や銀行システムへの不信感が挙げられます。こうした背景から、この制度の普及には困難が伴っています。さらに最近では、預金者が知らないうちに銀行によって「こっそり」個人年金口座が開設されていたという事例が相次ぎ、大きな注目を集めています。これに対し、ネットユーザーたちは「これは騙せないから直接奪うということか?」と激しく批判しています。
中国の「口座型」個人年金制度は、2022年11月に36の都市と地域で試行され、2024年12月12日には人力資源社会保障部と複数の関連部門が共同で、12月15日から全国的に実施すると発表されました。新華社通信によれば、この制度は政府の政策誘導と市場原理に基づいて運営され、個人が自発的に参加できる補完的な年金保険を提供することを目的としています。また、一定の税制優遇措置が受けられるとされています。現在、個人年金口座の月間納付上限額は1000元、年間上限額は1.2万元で、この金額は税控除の対象となります。中国中央財経大学社会保障研究センターの主任である褚福灵氏は、この制度は既存の年金制度を補完する重要な役割を果たすものであり、特に貯蓄能力を持つ個人に適していると述べています。しかし、実際の運用段階では、多くの問題が浮き彫りになっており、中でも最も注目されるのが「勝手に口座を開設される」という現象です。
規定によれば、個人年金口座は本人の意思に基づいて自発的に開設されるべきものです。しかし、多くの預金者が、自分の知らない間に口座が開設されていたことに気づきました。山東省済寧市の劉さんはその一人です。彼は12月15日、中国銀行から突然「個人年金口座が開設されました」というSMS通知を受け取りましたが、全く心当たりがありませんでした。確認したところ、新しい口座の開設場所が山東省済寧市であることが判明しましたが、彼の銀行カードの開設場所は山東省東営市だったとのことです。同様のケースは広東省で働く李さんにも見られました。彼女は記者に対し、自分と同僚が12月15日に興業銀行から「個人年金口座が開設されました」という通知を受け取ったと語りました。しかし、彼女はそのような申請を行った覚えも、第三者を通じて予約手続きをした覚えもないと明言しました。さらに驚くべきことに、一部の預金者は「複数の銀行で口座を開設される」という事態にまで遭遇しています。あるネットユーザーは、12月15日にある商業銀行で勝手に口座を開設されたためクレームを入れて解約しましたが、翌日には別の国有銀行から口座開設通知を受け取ったと訴えています。
こうした一連の事件の背景には、銀行職員の業績評価に対するプレッシャーがあるとされています。業界関係者によると、多くの銀行支店では、上層部から指示された個人年金口座の開設目標を達成するために、顧客情報を無断で使用して口座を開設しているといいます。ある銀行職員は、12月15日以降、彼女が勤務する支店では毎日一人あたり5件の口座開設を達成することが求められ、達成できなければ残業して顧客を探さなければならないと語りました。目標を達成するために、彼女は自費で1件あたり30元の謝礼を支払い、顧客を引き付けているとのことです。
この現象に対して、世間の反応は怒りと諦めが入り混じっています。多くのネットユーザーはSNS上で「これはまるでポンジ・スキームだ」「顧客をカモにして搾取している」と批判しています。また、「基本的な年金保険料すら払えない人がどうやって個人年金を積み立てるのか?」という現実的な意見や、「大多数の人々にとって良いことだと言われる政策は、必ずどこかに大きな落とし穴がある」という皮肉も見られます。こうした事件が続くことで、銀行や政策に対する信頼が大きく損なわれています。
一方で、法律の専門家もこの現象に対して明確な見解を示しています。広東省の有名な弁護士である劉天軍氏は、銀行が顧客の個人年金口座を開設する際には、事前に顧客の同意を得る必要があると述べています。もし無断で顧客情報を使用して口座を開設した場合、それは法律や規則に違反し、顧客の基本的な情報権利を侵害する行為に該当します。さらに、劉弁護士は、法律に基づき銀行はその行為が顧客の真意に基づいていることを証明する責任を負うと強調しました。顧客が銀行の一方的な行為で口座を開設されたことを証明できれば、銀行は責任を取るだけでなく、顧客が簡単に口座を解約できる手段を提供する必要があります。
また、一部の銀行や第三者が顧客の許可を得ずに口座に資金を振り込み、解約を難しくする行為も世間の不満と法的論争を引き起こしています。劉弁護士は、このような行為は典型的な規則違反であり、顧客の権益を侵害するだけでなく、銀行や政策に対する信頼をさらに損ねると指摘しています。彼は監督機関に対し、このような行為に対する審査と監視を強化し、銀行が法律を遵守し、顧客の権利を尊重するよう求めています。
一部の分析家は、個人年金制度の推進自体は本来、より柔軟で多様な老後保障を提供することを目的としていたと述べています。しかし、最近の「勝手に口座を開設される」という問題を受け、この制度が実際に人々に利益をもたらすどころか、運用上の不正や執行の問題によって信頼を失っていることが明らかになりました。政策決定者にとって、いかに新しい政策を進める際に監督を強化し、実行段階での適法性と透明性を確保するかが非常に重要です。もし制度が「人本主義」に基づかず、政策目標の数値的な達成のみを追求するような状況が続けば、国民の支持を得ることは難しくなり、最終的には政策の初志を損ね、失敗に至る可能性があります。
(翻訳・吉原木子)