中国では経済の減速が続き、地方政府の財政難が深刻化しています。その影響で、公務員の給与削減や未払いが相次ぎ、警察を含む一部の職員は基本給すら受け取れない状況に直面しています。特に中西部の省や経済発展が進んだ沿岸部でも問題が広がり、官民対立や社会不安が顕在化しつつあります。
警察署が給与を支払えない現状
中国では2022年以降、経済発展が著しい南東部の沿海部を中心に公務員の給与削減が相次ぎ、ボーナスや手当が大幅に削減されました。しかし、中国経済が下降の一途をたどる中、中西部の省では警察署の警察官を含む公務員が給与を受け取れないという深刻な事態に陥っています。
湖南省の陳さんは、現在警察署向けのサービス業務に従事しており、警察署内部の状況について詳しい立場にあります。陳さんは大紀元の取材に対し、次のように語りました。「現在、中国の各地方政府が債務を抱えており、多くの地方政府では職員への給与すら支払えない状況だ。政府の予算はますます厳しくなっている。警察署でサービスを提供している際、当直の職員が『あなたたちの方が自由でいいよ。私たちは残業しなければならない』と言った。私が『残業代が出るだろう?』と尋ねると、『何もないよ。何カ月も給料が支払われていない』と答えた。さらに、警察職員たちは不満を抱えていても、それを外で話すことは許されない。ましてや、SNSで発信することもできない。もし発信すれば『政治規律違反』とされ、即座に解雇される。政府はこうした問題を国民に知られたくないからだ」
中国の政治・経済に詳しい羅さんは大紀元の取材に対し、「警察署が給与を支払えない可能性は非常に高い。私の江蘇省(こうそしょう)泰州市(たいしゅうし)に住む友人によると、泰州市政府の多くの部署が現在給与を支払えず、給与削減や人員削減が行われている」と指摘しました。
米国在住の人権派弁護士、呉紹平(ごしょうへい)氏は大紀元の取材に対し、次のように語りました。「中国当局の財政状況は非常に悪く、今年は多くの地方公務員が減給もしくは給与未払いの状況に置かれている。全国各省の財政収入は基本的に赤字であり、湖南省も例外ではない。警察が給与を受け取れない可能性は高く、既に多くの地域で同様の問題が報じられている」
輸出加工業や大型の基幹産業の欠如により、中国の中西部省にある一部の地方県・市では、不動産の影響を大きく受けています。中国の不動産業界の破綻は、これらの地域の財政危機を直接的に引き起こしました。
2022年以降、山西省、青海省、内モンゴル自治区、湖南省などの中西部省では財政危機を緩和するため、いわゆる「人口の少ない県における機構の簡素化改革」を推進してきました。また、2023年3月以降、中国当局は行政機関や事業単位において、衛生部門や教育部門を主な対象にした非正規雇用者の解雇を始めました。この動きは補助警察官や都市管理職員にも影響を及ぼしています。
全国的な給与削減、広東省も例外ではない
2014年以降、中国の公務員給与は大幅に増加し、特に基層の公務員において、職務給与の増加率は60~70%に達しました。毎年または2年ごとに給与が引き上げられていました。2016年と2018年には公務員給与が予定通り引き上げられましたが、2020年になるとその傾向が逆転し、給与削減の波が広がり始めました。現在では、発展した経済大省である広東省でさえも給与削減の圧力に直面しています。
海外に居住する白さん(女性)は今年初め、大紀元に対して、沿海部のある都市の警察署の副所長から「警察全員が給与を削減された」と聞いたと語っています。
情報筋の曾さんは大紀元に対し、広東省梅州市(ばいしゅうし)政府の内部文書によると、政府は毎年、公務員の給与を年6カ月分、可能な限り年8カ月分の支給を保証すると述べました。
曾さんはまた次のように語っています。「現在、あらゆる業界が非常に厳しい状況にあり、物が売れない。私の知り合いにも飲食業をしている人や卸売・小売業をしている人がいるが、今年は全員が苦境に立たされており、損失を出している。個人の建設業もほぼなくなり、以前、この地域では数人の小規模請負業者が個人の住宅建設を手掛けていたが、今ではほぼ仕事がなくなっている。また、個人でレンガや砂、建材を運ぶトラック運転手もほとんど仕事がなく、仕事を得たとしても報酬を受け取れないことを恐れている」
警察が収益手段に
地方政府の収入を増やすため、警察による罰金収入を目的とした違法な取り締まり(おとり捜査)や、ドライバーや街頭の露天商に対する高額な罰金を課すニュースが頻繁に報じられています。
中国メディア「第一財経」の報道によると、2023年には16省のうち7省で罰金や没収による収入が大幅に増加しました。特に重慶市と北京市では、それぞれ22.4%と21.9%の増加を記録しています。さらに、多くの地方政府が罰金記録の公表を停止しています。
河南省の範さんは大紀元に対し、次のように述べました。「現在、多くの人が健康保険に加入していない。小さな病気ではほとんど使えず、大きな病気では十分な保障が得られないと感じているからだ。さらに、政府は現在、医療保険から収益を得ようとしている。保険料が毎年引き上げられている。一部の地方政府では、健康保険料を支払わない人の子どもは学校に通えないと規定している。今では警察車両が毎日のように稼働しており、政府は警察を使って人々から金銭を巻き上げている。以前は軽微な違反で行政拘留にとどまっていたものが、今では刑事拘留に切り替えられるケースが増えている。刑罰に値しない場合でも数カ月間拘留されることがあり、警察による金銭徴収の網がますます広がっている。そのため、拘置所に収容される人がここ数年で増加しており、警察は逮捕数にノルマがあるようで、逮捕を通じて報酬を得ている。警察は拘束された人々に家族から保釈金を支払うよう促す」
範さんは、地方政府の財政難を背景に「警察が金を稼ぐために事件を奪い合うような状況も発生している」と語り、その例として雲南省普洱市(ふじし)の女性を挙げました。この女性の彼氏は以前、ミャンマーで事業をしており、彼女の身分証明書を使ってクレジットカードを作成したが、警察が「資金が不正である」として捜査しました。その後、この女性は河北省の警察に逮捕され、その後河南省の警察も事件に関与しました。両省の警察が事件を取り扱おうと争った結果、最終的に河北省警察が彼女を河南省警察に引き渡しました。一方、男性は河北省で拘留されました。
範さんは「低層庶民は政府にとって搾取対象として扱われており、いわば『ニラ刈り』のようなものだ。そのため、官民の対立がますます深刻化し、悪質な事件が頻発している」と語りました。
呉紹平氏は次のように指摘しました。「警察を含む治安維持の職員も生計を立てる必要がある。そのため、もし給与が支払われなくなれば、二つの影響が考えられる。一つは、彼らが仕事に対してやる気を失い、業務が滞ることである。もう一つは、地方政府が彼らに独自に収入を得るよう指示し、給与問題を解決させることである。その結果、不当な罰金や徴収が増加する可能性がある。別の可能性として、政府が治安維持にかける支出を削減する場合がある。この場合、権利擁護活動を行う国民が迫害を受けるといった事態が減少するかもしれない。しかし、もし中国当局の基層公務員に給与が支払われない状況が広がれば、中国共産党政権の不安定性が間違いなく増すであろう」
(翻訳・藍彧)